第9話

 食事は案外普通だった。まぁ村で食べるものよりはいいものが出たが……。豪華な夕飯が出たらそれはそれで聖職者に軽蔑の目を向けたかもしれない。人間なんてこんなもんだ。


 エリスと手を繋いで部屋に戻るとニコニコとしたエリスが積んでる本を指差した。


「クロくん!あれ何冊ある?」

「5冊だろう?」

「残念!10冊だよ、認識阻害魔法の本!読んで!」

「へぇ……」


 なんて便利な魔法なんだ……敵を避けて通ることもできるし……。なんかうまくいかないな……エリスがじっと見てるし……。


「発動してる?」

「うん、してるよ」

「じゃあ、なんで見えてるの?」

「真贋魔法だよ、看破魔法に応用が効いたの!」


 俺より賢いなエリス……あれ?俺ってここが活躍のチャンスかと思ったけどそうでもない?うまくいっても機嫌悪くならないし。


「これは制約魔法!縛りを設けると魔法の強さを挙げられるの!精度、範囲や威力!全部上がるよ」

「へー……エリスはなんの縛りを?」

「え……あ、あの……秘密……」


 もとに戻ったな……いつものエリスだ……。


「看破魔法で見たら見える?」

「み、見れるよ……?」

「試してもいいか?」

「……いいよ」


 手を後ろに回したエリスに俺の体が謎の警戒感を持ったがとりあえず真贋魔法を看破魔法ということにして都合の良い解釈で使ってみた。


 エリス 制約魔法 制約 明るくなる 明るくなってる時にのみ効果発動


 いいのかその制約?実はかなりの制約なのかもしれないけど……あれ?じゃあなんでさっきまであんな感じだったんだ?たしか夕飯で起こされた後くらいに……


「……どうか……したの?」

「ん?変な制約だなって」

「そ、そう……そうかな?」

「まぁ……いつものエリスも明るいエリスもいいと思うよ、どっちもエリスだけどさ」

「!!」


 喜んだかと思ったらものすごい罪悪感ある顔になったな……。なんだ?なんかやったのか?


「ク、ク、ク、クロくぅん……」

「どうかしたのか?」

「ごめんね……実は……記憶操作魔法……それでクロくんの記憶を……その……少しだけ……」

「えっ、そんな魔法があるの?」

「私には効かないよ……?」


 魔王か?いや、勇者か、それなら効かんか。


「なんの記憶を?」

「私が……借りようとしてた本……覗き見てたから……」


 ああ、それは仕方ないか……。何やってんだ俺は……。


「じゃあ仕方ないな。それだけ?」

「あと……弱点看破魔法使ってきたから……」

「え?まぁ……それは俺が悪いな……勇者に弱点なんかあるのか」


 そう言われたエリスは何かに驚いたような表情をした。


「あ、ううん……ジョブじゃないくて……私の弱点……恥ずかしいから二度と見ないでね……」

「ああ、わかった……」

「じゃあ……制約魔法を解くね……」

「え、自分で使ってるやつじゃないの?」

「ううん……クロくんに……私に弱点看破魔法を……使わない制約を課したの……私が……明るくなってるときに……使えない」

「そんなことも可能なのか?」

「……やってみたら出来た……」

「そうか……」


 制約を解かれた後に試してみたがエリスへの制約は全く出来なかった、そういえば記憶は返してもらえないんだな。とエリスに聞いてみたが借りた本と弱点の記憶は戻せないからダメだと言われた。確かにそうだな……。看破魔法で見えなかった本5冊がなにか当てていいかと聞いたらまた記憶を消すぞと脅された。ごめんなさい。

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