めがね@怪しい研究所

すらなりとな

めがねは大事にしよう!

「れんちゃんとたんちゃーん?

 お父さんがまた何か作ったみたいだから、ちょっと研究室に行ってあげて?」


 お母さんのそんな声で、私ことれんちゃんは、お父さんの研究室へと歩いていた。

 お母さんの言う「また」というのは、自称研究者のお父さんに、ここ数日、何度も私と妹のたんちゃんが呼び出されているからだ。

 何度も呼び出されているのは、お父さん発明のせいで宝石になってしまった私が、その宝石を拾ったたんちゃんに憑りついてしまったからだ。

 今の私は、ネックレスになってたんちゃんの首からぶら下げているのだが、どいうわけか宝石を捨てても元には戻らず、お父さんはそんな私達を引きはがすため、いろいろと実験をしているというわけだ。


 ――ホント、何度聞いても意味不明ね。


 脳内ボイスとなってしまったたんちゃんが、私の思考を読んで嘆く。

 私と違って、普段からマンガとかアニメとかに浸ってないたんちゃんには、こんな非現実を理解するのは難しいのだろう。


(まあまあ、私がたんちゃんの身体を動かしてるってのは現実なんだし。

 意味が分かる人お父さんに何とかしてもらうのがいいんじゃないかな?)


 そんな調子でたんちゃんをなだめつつ、お父さんの研究室の扉を開く。

 研究室とはいっても、庭にあるちょっと大きめの物置に、「七瀬理研究所」と書かれたダンボールで出来た看板がかかっているだけだ。


「おお、ひとえつらね。待っていたぞ!」


 中に入ると、お父さんが出迎えてくれた(なお、ひとえつらねというのは、私たちの本当の名前だ)。

 しかし、たんちゃんはお父さんの自信満々な様子に不安なようで、


 ――ちょっと、今度は本当に大丈夫でしょうね?


 とても嫌そうな声が、頭の中に響いた。


「ん? どうした連?」

「ええっと、たんちゃんが、ほんとに大丈夫? だって」

「もちろん大丈夫だとも!

 何せ、お父さんはこの分野のただ一人の研究者だからな!」

 ――余計に不安になって来たわ。


 さらに不機嫌な声を上げるたんちゃん。

 少し前にも、私とたんちゃんを分離するため、お父さんは発明品を作っていた。

 その名も「ただの箱君二十四号」。

 要はダンボールロボだ。

 コアになるミニダンボールに宝石を入れるとあら不思議。

 どこからか飛んできた謎のダンボールと合体し、ダンボールロボに変形する。

 私はダンボールロボとなり、たんちゃんは元のたんちゃんに戻る。

 ただし、このダンボールロボは時間制限付き。

 二十四時間経つと強制解除され、一週間は再使用ができなくなる。

 さらに、たんちゃんとダンボールロボは、百メートルまでしか離れられない。

 せっかくダンボールロボになっても、学校にも一緒についていかなければならず、いろいろと試作品の域を出ないものだった。

 後に改良され、ダンボールロボの見た目が某勇者ロボ的何かになり、必殺技も撃てるようになった。

 私としては、制限時間付きのカッコイイ合体変形勇者ロボはお気に入りなのだが、たんちゃんとしては不満なようだ。

(注)上記回想の理解を放棄した方は、以下をご覧ください。

 https://kakuyomu.jp/users/roulusu/collections/16818023211863735631


 ――やっぱ不安だわ!

「うーん、お父さん、たんちゃんが余計に不安になっちゃったみたいだから、早く新しいの見せてあげて?」

「よろしい! では、私の渾身の一作をお披露目しようじゃないか!」


 仰々しい手振りとともに、すぐ隣の机にかかっていた布を取り去るお父さん。

 中から出てきたのは、


「んー? なんだろ、眼鏡ケース?」

「その通り! これぞ霊的制御マシン試作第百拾四号機!

 『ただのめがねクンいちいちよん号』だ!」

 ――確かに、見た目だけは、普通の眼鏡ね?


 眼鏡ケースを開けてみると、何の変哲もない眼鏡が入っていた。

 とりあえず、お父さんに使い方を確認してみる。


「ええっと、かければいいの?」

「ああ、普通に眼鏡をかけるだけでいい」


 言われたとおり、眼鏡をかける。

 すると、目の前にたんちゃんが現れた!

 しかも、私が憑りつく前のギャルメイクと改造制服で、だ。

(たんちゃんはいわゆる底辺校に通っているので、これが普通だ。

 なお、私はいわゆる進学校に通っているので、ギャルメイクなんてできない。

 つまり、私がたんちゃんに憑りついていた時は、ナチュラルメイクにきっちり着た制服な格好だった)


「え!? なに!? ホントに戻ったの!? ウソ、信じられない!」


 これにはたんちゃんもびっくり。

 お父さんも嬉しくなったのか、たんちゃんに説明を続ける。


「うん! それは眼鏡を起点に霊体を実体化させる装置!

 この間、単の友達のノロちゃん復活の儀式から得たデータをフィードバックして開発したものだ!」


 ノロちゃん、というのは、先程のダンボールロボのプロトタイプにとりついた幽霊さんのことだ。電柱に激突した際、ダンボールロボが壊れかけて、危うく成仏しそうになったのだが、たんちゃんが怪しい儀式を頑張った結果、無事、現世に留まることができている。

(注)二度目になりますが、上記回想の理解に難を要す方は、以下をご覧ください。

 https://kakuyomu.jp/users/roulusu/collections/16818023211863735631


 何のデータをどのようにフィードバックしたかは分からないが、とにかくも、私とたんちゃんは、ダンボールに頼らず離れることが出来た。

 すごい! これは大きな進歩だ!

 でも――


「お父さん? 私はたんちゃんのままなんだけど?」


 私には何の変化もない。

 研究所の横に置いてあった鏡には、眼鏡をかけたたんちゃんが映っている。


「うん、あくまで今、ここにいる単は霊体が実体化しただけだからね。

 肉体は連が操作しているままだ」

「ええっと、じゃあ、たんちゃんには触れないの?」


 たんちゃんの手を握ってみる。

 しっかりと、感覚があった。


「わ! ちょっと、お姉ちゃん? 急に触んないでくれる!?」

「あ、ごめんゴメン」


 まるで本物のように驚くたんちゃん。

 私が謝っていると、お父さんの笑い声が響いた。


「ははは、霊体になったからといって、何も幽霊になるわけではないよ。

 まあ、分身が使えるようになったとでも思うといい。

 もちろん、単の意識は分身の方へ移っているから、今まで見たいに頭の中で単と連が会話したりはできないけどね」

「ええっと、じゃあ、前みたいに制限時間とかないの?」

「その辺は大丈夫だ。が、やっぱり距離は改善できなくてな。

 百メートルくらいしか離れられない。

 あと、連が『ただのめがねクンいちいちよん号』を外すと元に戻る」

「だって、よかったね、たんちゃん?」


 おおよそ聞きたいことを聞き終えた私は、たんちゃんに話を振ってみた。


「はあ、まあ、ダンボールロボじゃないだけ喜んであげるわ」


 さっきの喜びようはどこへやら。

 ちょっと残念そうだ。


「まあまあ、ちょうど変装も必要だったし、良かったじゃない?」

「う。そういえば、そうだったわね……」


 思い出したのか、またしても嫌そうな声を上げるたんちゃん。

 お父さんがそれを聞きとがめた。


「うん? 変装がなんだって?」

「何でもないよ。とりあえず、これは素直にありがとって言っとくわ」


 たんちゃんがお礼を言ったのが珍しかったのか、驚いた顔をするお父さん。

 私はそんなお父さんに笑顔を残して、たんちゃんと研究室を後にした。



 ―――――☆



「なるほど。

 それでたんちゃんはギャルに戻って、ハコちゃんはダンボール脱いだのね?」


 翌日の学校。

 私は眼鏡をかけて、たんちゃんの学校に通っていた。

 ハコちゃんとは私のダンボールロボ姿での名前だ。

 正式には只野葉子ダダノハコという、特にひねりのない名前なのだが、それがハコちゃんになるくらいには、クラスメイトに受け入れられている。

 たんちゃんの学校はダンボールロボも差別しない、多様性に満ちた校風なのだ。

 目の前の友達――さっちゃんも、特に気にせずうなずいている。

 ただ、お父さんの怪しい研究をそのまま伝えたわけじゃなくて。


「そうそう、隣のドウブツ園と喧嘩するとかだるいし」


 嘘をつくのが苦手なのか、ちょっと大げさにうなずくたんちゃん。

 ドウブツ園というのは、隣の高校、不動武烈学園のことだ。

 略称がドウブツ園になってしまう程度には底辺高である。

 なお、たんちゃんの通っている学校は陽ノ道学園という。

 略称がヨウチ園になってしまうくらいには、やっぱり底辺高である。

 そして、ヨウチ園とドウブツ園は、定期的に襲撃が発生するくらいには仲が悪い。


 少し前、私とたんちゃんはその襲撃に巻き込まれた挙句、なぜかドウブツ園の先生に頼まれ、なぜかドウブツ園で風紀委員の真似事をすることになった。が、ちょっとやりすぎてしまい、ドウブツ園の不良さんを綺麗な真面目さんに変えた、という事件があった。その時、ドウブツ園で不良さんまとめていた小鳥遊登里たかなしとりさん(私はトリちゃんと呼んでいる)に目を付けられてしまっている。

 トリちゃんとは、私inたんちゃんボディでしか会っていないので、ギャルメイクなたんちゃんと眼鏡をかけた私なら、きっと登下校中にばったり会っても気づかないだろう。


「うーん、隣の不良校にお嬢様系が入って、小鳥遊って人が探してるって聞いてたけど、それがたんちゃんだったなんてねぇ。ハコちゃんがドウブツ園に飛んで行ったときはどうなることかと思ったけど、やっぱり、そんな面白いことになってたのね?」

「うん、やっぱりダンボールロボたるもの、みんなの期待に応えないと」


 何か納得した様子のさっちゃんにうなずく私。

 たんちゃんは真顔で突っ込んできた。


「そこは応えなくていいから。

 いくら底辺高だからって、眼鏡一つの変装じゃ厳しいんだから、おね、じゃない、ハコちゃんも気をつけてよ?」


 きっと、そんな話をしていたのがいけなかったのだろう。

 教室の扉が開いて、隣のクラスの不良さんが駆け込んで来た。


「あ! 姉御! 小鳥遊さんが、お会いしたいそうです!」


 たんちゃんのことを姉御と呼ぶこの不良さんは、名前を極道秀男ごくどうひでおという、隣のクラスの風紀委員だ。

 別にヤクザとは関係ないが、ドウブツ園の襲撃に巻き込まれ、敵対する高校の間柄ながら、変にトリちゃんに気に入られている。


「そ、そう、正面からやってくるなんて、なんていうか予想外ね……」


 困った様子のたんちゃん。


「まあ、会ってみればいいんじゃない? その方が面白そうだし」


 無責任なアドバイスを送るさっちゃん。


「うん、私もそれでいいと思うよ?

 トリちゃんも、そんな悪い人に思えなかったし?」


 無責任に賛成する私。


「はあ、じゃあ、どこにいんの?」


 観念したように、秀ちゃんにトリちゃんの居場所を尋ねるたんちゃん。


「はい! こちらです!」


 差し出されたのは、白い封筒。

「果たし状」と書かれている。

 絶句するたんちゃん。

 代わりに私が開いて、読んであげた。


「ええっと……?

  果たし状。

  決っとうをもうしこむ。

  九時十分に行く。

  逃げるな。

 だって」


 ああ、トリちゃん、決闘を申し込むって漢字で書けなかったんだね?

 でもせめて、果たし状はこんなにまるっこい可愛い字じゃなくて、筆で力強く書いてほしかったな……。

 アニメやマンガで出てきた果たし状とは程遠い姿から、ちょっとがっかりする私。

 が、たんちゃんはびっくりだ。


「九時十分って、もう十分過ぎてるじゃない!?」


 そう叫ぶと同時、勢いよく扉が開いて、トリちゃんが入って来た!


「やっと見つけた!」


 そして、なぜか私の方へやって来た!


「え? 私?」

「アンタ以外誰がいるんだ! この間の決着! 付けに来たからな!」

「ええ? 本当に私?」

「しつこけぇな! どう見たってアンタだろ!?」

「ちなみに、アンタってどんな感じ?」

「どうって、そりゃ……」

「ほら、眼鏡かけてた?

 こんな制服だった?

 あと、なんか足りない感じしない?」

「う、いや、そ、そういえば……」


 だんだん勢いがなくなっていくトリちゃん。

 やっぱりいい子だ。


「と、とにかく!

 アンタそっくりな子がうちの学校を荒らしてきたんだ!

 落とし前をだな……」

「ああ、そういえば、うちの風紀委員が頑張りすぎて、そっちの不良さんが、ちょっとの間だけ漂白されたんだっけ?

 じゃあ、代わりに、うちの学校も漂白してもいいよ?」

「あ? なんでそうなんだよ!」

「うん、私も風紀委員だから、協力するよ!

 そこにいる秀ちゃんも、風紀委員なんだよ?」


 正確には風紀委員はたんちゃんで私じゃないけど、些細なことだ。

 トリちゃんの手を取る私。

 乱暴に振りほどかれた。

 が、そこへ、社会科の野倉先生が話しかけてくる。


「とても面白そうな話をしてるわね?」


 そういえば、今は授業中だった。


「この陽ノ道学園に勤めて5年!

 底辺高先生の会会員ネットワークでも聞いてたけど!

 生徒自らこの底辺高を変えようという動きが出るなんて!

 先生! 信じてたわ!」


 先生は感動で泣いていた!

 再びトリちゃんの手を取る私!


「大丈夫です! 隣の学校からトリちゃんも来てくれました!」

「え? いやちょっ、待っ!」

「きっと、不動武烈学園を立て直したその力で!」

「いや、私は立て直したんじゃ」

「この陽ノ道学園も変えてくれます!」


 トリちゃんの叫びが間に挟まっている気がするが、些細なことだ。

 先生は涙をぬぐうと、開いている席に座った。


「それじゃ、さっそくこの陽ノ道学園をどうすればいいか考えましょう!」

「はい先生! じゃあさっそく! なにかいい案はありますか?」


 ごく自然に、司会者に納まる私!


「なあ、あのお嬢、いつもこんな感じなのか?」

「うーん、いつもはもっとハジけてるかな?」

「そうね、ダンボールロボの格好とかしてるし?」


 トリちゃんにたんちゃん、さっちゃんからは、特に意見はないようだ!

 が、さすが風紀委員というべきか、秀ちゃんが声を上げた!


「押忍! ここは! まず! お祓いに行ってはどうでしょうか!」


 なるほど、もっともな意見だ!


「あら、いい考えね。先生も、ちょっと考えてたの」


 先生もうなずいている!


「なあ、お前んとこの学校、大丈夫か?」

「は? 大丈夫なわけないじゃない」

「そうそう、底辺高で大丈夫とか聞いちゃダメよ。モラハラになっちゃうから」


 トリちゃんたちも否定的意見はないようだ!

 秀ちゃんは勢い込んで続ける!


「はいっ! 我が校には!

 幽霊ダンボールロボのノロちゃんこと野呂井八子のろいはこさんがいます!

 先生も! なぜか幽霊に憑りつかれやすく、少し前まで幽霊と同居していたとか!

 先生がどれだけ力を入れても!

 これだけ風紀活動をやっても!

 皆が元の不良に戻ってしまうのは!

 超自然的現象が働いているとしか考えられません!」

「そうよね! そうよね!? きっとそうだわ!」


 勢い良くうなずく先生!


「あー、あの先生、変な宗教に引っかかるタイプだぞ?」

「あ、やっぱりそう思う?」

「私もちょっと止めた方がいいとは思ってたんだけどね?」


 トリちゃんたちも納得している様子だ!

 私は遠慮なく議題を進めた!


「じゃあ、今後の風紀活動はお祓いということで!

 次に、お祓いの方法ですけど……」

「それは大丈夫! 先生に心当たりがあるの!

 大学時代のゼミの先生にね、そういうのが得意な人がいるのよ!

 ちょっと連絡してくるわ!」

「不肖! 陽ノ道学園! 壱年弐組! 極道秀男! お供させていただきます!」


 それはもう楽しそうに出ていく先生と秀ちゃん!


「おいおい、授業中じゃなかったのかよ」

「そんな常識、今に考えなくなるわ」

「先生も、ちょっと底辺に浸り過ぎちゃったのよ」


 私は他の三人と一緒に、戦場へ向かう兵士を送る目で二人を見送った!



 ―――――☆



 数日後。

 先生に呼ばれ、私とたんちゃん、さっちゃんにひでちゃん、ノロちゃんにトリちゃんの六人は、学校のグラウンドに集まっていた。


「なんで私までここにいんだよ!

 つーかノロちゃんってなんだよ! ダンボールじゃねぇか!」

「ああうん、突っ込んだら負けよ?」

「そうそう、ウチはそういう校風だから」


 叫ぶトリちゃんを、たんちゃんとさっちゃんがなだめる。

 が、先生が連れてきた人物には、たんちゃんも驚きの声を上げた。


「お父さん!? 何してるの?」

「ん? おお、我が七瀬理研究所に、こちらの野倉先生から依頼があってね!

 なんでも、この陽ノ道学園が霊的に危険だから、対処してほしいということでやって来たんだ! そういえば、ここは単と連が通う学校だったな……」


 どうやら先生の心当たりというのは、お父さんの研究所のことだったようだ。

 そういえば、何をやっているのかはよく知らないが、普段霊的とか魂とかそれらしき言葉を使っていた気もする。


「あら、貴女たち、知り合いだったの?

 先生も昔はね――」


 どうでもいい昔話を始める先生。

 どうやら、先生はお父さんの研究室にいたようだ。


「うん、野倉さんはいろいろと霊を引き寄せる体質だからな。

 実にいい研究素材、あ、いや、教えがいのある生徒だったぞ?」


 違った。ただのモルモットだったようだ。

 しかし、野倉先生はまったく気にせず続ける。


「ええっと、それじゃあ七瀬教授、お願いします」

「うむ! 任せておききたまえ!

 まずは現状の説明からだが、このグラウンドだ!」


 グラウンドを見渡すお父さん。

 一緒になって私たちも見回す。

 広いグラウンドには、いつも通り、ヨウチ園の生徒が、襲撃に来たドウブツ園の生徒と、元気に殴り合って遊んでいる。


「この通り、非常に霊的に危険な状態にある!

 そこで、この装置の出番だ!」


 どの辺が霊的なのかまったく説明することなく、眼鏡を取り出すお父さん。

 眼鏡といっても、私がつけている「ただのめがねクン」ではなく、どちらかというとVRゴーグルに近い見た目だ。


「これぞ!

 七瀬理研究所が総力を挙げて開発した大型霊的制御マシン試作第二百二十四号機! 

 『すーぱーめがねくんにぃにぃよん』だ!

 このすーぱーめがねくんを装着し、起動、装着者が強い願いを込めれば!

 あらゆる魂が正しい位置に戻る!」


 さっぱりわからない説明をするお父さん。

 が、先生はしっかりとうなずく。


「素晴らしい! これをなら! 生徒たちも不良から漂白されます!」

「うん! 娘にプレゼントした眼鏡がことのほか喜ばれて、つい嬉しくなって全力でまじめに作ってしまった!」

「じゃあ、さっそく起動しましょう!」


 盛り上がる二人は、置いてきぼりの生徒六人をおいて、装置を起動した。


 先生がすーぱーめがねくんをかける!

 お父さんがスイッチを入れる!


 次の瞬間!

 雷のような轟音!

 真っ白になる視界!


 気が付けば、やけに静かなグラウンドが広がっていた!


 どういうわけか、暴れていた不良さんはみんな大人しくなって、着崩していた制服もきっちり着込んでいる。

 それどころか、互いに挨拶をかわすと、みんな綺麗に整列。

 陽ノ道学園の生徒は校舎へ、不動武烈学園の生徒は自分の学校へと帰っていく。


「ぎゃー!? なんだこの格好!?」

「うわ、さっちゃん、清楚系に変わってる!」

「たんちゃんこそ、前の清楚系に戻ってるよ?」


 聞こえてきた声の方を見ると、さっちゃんもたんちゃんもトリちゃんも、普通の女子高生の格好になっている。


「うん! 成功だ!」

「ええ! ええ! 長年の! 私の夢が叶いました!」


 大喜びするお父さんと野倉先生。

 しかし、


「おい! ふざけんな!」


 トリちゃんが先生に掴みかかった!


「え? え? な、ナナナ、なんで?」

「なんでじゃねえぇよ!

 自分の夢のために! こんな装置で! 生徒を変えやがって!

 アンタ! それでもセンコーか!」


 トリちゃんの叫びに、唖然とする先生。


「うちの学校の先生はなぁ!

 転校する私にもなぁ!

 最期までずっと向き合ってたんだよ!」


 きっと、トリちゃんの学園生活には、熱い青春ドラマ的な展開があったのだろう。

 先生も涙を流して謝った。


「ごめんなさい! 先生が! 先生が間違ってたわ!」

「ふん! おい、秀! お前んトコの先生だろ! なんか言ってやれ!」


 先生を乱暴に放り出しながら、秀ちゃんに声をかけるトリちゃん。

 声をかけられた秀ちゃんはというと、


「か、可憐だ……」


 そんなトリちゃんに見とれていた。

 見つめられたトリちゃんも、顔を赤くして固まる。


「あー、あの二人って……」

「まあ、果たし状持ってきたってことは、そういう関係なんでしょ?」


 なにか納得しているたんちゃんとさっちゃん。

 私はその隙に、お父さんに問いかけた。


「あー、お父さん? これってみんな、元に戻るの?」

「ああ、これは試作品だからね。一時間ほどで元に戻るよ。

 ただ、もともとの魂に戻った単と連は別だけどね」

「え?」

「うん? 気づかなかったかい?

 今、連も単も、元通りの身体に戻っているよ?

 ほら、さっきの衝撃でめがねが飛んで行ったけど、単はそのままだろう?」



 ―――――☆



 後日。


「ご飯よー! れんちゃんもー!」


 お母さんのそんな声とともに、私はゲームを止めて、リビングへ降りて行った。

 食卓には、いつも通りのギャルメイクに戻ったたんちゃんが座っている。


「はー、ようやく元に戻れたって感じね」

「うーん、私としては、もうちょっとたんちゃんの高校で遊びたかったんだけど?」

「やめてよ。お姉ちゃん、もう一週間もしたら大学生でしょ?

 遊ぶならそっちで遊んでよ?」

「それもそっか。じゃ、来年は、お姉ちゃんがを学校に案内したげる」

「それこそやめてよ。偏差値が全然足りないわよ」


 そんな会話を交わしながら、一緒にいただきますをして、食べ始める。


「そういえば知ってる?」

「知らなーい」

「お父さんがね、またなんか作ったみたいよ?

 今度はVRができる眼鏡型ゲーム機だって」

「ええ? それすごい発明だよ!?」

「うん、でも、名前が霊的異世界体験装置になっててね」

「うわ、ちょっとやってみたーい」

「ん、それは無理かな」

「え? なんで?」

「お父さんの研究室にあっためがね、私が全部たたき割っておいたから」



 ―――――☆



 さらに後日。


「おねがいします!」

「また、ノロちゃんとハコちゃんの復活を!」


 私たちの家は、土下座する不良さんに囲まれていた。


「たんちゃん、何があったの?」

「あー、ほら、すっかり忘れてたけど、一緒にいたノロちゃん、この間のグラウンドでお父さんがあのめがねの実験した時、一緒にいたでしょ?

 ほら、ノロちゃんって、もともと先生に憑りついてた幽霊が動かしてたじゃない? 

 アレでその幽霊が成仏しちゃったみたいで、動かなくなっちゃったのよ」


 なるほど。

 それでまた復活の儀式怪しい儀式を頼みに、たんちゃんのところまで来たのか。


「それで、たんちゃん、どうするの?」

「どうもしないわよ、めんどくさい」

「うーん、でも、放っとくと、ずっと土下座してそうな雰囲気だよ?」

「それは大丈夫よ。ほら」


 たんちゃんの指さした方を見ると、お母さんが洗濯物を干しながら、お父さんに叫んでいた。


「お父さーん。ちょっと、そこの資源ごみ、出しに行ってもらっていいー?」

「ああ、もちろんだとも! 任せたまえ!」


 お母さんは資源ごみといっているが、どう見てもダンボールロボだ。

 が、お父さんもダンボールロボを平気で担ぐ!

 私は慌てて駆け寄った。


「お父さん! それ捨てちゃうの!?」

「ああ、これはあくまで試作品だからね。もう役目を終えた以上、廃棄だ。

 もし、連が欲しいなら、お父さんがちゃんと防水加工を施して、部屋にでも持っていくが?」

「あー、うん、今はちょーっとタイミングが悪いかなって……」


 言い終わるかどうかのタイミングで、なだれ込んでくる不良さんたち!


「そんな! 廃棄って本当っすか!」

「復活できないんスか!?」

「うおぉぉおお! ハコちゃーん!」


 そんな不良さんたちを見て、お父さんは、


「うん! 君たちの気持ちは痛いほどわかる!

 しかし! ハコちゃんはダンボールなんだ!

 ダンボールの寿命は! もう尽きてしまったんだ!

 せめて一緒に! 最期まで! 見守ってあげてくれ!」


 涙を流しながら、資源ごみ一式を持ち上げた!

 一緒になって感動の涙を流しながら、不良さんもそれに続く!

 あっという間に、葬列が完成!

 町内のゴミ捨て場へ向かって進んでいく!


「ほら、何とかなったでしょ?」

「うん、やっぱり、いい学校だね、たんちゃん!」


 みんなを見送るたんちゃんに私がうなずいていると、


「あのー、すみませン?」


 ダンボールロボが、話しかけてきた。


「え? ノロちゃん!? なんで!? 成仏したんじゃなかったの!?」


 固まるたんちゃん。


「ええ、そノ、実はあの実験のとキ、ちょうど雷が落ちた中心にいましテ。

 ただ吹き飛ばされテ、気を失っていただけなんでス。

 最近になってゴミ捨て場で目覚めたのですガ、気が付けば皆様あのようなノリになっていテ、どうも戻りにくくてですネ」


 どうやらノロちゃんはそのままのようだ。

 きっとダンボールが正しい魂の住処なんだろう。


「うん、じゃあ、一緒に追いかけよっか?」

「エ? いいのですかカ!?」

「うん。私もあの勇者ロボダンボール、捨てるのもったいないと思ってたし。

 部屋に置くには無理だけど、お父さんの研究室で飾るように、お願いしてみようかなって。たんちゃんもいいでしょ?」

「はあ、そりゃ、私は別にいいけど……」

「ありがとうゴザイマス! アリガトウございます!」


 一緒になってお父さんたちを追いかける私たち。


 ゴミ捨て場に到着すると、


「しまった! ゴミ捨て場に捨てられていた猫がロボの中に!」

「うぉおお!? ロボが暴れだした!?」

「どうすんだこれ!?」


 何か混沌とした様子になっていた。


「皆様! 今! 参りまス!」


 そこへ突入するダンボールロボことノロちゃん!

 今! ここに! ダンボールロボ同士の対決が!


「あー、帰っていい?」

「まあまあ、せっかくだし、見ていこうよ」


 帰ろうとするたんちゃん。

 それを引き留める私。

 しかしそこへ、


「あ! ダンボールロボが姉御の方に!」


 資源ごみ予定のダンボールロボが、たんちゃんの方へ飛んできた!


「たんちゃん危ない!」

「え?」


 とっさにかばう。

 どうやらそれがいけなかったようで。

 ダンボールロボから転がり落ちた宝石付きのネックレスが、私の手に引っかかり。


「あれ?」

 ――ちょっとまた!?


 この後、たんちゃんが眼鏡を全部叩き割ったことを後悔するまで、あと少し――!


(れん@たん 完!)

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