耳と尻尾の見えるメガネ

獅子吼れお

耳と尻尾の見えるメガネ

「すごい、本当に耳と尻尾が見える!」


 メガネをかけると、文化祭を行き交う様々な人……男性も女性も、同級生も先生も、みんな動物の耳と尻尾が生えている。ように見える。これはすごい!


 文化祭の前日、怪しげな露天商から買ったメガネは、通して見た人に動物の耳や尻尾が生えて見えるというものだった。人の気持ちや表情を読むのが苦手な僕には、このぐらいわかりやすいほうがありがたかった。これなら、あの子の気持ちだってわかるに違いない。

「おはよう!準備すんだ?」

「あ、お、おはよう」

 早速声をかけてくれた、この子。誰にでも明るく接する、クラスの人気者。僕はこの子が好きだ。だから、彼女の気持ちが知りたい。そんな藁にもすがる思いで買ったメガネなのだ。

 結果、メガネごしの彼女は……。

「……どうしたの?あたしの仮装がかわいくて、見とれちゃった?」

 メイド風のコスチュームに、犬の耳。スカートの上から尻尾がぶんぶん振られている……ように見える。(うちのクラスは仮装して喫茶をやるのだ)この反応はうちの犬が嬉しい時と同じだ。ちょっと試してみるか。

「うん、すごくかわいいと思う」

 普段はしないような、歯の浮くみたいな返答。すると……。

「え、ちょっと、て、照れるなあ……」

 本当に照れてるような顔で、尻尾はさらに振られている。犬が照れることがあるのかはわからないけど、概ね『嬉しい』の方向性だろう。

 これは……僕のことが……本当に……好きなのでは?

「そ、そういえば君の仮装もすごいね。かなりリアルじゃない?どうなってるの、それ」

「ああ、これね。姉さんがこういうメイクが得意で」

 僕は彼女に、自分の衣装を見せた。顔に縫い目みたいな特殊メイク?をしてもらって、最後に家で見たときにはかなりの出来栄えだったと思う。

「へえ、今のメイクって、そんな動かしたりもできるんだ。あとでみんなにも見せてあげなよ!きっと驚くよ」

 ……動かす?そんなギミックはないはず。

「ほら、似合ってる」

 彼女がスマホをとりだして、インカメラで僕を写してみせた。

 そこには、フランケンのメイクと……ぴょこぴょこ動くキツネの耳。

 メガネを通して見る、ということは、メガネの向こう側からも、耳と尻尾がついて見えるということだった。

 僕は急に恥ずかしくなって、思わず耳を……キツネの耳をおさえた。

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