普通とは案外難しいものである
クククランダ
第1話 いつも通りの日
今日も素晴らしい1日が始まる。そんなことを思いながら窓を開ける。今日は快晴、雲もなく日差しが眩しい。
「今日も良い天気だな」
ふと、下を見ると子供たちが広場の近くで元気に走り回っているのが見えた。うむ、大変元気でよろしい。俺もそろそろ準備して下に降りるか。
「あ、どうも」
「………」
白髪のおじさんと目があったので挨拶をする。この人はこの宿の店主だ。愛想は悪いがそれでもしっかりと客のことを考えてくれてる良い人である。
風呂は毎日綺麗にしてくれているし、飯もしっかり丁寧に作ってくれている。とてもありがたいことだ。俺は席についてメニューを見る。
「注文は何にするんだい?」
店主の奥さんが声をかけてきた。歳はそれなりに取っているがそれでもまだまだ現役で働いている。すごいな。
「えっと、これください」
「はいよ! あんたも冒険者やってるんだからしっかり食って体を作りなよ!」
そう言いながら背中をばしばしと叩かれる。すごく母って感じがするな。そして俺は運ばれてきた飯を食った。
「ふぅ、食ったな」
腹が満腹になり宿の外に出た。俺はあるところに向かっている最中だ。あと少しくらい歩けば着くだろう。
「よし、着いたな」
数十分ほど歩くと巨大な建造物がそびえ立っている。ここは冒険者ギルド、あの女将さんが言っていた冒険者と呼ばれる者がここで依頼を受けたりする為の所だ。
建物がデカすぎると毎度思うがここは王都だ。世界有数の大国であるからこそ冒険者もありえない程に多い。だから必然と冒険者ギルドも大きくなったのだろう。
「ま、とりあえず中に入るか」
ギルドの中はとても活気があった。無数の傷を負ったベテランの冒険者、まだ新人であろう冒険者など様々な人間がいた。俺は人混みを避けながら掲示板に貼られている依頼書を見に行く。
「んー。ゴールデンタイタンの討伐に薬草の採取。あとは第二迷宮のマッピングかぁ」
今回はどれにしようか。薬草の採取は、今回はいいや。ならゴールデンタイタンか、マッピングの2択だな。
「………よし、決めた」
俺はゴールデンタイタンの依頼書を手に取った。そのままギルドの出口に向かおうと振り向いた瞬間、1人の女性とぶつかってしまった。
「おっと、悪いな」
「………」
その女性が顔を上げる。俺はその女性の顔を見た瞬間、心の中でまずいなと思ってしまった。
眠そうな眼。薄紅色の長髪、普通の女性より少し小柄な体、特徴的なのは長い耳を持った美少女だ。滅多に人里に降りてこないことで有名なエルフである。名前はリリスだ。
「………別に」
リリスは明らかに嫌そうな顔をする。俺は急いでその場を離れようとした時、彼女のパーティメンバーが集まってきた。
「リリス、どうしたの?」
「また、絡まれてるんですか?」
「王都って言ってもこういう輩はいるのね」
銀髪に赤い目を持った王子様のような外見の美女、魔女のようなとんがり帽子をかぶっている長い黒髪の美少女、水色のセミロングの髪の毛先をいじっている美女。
普通ならこんな美女と美少女に囲まれる展開、男なら誰もが羨むことだろう。だが、俺は嬉しいとかそんな気持ちはない。むしろ早く逃げたい気分に襲われている。
それはなぜか? 簡単なことだ。こいつらが男が嫌いだからである。誰だって嫌われているとわかっているのに話しかけに行くようなことはしないだろ? 心なしか4人に睨まれている気がするし、さっさと逃げるか。
「えっと、ぶつかって悪かったな! じゃ、俺はもう行くわ!」
俺はそれだけ言い残してその場から走って逃げた。なぜかナンパ男が逃げるような捨て台詞を吐いてしまった。まぁいいや。さっさとクエストに出かけよう。
俺はそのまま王都を出た。
▲▲
「大丈夫? 何もされてない?」
「別に平気。ただ、ぶつかっただけ」
ラーシャの問いにリリスは首を横に振って答える。
「そうだったんだ。なら僕たちが早とちりしただけだったんだ」
「この王都に来てから絡まれることが多かったですしね。さっきの方には悪いことをしました」
「ま、別に良いんじゃないかしら? 男なんてみんな顔や体しか見てないケダモノなんだから」
そう言いながら水色の髪をイジるルルカ。その言葉を聞いた3人はなんとも言えない表情になる。
「まぁ、ケダモノって思っても仕方がないよね」
「ですね。私たちがパーティ結成をしてからそういう男性としか出会いませんでしたから」
カーラは王都に来てからのこと、王都に来るまでに別の場所で活動してた時のことを思い出す。これまで会った男性はほとんどの人間が自分か、他のパーティメンバーに嫌な視線を送って来たのだ。酷い時は強引に迫られて来たこともあった。
そのせいもあってか、4人全員が男に対して偏見を持ってしまっている。
「………」
「リリス? 固まってますけど何か気がかりなことでもあるんですか?」
カーラはリリスが固まっていることを不思議に思った。リリスの視線はギルドの出口に向いている。
「………目」
「……め?」
「うん。さっきの人、一回も私の体を見ていない。ずっと目を見てた」
「え、それは本当なの?」
ルルカは一度リリスの体を眺める。リリスは体こそ小さいが胸は大きい。巨乳と言っても良いレベルだ。だからこそ、男はそのリリスの胸を眺めてしまう。
でも、あの男は一度も見なかった? そんなことが今まであっただろうか? ルルカは考え込んでしまう。
「ねぇ、リリス。本当に、ほんの少しもそんな視線を感じなかったの?」
「うん、見られたら一瞬で分かる。でも、彼からはそんな視線を感じなかった」
「そう、なのね」
4人の間でなんとも言えない沈黙が続く。まさかそんなことがあるのかと本人含め全員が思っていた。
そんな空気が続いているとラーシャが手を叩く。
「と、とりあえず出ようか」
「……そう、ですね。出ましょうか」
そうして4人はギルドから出て行った。
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