学校一の美少女だった"元"後輩と同級生になった

有瀬

本編

1.ただの幼馴染ではいられない

"元"先輩と"元"後輩

 ──唐突だが、俺には"幼馴染"がいる。


 年齢は1つ下の女の子だ。

 両親同士の仲が良かったせいなのか、幼稚園くらいの頃だろう、物心がついた時にはよく公園で一緒に遊んだりしていたのを今でも鮮明に覚えている。俺のことをとても慕ってくれていて片時も離れたことはなかった──というのはさすがに冗談だが、それほど仲が良かったといっても過言ではない。

 だが、小学校を経て中学校を卒業後、俺が他県の高校に進学して一人暮らしを始めたのを皮切りにそれまでのような遊ぶ機会もめっきり減り、これといった関わりもなくなってしまっていた。


 しかし、それも以前の話だ。


 今では同じ高校。

 同じ学年。

 同じクラス。


 後輩であり、幼馴染だった彼女。


 いや、になってしまった以上──

 ──"元"後輩であり、幼馴染と言った方が正しいだろう。


 

 4月1日の入学式。

 それは彼女と再会を果たした日のことだった。




 * * *




「みなさん、ご入学おめでとうございます! 今日から1年6組の担任になりました。若宮彩葉わかみやいろはです。気軽に彩葉先生って呼んでね!」


「かわいー! 彩葉せんせー!!」


 今年から新卒で入ったであろう担任が元気よくクラスに向けて挨拶をする。

 それに対して数人の陽キャ女子が呼応した。


 声も若く、見る限り20代前半で今年からこの──希陵きりょう高校へ配属されたに違いない。就職して早々、いきなり担任をもたされるなんて新卒も難儀なものだな、なんて思ったが今の俺にはそうそう他人を心配している余裕もなかった。



(……有り得ない、留年? マジかよ……)


 俺こと──成瀬礼斗なるせあやとは脳内でこれでもかというほどに項垂れていた。


 もう一回、高校1年生!?

 もう一回、1年6組って嘘だろ……?

 信じたくない……現実から目を背けたい。

 まぁ、分かりきってはいた事だが仮にも嘘だと言って欲しい。


 しかし、現実は厳しいようで、『人生は甘くない』と言わんばかりに、その願いは無情にも砕かれ儚く散ってしまった。


 当然と言えば当然の話で、信じられない事に1年生の初っ端で必修科目を落単してしまい出鼻をくじかれてしまった。なんてバカなんだ俺って……つくづく嫌気がさすな。みんなが2年生に上がる頃に教育指導の先生たちから留年の通告を受けたのが今でも悪夢のように回顧される。


 気落ちした顔を上げると、黒板には『入学おめでとう』の文字。

 他から見れば至っておかしなところもない石膏から成る祝福の白文字がより一層、俺のわずらいを煽った。


(やっぱり留年って響きが心を抉ってくるのが本当に辛いものだ……ちょっと単位落としたくらいで、許してくれよ、おい!)


 担任の若宮先生が高校生活についてのガイダンスを説明している中、こうして項垂うなだれていると、



「初めまして! お隣さん!」


 ふと、隣から耳朶を打つ声。


 まだ、初々しさを感じる。いかにも最近中学校を卒業しましたと言わんばかりの声だった。

 

 俺に話しかけているのだろうか?

 いや、普通に考えてこっち向いて話してるから俺しかいないんだけどさ……。

 ガイダンス中に話しかけてくるとは中々肝が据わっている。周りも生真面目に聞く人、隣の席の子と談笑する人で半々くらいだった、どうも友達づくりとやらに躍起になっているからなのかどうかは定かではないが。


 とはいえ、お隣付き合いは大事だ。

 ここで気まずいのなんだの言っていたらクラスで浮いてしまって結局3年間地獄を味わう羽目になるのが目に見える。同級生なんだから、相手が年下だとしても尻込みする必要はない。俺自身、損得勘定第一で動くような人間ではないが、ここは良好な関係を築いておくべきだ。


 気落ちした野暮な感情を仕舞い、すっと彼女の方に目を遣る。


「初めまして……?」


「これからよろしくね! 隣人同士助け合っていこうよ」


「……うん、そうだな。ここの高校定期テストとかめちゃくちゃ難しいらしいし」


「なんか有名だよね!」


 隣人はシルクのような髪を揺らす。


 元気溌剌、活発そうな好印象を受けた。

 これから先、お隣さんとして関わりが増えていくのだろうから険悪になったらたまったものじゃない。ペアワークも授業の方針としてあるのは去年から知っていたし、そんな状態は死んでも避けたいところである。


「あ、そうだ。名前、なんて言うんだ───」


 彼女の名前を訊こうとした途端、



(…………)


(……………………あれ?)


 ん、ちょっと待て。なんだこの違和感。

 名状し難い違和感が胸に渦巻くのを感じる。

 

 そう思ったのと同時に隣人の彼女も不自然な顔色を浮かべて、まじまじとこちらを見つめていた。


 俺もまた彼女に視線を返し、口をつぐませる。


 ……ん?

 ……あれ? この子どっかで……。



 ────って……は、はっ〜〜!?

 待て待て待て待て!

 なんでだよっ!! おかしいだろ!


「────って、あ、あれっ!?」


「……ま、まさかとは思うけど!」


 鈍器で頭を殴られたかの衝撃が走った。

 忽然と、時が止まったように感じる中。


 ────俺は彼女に釘付けになっていた。


 白藍色のハーフアップの長髪。

 宝石のように澄んだ瞳が特徴的な隣人の存在を以前から知っていたのだ。




 ※※※


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