第27話 奴隷

 美味しくはなかったが、飲めないことはなかった。

 炭酸が強いという印象が、ほとんどだ。甘味が欲しいけれど少しの苦味がある。150mlくらいあった量を飲み干すにた後はデカいゲップが出る。


「‥‥‥普通に捨てれば良かったじゃん」


 そう気づいたけれど、もう遅い。よく分からない液体は私の胃に流し込まれた。


 まあ、過ぎたことはしかたがない。今は眼球のことを考えよう。

 確か、塩素とか抗生物質とかの液体が必要なんだっけ?

 そういえば、私が住んでいた城には薬剤師がいる化学室みたいな部屋があったはずだ。既視感があるこの建物にも存在するかもしれない。


「ユメ。私ちょっと城を散策してくるね」

「え? 今更?」


 怪訝な声が飛んでくる。

 丁寧すぎる話し方が少し苦手だったから、この荒い言葉遣いが少しだけ嬉しい。なんか、「友達!」って感じがする。


「うん! いってきます!」


 軽くスキップしながら移動する。


「ふんふーん♩」


 微妙にズレている鼻歌を歌う。楽しい。

 え? なんか楽しいぞ? すっごい楽しい! ヤバい! 楽しい!!


「ハーン! はっはーん!! ヘイ! ヘイ! ヘイ!」


 意味のない音を発して、出鱈目に踊る。

 あー。本当に楽しい。



\

[ユメ・クラマン]


 推しの様子がおかしかった。


 いつも論理的で、クールな雰囲気が魅力的な女性であるエミリーさんだったが、先程の発言したはおかしかった。

 っていうか、いきなり目玉を狙いにきた辺りも常軌を逸していた。エミリーさんのために、ガキとの相打ちを覚悟していたのだが、無駄に終わった。

 「私が守る」なんて、おこがましい決意だったのかもなぁ。


「‥‥‥」


 左目を綺麗に切り抜かれたガキの顔は、涙とヨダレでメチャクチャになっている。微かに吐息が聞こえることから、まだ生きていることが分かる。

 ここまで殺すべきなんだろうが、こいつを飼い慣らせたら相当な戦力になる。おそらく、純粋な戦闘強なので、私達についてくれば効率的に強い令嬢や化物と殺し合えることを証明できればコマにできるはずだ。


「‥‥‥」


 本当に少しだが、衣擦れの音がした。


 意識を取り戻したなら、ヨダレを垂らしっぱなしなのを気持ち悪く感じて拭いたりするだろう。しかし、先ほどの音以来、全く動く気配がない。

 ちょっと、カマをかけてみるか。


「おい。起きてんだろ」

「‥‥‥なんで殺さないの?」


 観念したように口を動かした。右眼は閉じたままだ。

 ここで甘い言葉をかける選択肢もあったが、あいにく私はそういうのは苦手だ。もし、逆上して襲いかかってきても、さすがに返り討ちにできるだろう。


「私達の奴隷になってほしいから」


 我ながら、酷い言葉選びだと。しかし、これから結ぼうとしている関係としては、これが最も適した表現だと思うのだ。


「‥‥‥アハ。結局か」


 よく分からない返事。


「良いのか? 悪いのか?」


 もっと、ストレートに言ってもらわないと分からない。


「良いよ。どうせ私は奴隷になる運命なんだ」

 

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