第2話 召喚師の少年②

「ニャハハハハハハ♪」


 この声は、知っている。恐らく学校にいる者なら誰でも知っている。


「ドライブを楽しんでいたのに何をしておるのだ?」


 小柄な体にバターケーキの様な主張の強いクリーム色の髪、トレードマークの猫耳型の光り輝くティアラを付けた、魔法学校最強の存在。


「あなたは……」


 少女たちの顔もみるみる青く染まって行く。


「そう……私は、魔法学校最強の存在にて超絶可憐な美少女……七都名ななつなナーナだあああああああああ♪」


「自分で言うんだ」

「「「「自分で言うんだ」」」」


 思わず少女たちと意見が一致してしまった。

 仰る通りのナーナ先輩である。

 きっと火球ファイアーボールから守ってくれたのだろう。

 何が起きたのか全く分からないけど。


「助けてくれてありが……」

「おい!お前ら何事だ!」


 言葉を遮る形でナーナが言い放つ。

 ナーナはキッと少女達を試す様な顔つきで睨みつける。


「わ……私たちはそこの変態を懲らしめようとしただけですわ」


 今度はナーナがボクの方を振り向く。


「なんだ、お前、何かしたのか?」


 小柄な少女だが、ボクがへたれ込んでいる姿勢の為か圧を感じる。


「ボクはただ、布団倉庫に入っただけで……その、枕を取りに……」

「枕なんてないですわ」


 途端にツッコミが入る。

 ナーナは「ふうう……」と息を吸った後に少女達に再び問いかけた。


「その布団倉庫で何かあったのか?」

「いや、何かって……」


 彼女たちは言い淀んでしまった。

 内容も内容だし、ここはボクが説明した方が良さそうだ。


「彼女たちがキスしてる所を見ちゃったんだ、その……ごめん」


 すると、ナーナは「ふうう……」と再び息を吸いこんだ、気のせいか顔が引きつっている様に見えた。

 そして、少女たちを睨みつけ言い放った。

 とても大きな声で。


「変態はお前らじゃないか!三百年前の悪魔戦争あくませんそうの時から婚祝祭フェスタよって決められた相手としか関係を持てないことを知らんのか?」

「私たちは今の関係性も大事にしたいだけよ」


 小柄な緑髪の少女が長髪の女性を抱きしめながら言い返す。

 ナーナの握りしめた拳がゆらゆらと揺れ始める……。


「最近、学校内で四人組の女に襲われたという話が後を絶たなくてな……解決するようにも言われておるのだ。それに……」


 ナーナのティアラの光が拳へと移動した。


「布団倉庫を勝手に使って街中で火球ファイアーボールをぶっ放すなんて許される訳無いじゃろおおお!」


 叫びながら少女達を纏めて引っ叩くと、少女達はまるでフラフープで拘束されたかのように一つに纏まりフワフワと何処かへ飛んで行ってしまった。

 これも……きっと魔法だ。

 良く分からないけど。


「ありがとう。ボクはテイヤ、斎藤魔さいとまテイヤだ」

「気にするな新入生!お前は今日、私とデートの日なのだからな♪」

「へっ?」

「だから気にするな!乗れ」


 そう言って道路脇へ行くと、いつの間にか派手な金ピカのスポーツカーが止まっていた。

 言われるがままに車に乗るとエンジンが豪快なサウンドを鳴らす。

 ナーナはなぜかグラサンを掛けると「ガットゥビーザミッション♪ワンツートランスミッション♪」と気分良さげに歌いながら、短い足で華麗にクラッチを切り、走り始めた。

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