めがねで変わる恋ならば【KAC20248】

かがみゆえ

めがねで変わる恋ならば

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 物心ついた頃から私は眼鏡をかけていた。

 父方の親戚の殆どが子どもの頃から眼鏡をかけている。

 父も眼鏡をかけていて、私の視力が悪いのは確実に遺伝だった。

 でも、眼鏡をかけていればきちんと見えている。

 湯気とかで眼鏡が曇ったり、お風呂に入る時やメイクをする時とかで苦戦することもあるけど、こればかりは模索して自己流で対処するしかない。


 親戚のお姉さんから『コンタクトにしちゃえば楽よ』とアドバイスを貰った。

 だけど、私は目の中に異物を入れるのが怖かった。

 親戚のお姉さんには『最初は怖いけど、慣れちゃえばこっちのものよ』と言われたけど、怖いものは怖い。

 たまたまテレビ番組で目に関する怖い話を見てしまったのがいけなかった。

 内容は思い出したくないから伏せさせてもらう。





 私は高校生になっても、眼鏡をかけていた。

 父も母もコンタクト賛成派だったけど、私は眼鏡をかけ続けている。


 眼鏡女子も眼鏡男子も珍しくないと思うけど、何かとコンタクトにしないのかと聞かれることがある。

 その都度、眼鏡派であることを伝えると大抵の人はそれ以上眼鏡について絡んで来ることはない。

 だけど、


「なぁなぁ、眼鏡ザル。お前、コンタクトにしねぇの?」


 いちいち絡んで来る人もいる。

 今、声を掛けて来たのはクラスメートのタカハシだ。

 図書室で読書してるのに、邪魔しないで欲しい。

 読書が苦手なタカハシが図書室にいるなんて珍しい。


「コンタクトにはしないよ。眼鏡ザルって呼ばないで」

「えぇっ、なんでだよ? せっかく可愛い顔してるんだからコンタクトにしようぜ~。痛っ!」


 タカハシが私の眼鏡に手を伸ばして来るから、叩いて阻止する。


「眼鏡に触らないで」

「じゃあ、眼鏡取ってみろよ。眼鏡ザルが裸眼で自分の顔が確認出来ないなら撮影して見せてやるよ」

「結構です」


 私がコンタクトにしないと何度言っても、タカハシはコンタクトにしろとしつこい。

 初めて言われた時は眼鏡を取られて、なかなか返してくれなくて困った。

 最初は私のことをヤマザキさん呼びだったのに、今では眼鏡ザル呼びだ。


 小学生の時もいたけど、どうして眼鏡をかけている人を『眼鏡おんな』や『眼鏡ザル』などとあだ名をつけるんだろうか?

 眼鏡をかけている人は必要だから使用しているのに、どうしてそんなあだ名をつけられなければならないんだろうか?

 私にはさっぱり分からない。


「あのさぁ~」

「なに?」

「眼鏡ザルって彼氏いんの?」

「いない」

「だよなー!」


 何がおかしいのか笑い出すタカハシ。

 彼氏いない歴イコール年齢だけど何か?

 あと、図書室ではお静かに。


「なぁ、そんなんで彼氏なんて出来るわけねーべ」


 彼氏がいなくて困ったことはない。

 好きな人はいた時期があったけど、いなくなってしまった。


「コンタクトにすれば彼氏出来るチャンスがあるのに、なんでコンタクトにしねぇの? 自分からチャンスを棒に振ってバカじゃね?」

「タカハシくんには関係ないでしょ」


 私に彼氏がいないことはタカハシには一切関係ないことだ。


「察しがわりぃなぁ」

「何が?」

「眼鏡ザル、顔は可愛いって言ってんだろ。コンタクトにしたら彼女にしてやっても良いぜ?」

「は?」


 私がコンタクトにしたら、タカハシの彼女になれるって?

 なにそれ?


「悪くない話だろ? 喪女で眼鏡ザルのくせにイケメンで人気者の俺が彼氏なんて、鼻が高いだろ。な?」


 確かにタカハシはイケメンだ。

 コミュ力も高くて、友だちも多い陽キャだ。

 女子たちから彼氏にしたいランキングで名前が出ている。

 その『な?』は私の了承待ちか?


「私、コンタクトにはしないよ」

「は?」

「タカハシくんって、女の子はみんな自分の思い通りになると思ってる?」

「いきなりなんだよ?」

「どうしてタカハシくんの彼女になるために、わざわざコンタクトにしなきゃいけないの? 私、目の中に異物を入れるのは怖いって前に言ったよね? 怖い思いをしてまで、彼氏は欲しくないよ。眼鏡で変わる恋なら、私はいらない」

「彼氏の好みになろうと努力するもんだろ」

「そもそもタカハシくんと付き合うつもりはないから、努力する必要はないかな」

「えっ!」


 どうして驚いているんだろうか?


「ねぇ、タカハシくん? タカハシくんはしつこい人に好感って持てる? 止めてって言っても、“眼鏡ザル”って変なあだ名で呼ぶ人を好きになると思う?」

「それは……」

「いくら顔は可愛いって言われても、私はドMじゃないから無理だな」


 恋愛メーターがあるなら、タカハシはマイナスだ。


「タカハシくん。私ね、あなたのこと好きだったよ。みんなに優しくて人気者のタカハシくんはかっこ良かった。でも、嫌なことしてくるあなたには幻滅しちゃった」

「え……」

「これ以上しつこくするなら、担任に報告させてもらうね。コンタクトにしろって言われて断ってまた言われて説明しての繰り返しでイライラしてるの。今、喋るのも生理的に無理なの」

「め……ヤマザキさ、ん……」


 なんでショック受けた顔になってるの?

 私にありがたいアドバイスをしたつもりだった?

 久しぶりにヤマザキさんって呼んでもらえたな。


「眼鏡女子は私の他にもいるから、その子たちに言ってあげて。じゃあね」


 今日はもう読書する気分ではなくなってしまった。

 私は読んでいた本を片付けて、図書室を後にするのだった。





.





 次の日、タカハシくんが好きだった子にフラれたという情報が入った。

 誰彼構わず女子へ彼女にしてやるって言っていれば、本命にフラれても自業自得だと私は思うのだった。


 - END -






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