喧嘩するほど仲がいい
◆ 蘭すずな
どうにかなるだろう、そう期待していた私がバカだった……! もう無茶苦茶だ。意味がわからない。
「……………………」
「……………………」
2人の張り詰めた空気が頬を刺激する。
バチバチと目先には火花が飛び散っている。
昇降口前の渡り廊下。今にも殴り合いが起こりそうな予感さえしていた。
私たちは成瀬くんを広い校内から探し出すことは当然叶わず、諦めて帰宅しようとしていたところで運良く──ではなく、運悪く成瀬くんたちと出くわしてしまったのだ。
彼の隣にいるのは"元"同級生の友達──星崎先輩だったっけ? 成瀬くんとの会話で幾度か出ていたが、髪色は茶髪でいかにもチャラそうな雰囲気が漂っている。
それはいい、
それは別に構わないのだけれど──
厄介なのはここからだった。
花嶋さんと星崎先輩が出会った瞬間、二人は互いに敵意を向ける視線へと変わった。
「おいおい、あのお子ちゃまさんがこの高校に入学できたなんて思いもしなかったぜ。奇跡的な運が味方したみたいだな。神風が吹いたってところか?」
始めに星崎先輩が皮肉めいた様子で牽制する。まるで軽蔑したような眼差しで花嶋さんに言い放った。
それに対し花嶋さんは頬をひくつかせ、
「はぁ……? 中学校のときに学年断トツ最下位の問題児だった、あの星崎蓮さんがこの高校? それはそれは」
「お前も変わんねぇだろ……! 可愛げのない後輩だなホントに。鼻につくぜこりゃあ」
「星崎先輩はまったくもって頼りがいのない先輩ですね。彼女になる人はさぞかしおバカさんなんでしょうねー! その調子じゃ出来るはずもないですけどね」
「んだと、コラァ……!!!」
「いいえ、なんでも?」
「「――────ふんっ!」」
お互いに口を尖らせ、最大限の皮肉を孕んだ言葉を投げあっている。悪口の応酬だ。
さっきまで和気藹々と一緒に話していた花嶋さんはどこにいってしまったの……!? まるで別人みたいだ。『キャー!!』と乙女の表情だった彼女の面影はもう見られない。今は怪訝な顔で汚いものを見ているかのような彼女が目の前にいるだけだ。
「なぁなぁ……」
物々しい2人から距離をとっていた成瀬くんが苦い顔をして私の元で呟いた。
「おい……なんなんだよ、この混沌とした状況を説明してくれ。凄い面倒くさいことになりそうなんだが」
「私が訊きたいんですけど、一体なんですかこれ……!」
「わかんねぇ」
「花嶋さんが成瀬くんと話したいって行ってたので校内を探し回って見つけたと思った矢先にこんなことに」
私は彼らを見やる。
側から見れば因縁の相手、と言っていいのだろうか。おそらく知り合いか、もしくは私が思っている以上の何かだとは思うのだけれど2人の関係性についてはそれ以上読み取れる要素は今のところない。
バチバチと激しく睨み合う様子が繰り広げられているのを止める勇気は私にはない上にそれほどに割り込む隙すら与えない緊迫した状況だった。ちなみに言うがここは昇降口の前だ。ここでは帰宅する生徒たちからも目立つので出来れば避けてもらいたいのだけれど……。
生憎、外野は見守ることしかできない。
そして、私たちが目の前の口論の前に茫然と立ち尽くしていると、
「ねえ……成瀬くん」
火の粉が降り注いできた。
二次災害だ、これはマズイことになる!
「こんな胡散臭い人間とはつるまない方がいいよ! コイツは最低最悪の人間なんだから何しでかすかわからないよ」
追随して、
「すずなさん、そんな性格が歪んだ人間とはつるまない方が良いと思うぜ。せっかく学校で人気なんだから悪女といるとアナジー効果で評判が地の底まで下がっちまう」
星崎さんが気怠そうに人差し指を床に向けたジェスチャーをする。
「「…………あ〜、」」
二人の圧力に私たちはたじろいだ。
いやいや、やめて! こっちに話振ってこないで! 何一つ事情も知らない人に身内の話を持ち込まないでいただきたい。こういう場面が人間関係を構築するにおいて一番困るのだ……どちらかの意見に加担すれば、言わずもがなもう片方は蔑ろになり、険悪な雰囲気になってしまうからこそ無暗には口を出せない。人間関係というものは生活を充実させてくれる反面、些細なことで関係にひびが入る脆弱な性質があるとはよく言ったものである。
「はあ、地の底? 悪女!? ……誰に言ってんの!」
「テメェだよ。先輩を舐めたメスガキがよ!」
そしてまた、私たちを蚊帳の外にして言い争いを始め出した。
「こいつら、多分仲良いぞ」
「そーですよね。喧嘩するほど仲がいいって言葉もあるし本当に嫌いなら口もきかないはずですよね」
私が軽く溜め息をつくと、
2人がその発言に不本意だったのか、
「「仲良くない……!!!!」」
そう叫んだ。
一挙手一投足が同じと言っても過言ではない。やっぱり仲良いでしょ、この人たちは。
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