第17話
目覚めたのはよくわからない場所だった。ベッドに丁寧に寝かされており服も真新しいものに変わっていた。うん、エリスはいないな……骨は問題なしか。さて……どうするかね、とりあえず外に出てみるか。
崩れ落ちた建物、火災の跡、瓦礫の山、嫌な匂いが立ち込め、学術都市は勝ったとは思えない様相を呈していた。黒煙が燻る建物は役所だろうか、学術都市の誇る学校だろうか。
「お目覚めですか?」
「ええ、あなたが治療を?ありがとうございます」
「いいえ、治療自体は治癒魔法を勇者様が重ねがけをしてましたので……着替えさせて横にしただけです……」
「それでも、ありがとうございます」
「いえ、助けられたのは私達の方です。あのままだったら我々は全員死んでいたでしょうし学術都市も灰燼に帰したでしょう」
「敵は?」
「全員撤退いたしました、ですが周辺の諸侯たちが討伐でもするでしょう。転移魔法で強襲したようですので魔族はともかく魔物は使えますまい」
ああ、向こうも使えるんだか。それはそうなるか。王都の直接転移阻止も避けるためか。
「学術都市のどのあたりに転移したのですか?」
「おそらく外れの森に転移して強襲したのかと、自警団も演習でその森にいたのでその時に……後手に回ったので防御魔法も間に合わず……」
「全自警団が出払っていたのですか?」
「残っていた自警団は真っ先に逃げ出しましたよ、転移魔法で援軍を呼びに行ったわけでもなく」
魔王軍より先に人類側が相互不信で負けそうだな。まぁ最前線という場所でもないしここを狙う理由が俺達を誘い出すとか言ってたもんな。結構距離あるぞ……?転移魔法で来ることを想定していたのかはわからんが……ここにおびき出してどうするつもりだったんだろう?
「エリスは?」
「どなたでしょう?」
「勇者です……」
「庭の方に……魔法を覚えたいとおっしゃられたのですが……それどころではなかったことと見ての通り学術学校と付属の図書館が焼けまして……あの防御魔法を貫通するとはどれだけ強力な魔族が来たのか……」
「あれは四天王です、本人がそう言ってましたから」
「なんでそんな化物がこんなところに……」
俺達をおびき出すためですなんて素直に言ったら恨まれる気がする。ただでさえ自警団や魔族に怒りが溜まってるだろうに原因が俺達ではなぁ。
「学術都市の魔法が目的だったか、育成機関である学校が目的だったのでは?手ひどく攻撃を受けていますし」
「ああ、確かに……なぜ油断してしまったのか……その機を魔族は伺っていたのか……クソッ!」
「四天王自ら見張っていたのならいつかは隙とも思えぬ隙をついて攻撃されていたでしょう、我々が罠にかけて四天王の一人を倒したと認識されているかもしれません」
「過大評価ですが溜飲は下がりますね、報復攻撃はあるのでしょうか」
「学術都市の学校と図書館を焼いたので長期戦略を考えたら痛み分け程度ですし、さらなる攻撃をしてくるとは思えません。まだ学術都市になにか敵から見て脅威なものはありますか?」
「……ありません」
「では、はぐれ魔物か遊撃隊の魔族くらいしか来ないかと、自警団を再編して備えればなんとかなるかと……思います」
「逃げた連中は変える場所がないので新しい人材を探します、ついでに自警団が逃走したことを周辺に転移魔法で伝えに言ったのでもういられすまい」
「では自警団再編まで私達が残ります、エリスと相談の必要はありますが」
「ありがたい、クロ様!必要なことがあれば申し付けください!もっとも街がこの有り様なのでおもてなしは……」
「いえ、大丈夫です。生活を優先してください」
名前知ってたんだな、とりあえず責任の所在は魔族に一本化出来たな、悪いのは俺達ではなく魔王軍で片付けられるほど軽い被害でもないし、ノージョブの俺の言葉ほど軽いものもないしな。じゃあエリスと話してくるか。
ああ、あの人の名前聞いてなかったな
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