無能スキル『管理人』ってダンジョンマスターになれるのかよ!?〜金も力も家賃になるなら最強を目指すしかない〜
@7j543
1章 ハンター準備編
第1話 両親との別れ
「そんな美味い……ですか? 陛下」
「うむ、美味じゃ。シオン、この料理を作った者を後で呼べ。そなたにも褒美を取らせよう」
「いや、うちではそう言うの無い文化なんで、勘弁してください」
「そうであるか、まあここはシオンの国じゃからの。流儀には従うべきか」
俺の目の前で物凄い勢いでトンカツを食べる赤い髪の美女、ミュリエルを店内にいる多くの客がチラチラと見る視線が気になる。
あまりに見るに耐えない汚い食べ方だとか、食べる量が凄いとか、そんな理由では無く彼女が明らかに目立ってしまうほどの美人であり、どこぞの俳優がお忍びで来日しているのではないか。
そう思ってミュリエルを見ているのだ。
「トンカツ、と言ったか。パンの粉を纏わせ油で揚げるとは何とも面白い発想じゃの。しかもわざわざ豚を食う為に育てるとはニホンは我が国とはまるで違うようじゃ」
我が国、と言っても彼女は外国人ではなく異世界人。全く違う世界から来たのだが、俺の国を案内しろと言われて取り敢えず駅近くのトンカツ屋に連れて来た。
今から2週間ほど前に、俺の家の地下に謎の穴があることに気がついた。その穴はどうやら小さなダンジョンだったようで、俺の持つ能力『管理人』によって拡張、整備されて自宅の地下に秘密のマンションを建築した。
何故マンションなのか。能力によって出来ることはいつくかあったが、マンションという項目が気になって目の前に映るパネルをタッチしたらマンションが出来てしまった。
そんな感じだ。
すると、つい先程異世界人らしき、しかも女王のミュリエル陛下と名乗る彼女が地下のダンジョンに現れた。
マンションの住民候補? として召喚されたらしいのだが、あくまで候補でどうなるかは分かっていない。
あまりに唐突で驚いたのだが、俺としてはここを気に入ってもらう必要があるから、まずは日本といえば食べ物かと思い、飯でも食べようということで外に連れ出して現在に至る。
服装がファンタジー過ぎた陛下をそのままの格好で出歩かせる訳にも行かず、俺の服を貸した。
だが、全部パッツパツでボディラインが見え過ぎている。
それもあって注目されている。
「……陛下、ちょっと失礼します」
「どうしたシオン?」
席を立とうとする俺をミュリエルがやや警戒した顔つきで見た。
「いえ、お気になさらず……あ〜、今カメラ向けたな? 消せ、盗撮で警察呼ぶぞお前」
「は、は? 何言ってんの? いや、撮ってないし……」
「馬鹿かお前、背後に監視カメラあんだよ。なんなら店員に確認してもらおうか? バッチリお前が盗撮してる様子映ってると思うけどなあ?
この場で消したら不問にしてやるからさっさと消せ!
『最近削除した項目』からも消せよ、言うまでもないが」
彼女にスマホを向けた中年の男性の座る席まで向かい、盗撮を指摘した。気付かないと思ってるのか? チラチラ見る分には仕方ないが、俺の客人を盗撮するのを許すはずがないだろうが。
「おい! お前、そこの女、お前もだ。堂々と撮れば盗撮にならないとでも思ってんのか?」
「ご、ごめんなさい……!」
全く、どういうモラルしてやがるんだ。芸能人(と勝手に思ってる)相手なら肖像権ないとでも思ってんのかよ。普通に人としておかしいだろうが。
二人の写真削除を確認して、席に戻る。
「陛下、そろそろ出ましょう。人目が集まり始めてます」
「うむ。余の顔立ちがニホンの民とは違うことは分かっておるでな。仕方あるまい。……何をしておる?」
「何って、支払いですよ。食べた分のお金を払わないと捕まります」
「ああ、その場で払う仕組みなのじゃな。我が国の平民もそうしておるが……シオン、そなたは平民ではなかろう?」
「平民……と言うか身分制度がありません。何故俺が平民ではないと?」
「そんなもの食事の作法や、話し方を見ておれば平民ではないと分かりきっておろうが?」
「あ〜、この国では普通なんですけどね」
「そうか、やはりまるで違う世界なのじゃな……」
金を払う様子を興味深そうに眺め、改めて周囲を見たミュリエルは自分の国とここを比べたのだろう。何とも言えない表情をしていた。
まさか少し前にこんなことになるとは思いもしなかったのだが……。
***
この世界に突如、未知の物質やエネルギー資源の採れるダンジョンなるものが出現してはや20年。
それによる影響なのか、人々には基本的に一人一つずつ、『スキル』が与えられそれまでの社会とは一変した。
俺が産まれる前の話なので、どう違うのかは教科者やニュースなんかでしか知らないから、ダンジョンやスキルがあるのが普通だ。
両親はダンジョンで稼ぐ『ハンター』と呼ばれる職業に就いていた。
かなり強くて有名だったらしいが、あまり仕事の話は俺にはしたがらなかった。それなりに危険のある職業なので、憧れさせたくなかったのだろうと思う。
まあ、俺がハンターなんて無理な話だ。と言うのも、戦うことに向いているスキルが与えられていないのだから。
『管理人』それが俺のスキル。『自身が所有する土地を管理することが出来る』
役所での鑑定で、そう出たらしい。こういう個人のスキルの内容は個人情報として扱われ、役人でもその場で説明するのに見るだけで記録などは許されない。
過去にそのスキルのせいで大きな問題があって法改正がされたと聞く。
ゲームみたいに自身の能力について詳しく知ることが出来れば良いのだが、役所で出来る鑑定の精度はたかが知れている。
大体、自身の所有する土地を管理出来るって当たり前だろうが。もはやスキルですらなく、事実でしかないだろ。
ということで、実質的にスキルと呼べる者は俺にはなかった。
高校2年の現在、流石に現実が見えている俺はハンターなんて職業は将来の選択肢にはなかった。
力では勝てないので取り敢えず勉強はちゃんとしていたので、レベルの高い高校に入れた。
しかし、レベルの高い高校ということはスキル推薦なんかで入って来た将来のエリートハンターの卵のような奴らが沢山いる場所だ。
両親がそこそこ有名なだけに能力のない俺は舐められていた。というか、それはもう小学校からずっとだ。そのせいか、戦闘能力はないくせにやたらと好戦的な性格になってしまった。
防衛本能なのだろうか? 喧嘩っ早い性格であることは認める。
両親としても弱い俺が揉め事に巻き込まれるのは心配な反面、申し訳なさのようなものがあったのか、それについてあまり叱られることはなかった。
弱かろうが、ハンターとしての素質がなかろうが息子として愛されていたのは分かっている。
そんな、俺を愛してくれた両親が仕事中に事故で死んだとの報せが入った。
リスクのある仕事。命を落としてもおかしくない。その代償に俺は平均よりは恵まれた生活をしていた。
いつかこんな日が来る。薄々感じて覚悟はしていたつもりだったが、これはキツかった。
呆然として、何も手につかずに親切にしてくれているように見えた親族のクズどもに遺産などをかなり奪われてしまった。
俺に残されたのは、今まで住んでいた家と通帳に入っている1000万円と少し。
ここから信用出来ない親族と一切関わることなくやっていくと考えると収入源も使えるスキルもない、所詮高校生のガキの俺では心許ない。
ハンターの保険や装備品など売れば数億になるというものまで持っていかれてしまった。
1ヶ月後、日本の巨大ダンジョン管理会社が両親の遺産だった装備品などを購入していたことが分かった時は言葉に出来ないほどの怒りを感じた。
なんとか取り返したいし、親族はぶっ殺したいが俺には力がない。悔しい……そして、とてつもなく心細い。俺は思っていた以上に両親に支えられて今まで生きて来たのだ。
守られていたのだ。もう何かも奪われるのはゴメンだ……。
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