最強皇女を異世界に召喚したことでとんでもないことになった世界の話
やとぎ
第01話 悲劇はここから始まった
「う〜ん、シルヴィスもこんな感じだったんでしょうかね?」
ヴェルティアは周囲に喜びの表情を向けている人々の顔を見てコテンと首を傾げた。
そのヴェルティアの仕草にヴェルティアの顔を見たものたちはその美しさに魅了されたかのようであった。
アインゼス竜皇国の皇女であるヴェルティアの美しさは異世界であっても健在のようであった。
『#$^&**())^!』
20歳前後の1人の美しい青年がヴェルティアに話しかけてきた。しかし当然ながらヴェルティアに言葉がわからない。
(おっと、シルヴィスに習った術を使うのを忘れていましたね)
ヴェルティアは
「みなさん!! 初めまして!! 私はヴェルティアと申します!! アインゼス竜皇国の第一皇女です」
ヴェルティアの元気一杯の自己紹介に居合わせた者達は面食らったようであった。話しかけてきた1人の美しい青年がヴェルティアへ一礼する。
「よくぞ参られました
恭しく一礼するティレンスと名乗った青年を見てヴェルティアはにっこりと笑った。
「お〜王太子殿下でしたか。これはこれはご丁寧なご挨拶ありがとうございます」
ヴェルティアの返答にティレンスもまた人好きのする笑顔を浮かべた。
「ところで私を呼んだ理由は何です? どんな困ったことがあるんですか?」
ヴェルティアの言葉にティレンスは少しばかり驚きの表情を浮かべた。いきなり見知らぬところに連れてこられたというのにヴェルティアの言葉に危機感というものが全く感じられなかったからである。
(見るからに何も考えてなさそうな女だな。こいつは利用しやすそうだ。それに容姿もいいな。くくく)
ティアレンスはかなり醜悪な考えを頭に浮かべていたが、それを表面に出すようなことは一切しない。あくまで深刻な事態であるとヴェルティアへ印象付けようとしている。
「実は勇者様をここに及びだてしたのは、魔王アリテミュラを斃し、私たちを救っていただきたいと思いまして」
「いいですよ」
「え?」
「ようは助太刀というわけですね!! いいでしょう!! その魔王さんを私が倒して見せましょう!!」
ヴェルティアの自信たっぷりな宣言に一同は呆気にとられた。
「さぁ、それではそちらはどれだけの軍勢を出せるのです? 当然種の存亡をかけた戦いですので、世界各国の連合軍となることでしょう。当然、国王陛下をはじめ王族の方々、貴族の方々、宗教団体の全体でことに至ると思うので軽く見積もって100万規模の軍勢でしょう!!いや〜そんな大軍勢とともに世界存亡の戦いに臨めるなんて腕がなるというものです」
ヴェルティアの宣言に場の空気が凍った。
「ん?どうしたんです?まさか、何も考えていないんですか!?」
「あ、いや……」
「仕方ありませんね!! ティレンスさん!! あなたがシュレーゼント王国の軍を率いる総大将です!!」
「え?」
「大丈夫です!! 王太子というのは戦場に出るというだけで意味があります。前線で剣を振るうだけで価値があります!!それだけで兵士達の指揮が上がるのです!!」
「お、お待ち……」
「なんと!! そうでしたか……シュレーゼント王国では国王自ら先陣に立つのが慣わしであったわけですね!! 私としたことがこの国のしきたりをよくも知りもしないのに完全な失態でしたね!!では総大将は国王陛下で副将がティレンスさんというわけですね!!」
「い、いや」
「当然、貴族の各当主の方々も前線に立ってくれるわけですね!! まさに貴族の精神そのものです!!素晴らしい!!」
ヴェルティアの言葉は止まらない。一同をぐるりと見渡し宗教関係者達に視線がとまる。ヴェルティアの視線を受けた宗教関係者達は顔を引き攣らせた。
「おお!! そちらは宗教関係者の方々ですね!! 敬虔な神の使徒として神の敵を打ち滅ぼすために先陣を切ってくれることでしょう!! 当然、教皇さんや枢機卿、大司教の皆さんも参加しますよね!!」
「え……ちょ」
「いや〜さすがは人族大連合!! ところで教皇さんはどこにいるんです?」
「きょ……教皇猊下はここにはいらっしゃいません」
「なんと!! 既に用意を済ませていつでも出陣できる状況というわけですね!!うんうん!!」
ヴェルティアの言葉に一同はどんどん顔色が悪くなっていく。こいつはとんでもない者を呼び出してしまったという思いがどんどん大きくなっていく。
「ちょっと待てぇぇぇぇ!!」
そこにティレンスの叫びが響き渡った。
「ん?ティレンスさんどうしたんですか?」
「どうもこうもない!!」
ティレンスの言葉にヴェルティアは即座に納得したかのような表情を浮かべた。
「なるほど、あくまでも魔王討伐はシュレーゼント王国が主導で行うというわけですね!!なるほど宗教関係が影響を持ちすぎると困るというわけでしたか……でも今はそんな政治的なことを考えている場合ではありません!!今は魔王討伐に全てを注ぎ込むべき状況でしょう!!大丈夫です!この私が参戦する以上、負けることはありません!!」
ヴェルティアは無駄に良い笑顔を浮かべて宣言するとサムズアップをティレンスに向けた。
「だから聞けと言っているだろう!!」
ティレンスはついに我慢の限度を迎えたのだろう。その様子には先ほどまでの貴公子然とした微塵もない。
「魔王を倒す戦いはお前がやるんだ!!」
ティレンスの言葉にヴェルティアは首を傾げた。先ほどまでの与し易しという考えがいかに甘かったかをティレンスは本能で察し始めていたのである。
「ん?魔王の侵攻で被害に遭うのはあなた方ですよね?どうして私がメインでやるんですか?」
「それが勇者の使命だ!!」
「ふむふむ、なるほど!! つまりシュレーゼント王国の王族や貴族達は全く
ヴェルティアの発言にこの場の空気が凍った。シュレーゼント王国の特権階級を名指しで侮辱したのだから当然というものである。
「まぁ仕方ないですね。そこまでこの国の戦力が脆弱であるならば私が中心となってやるしかありませんね」
「き、きさ」
ヴェルティアの言葉にティレンスは口をパクパクさせている。ティレンスの今までの人生でここまで虚仮にされた経験などない。
「ところで私が魔王を討伐するとして見返りは一体なんです?」
そんなティレンスの様子などヴェルティアは意に介することなく問いかけた。この問いかけはヴェルティアにとって勇者として世界を救うことはビジネスであるとみなしている証拠であった。
「私との婚姻だ。王妃として……」
ティレンスの返答にヴェルティアは心の底から不思議そうな表情を浮かべた。そのヴェルティアの表情はティレンスにとって不快そのものである。
「えっと……どうしてあなたとの婚姻が見返りになるんです?」
「な」
「そもそも私結婚してますしね。まぁ、私の美しさに心奪われるのは仕方のないことです。私への想いを振り切るのは大変でしょうけど頑張ってください!! 大丈夫です!!
シルヴィスに遠く及びませんが、あなたを好きになってくれる人もきっと現れるはずです!!元気出してください!!」
ヴェルティアの謎の励ましにティレンスは怒りの余り手を挙げる。
しかし、次の瞬間にヴェルティアがティレンスの腕を掴んでいた。ヴェルティアの実力からすれば当然すぎる結果である。
「ぐ、ぐああああ!!」
腕を掴まれたティレンスが叫び声をあげる。ヴェルティアは特段力を入れている様子はないのだが、ティレンスは腕が握りつぶされるかのような苦痛を感じているのである。
「いきなり殴りかかる……なるほどそういうことですか!!」
ヴェルティアは少しばかり不思議そうな表情をしていたが全てを理解したような表情を浮かべた。
「つまり皆さんは私の実力を知りたいというわけですね!! いいでしょう!! 私としてもあなた方のレベルがどれほどなのかを知っておかないといけませんからね!!」
ヴェルティアは自信たっぷりに宣言した。
「さぁ、始めるとしましょう!!」
【あとがき】
主人公の元の世界で何が起こっていたかは
『チートを拒否した最強魔術士。転移先で無能扱いされるが最強なので何の問題もなかった』の第二部261話『ヴェルティア誘拐①』から確認できます。
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