侵略するメガネ
ろくろわ
あれ?もしかして。いや、もしかしなくても!
朝から言い様の無い違和感を感じたまま、出社した私、
正井さんの自慢は、よく冗談で二キロ先の看板が見えるマサイの戦士と言っていた程、視力が良かったことだ。それが今日は眼鏡をかけてきていたのだ。確かに目が良い人が眼鏡をかけてきただけなら、違和感はあっても異変とは感じなかっただろう。
よく、私服の色が数人被り今日は何だか皆、赤いなぁとか、花粉の飛ぶ時期に眼鏡をかける人が増えることはある。だけど今日出社してきた同僚が全員眼鏡をかけていたら、それを偶然と言うには余りにもおかしかった。更にその中には正井さんもいる。
私は朝から感じていた違和感の正体にも気が付いた。それは乗っていた電車の乗客も皆、眼鏡をかけていた事だ。だけど私は異変を感じても、どこかでまだ大丈夫だと危機感を持っていなかった。だから純粋な疑問として正井さんに話しかけたのだ。
「正井さん、視力は良いって言ってませんでしたか?今日は眼鏡なんですね」
そんな私の問いに正井さんは作り物の仮面のような笑顔を浮かべ眼鏡を触りながら答えた。
「アア、サキミさん。メガネはイイデスヨ。ワタシもハジメてツカイマシタガ、サイコウです」
どこか正井さんの台詞は作られたようなものだった。そしてそのまま、私の肩を掴み眼鏡越しに私の目を見てきた。
「ソンナ、サキミさんにメメ寄りなジョウホウがありマス。ジツはこのメガネは軽量フレームで」
私は正井さんの言葉を最後まで聞かずに自分の席に戻った。なんだよ
やっぱりおかしい。
私は改めて同期の姿を見て、もう一つの事実に気が付いた。元々眼鏡だった同僚の眼鏡の種類が違う。例えば赤いフレームが似合っていた
そして遅れてくる同僚達も皆眼鏡をかけている。流石に異様な光景だ。私はここから逃げようと立ち上がると部署にいる全ての眼鏡が私を見てきた。
逃げられない。
そんな恐怖を感じている時だった。
出社してきた最後の同僚、
「花緒さん!大変なんです。皆眼鏡をかけているんです」
「ちょっと落ち着いて咲見さん!眼鏡がどうしたの?」
「見てください!私と花緒さん以外、皆が眼鏡をかけているんです」
「どういう事?貴方も眼鏡をかけているじゃない。そして私も貴方と同じ眼鏡をね」
花緒さんに言われて、私は自分の目元に手を当てた。
そこには超薄型軽量のかけた事を忘れる最新の眼鏡『天使のフレーム』の感触があった。
同僚達はニヤリと笑い一斉に声をあげた。
「眼鏡なら天使ビジョンへ」
ってコマーシャル企画案を部長に出したんだけど、怖いからって却下されたんだ、と営業企画部の咲見輝はボツになった企画案を丸めてゴミ箱に投げ捨てた。だが、彼女の目には、かけている事を忘れさせてくれる天使のフレーム眼鏡が次のコマーシャル企画を見据えさせてくれていた。
了
侵略するメガネ ろくろわ @sakiyomiroku
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