眼鏡を外して
川木
軽い気持ちで眼鏡を外させようとしてはいけない
「ねぇ、いいじゃん。ちょっとだけ、眼鏡外した顔見てみたいなーってだけ。一瞬だけでいいからさー」
隣の席の安藤さんがそう冗談半分でふざけながら手を伸ばしてくるものだから、いらっとした。
なのでつい、私は安藤さんの胸ぐらをつかんで引き寄せながら眼鏡を外して顔を寄せ、勢い余って頭突きをして額をつきあわせながら、相手にだけ聞こえる声で言った。
「死ね」
手を離して眼鏡をかけると呆然としたような顔が見えて、いい気味だ、と、少しやりすぎたかも知れない、の二つを思いながら私は席をたった。
〇
隣の席の委員長は、綺麗な黒髪で、眼鏡をかけていて、いかにもな見た目だ。委員決めの時も同じ中学の子から推薦されてた。
連絡先の交換はしているけど、学校で授業の合間の中休みに話をするくらいの仲で、夏休み中に会うことはなかった。
そして夏休み明け。始業式も終わり、帰ろうと鞄を持ちながら立ち上がった拍子に隣の席のいいんちょと正面から顔を合わせ、はっと気づいた。
「あれ? いいんちょ、もしかして眼鏡、変えた?」
「え? ああ、意外と目端がきくのね。以前のは度が合わなくなったから」
「へー……ねぇいいんちょー、眼鏡とってみてよ」
「嫌」
即答されてしまった。だけどそうなると、単なる思い付きがすごく見てみたくなってしまう。
「えー、いいじゃん。ちょっとだけ、お願い」
「嫌、と言ってるの。しつこい」
「ねぇ、いいじゃん。ちょっとだけ、眼鏡外した顔見てみたいなーってだけ。一瞬だけでいいからさー」
お願いしながら一歩近寄り、その顔に手を伸ばし
「!?」
首元を掴まれて引っ張られる。がつん、と頭がぶつかる。痛くてくらくらする視界の中、委員長の顔が目の前にある。
「死ね」
そのまっすぐな目に、委員長の冷たく突き刺すような言葉に、私は心臓を貫かれた。完全に惚れた。自分でもびっくりするくらい、ドキドキしてる。今見た顔が頭から離れない。だけど、ああ、最悪だ。絶対に嫌われた。
眼鏡を外して 川木 @kspan
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