第33話 クリスマスイブ

恋する者たちにとって、一大イベントのクリスマスイブが近づいている。

これまでクリスマスイブは、ただの12月24日でしかなかった。

一応、スーパーで食材と一緒にケーキを買うが、その日にパック入りのケーキを買うイタイ女に見られると嫌なので前日に購入する。

今年は、意外にもロマンチストであることが判明した同居人がいる。

どんな提案をしてくるのか、楽しみでもある。

「カイ、クリスマスはバイト?」

「いや、バイトやめる。親父が仕送り増やすから学業に専念しろって、あとヒモみたいだから、ゆりっちに生活費もちゃんと実費で渡すように言ってた」

「そんなに負担じゃないから大丈夫だよ。晴れてお医者様になった暁には、たんまりお返ししてもらうから」

「へぇ~未来のこととか言うの珍しいね。ちょっと成長~」

「おかげさまで」

「憎まれ口聞かないのも、すんげぇ~成長」

「・・・まっ、いいか褒めてるし」

「ケーキ食べたばかりだから、イブはアップルパイがいい、ゆりっちのアップルパイ最高だから」

「わかった、用事がないなら23日に買い出しに行っといてくれる?メモっとくから」

「任せておきなさい」

余計なものを買う心配が頭を過ぎったが、仕事は休めないので譲歩した。

当日にバタバタするのは避けたいし、準備万端は私の流儀でもある。


やはり、イヤな予感は的中した。

作る予定の料理の食材以外にも、ナニコレ商品がテーブルに並んでいる。

「これ、なに?」

「アロマの蝋燭(ろうそく)、一緒にお風呂入るときに使うの。あとイルミネーション、これがあると夜の営みが華やかになるでしょ。これはムスク、香りに欲情するらしいよ」

「場末のキャバレーか、頭の中それしかないのか!」

ロマンチスト訂正、ただのエロ男爵です。

「華やかにする必要もなければ、一緒にお風呂にも入りません。全部、メルカリ行き!」

想像していたロマンチックなクリスマスは望めそうもないが、ボッチではないことが唯一の救いかもしれない。


チーズが好きなカイのために、イブの料理はチーズフォンデュにした。

「おすすめはカステラ、甘じょっぱくてクセになるの。カイ好きだと思うよ」

アボカド、カボチャ、かにかま、好きな食材を並べるだけで、ボリュームたっぷりでおしゃれにテーブルが彩られる。

そのほかにツナとレモンのペンネサラダ・ベーコンとセロリのトマトスープを作った。

もちろん、リクエストのアップルパイもある。

「もう、これ以上は食えねぇ~、ゆりっちも食えねぇ」

「それは良かった」

ソファーに寝ころびながら、カイが呟いた。

「タクヤ、うまくいってるかなぁ、きょう告るって言ってたから」

「えっ、タクヤ君好きな人できたんだ。どんな人?カイの知ってる人?」

「よく行くカラオケの子っていうんだけど、よくわかんない、説明されても、あんま印象ないんだわ」

「タクヤ君のタイプの子って、どんな子なのか興味がある」

「俺みたいなの」

「???」

「あいつ、バイなんだって知らなかったよ。高校の時から俺のこと好きだったらしい。入学式に声かけてきたのも、ビビッてきたからだって。そこから友達になったわけだし、一緒の布団で寝たこともあるけど襲われなかったし、全然気が付かなかった。ゆりっちの出現で諦めがついたんだって。まっ知ってても、どうにかなってたわけじゃないけど天と地がひっくり返った」

それはカイじゃなくても青天の霹靂だわ。

そんなことおくびにも出さずに”カイを幸せにしてやってください”なんて言ってたんだ。

しかもバーベキューの時のけじめは、マリリンだけじゃなく自分への戒めだったなんて考えるだけで、胸が苦しくなる。

4年間もの間、ずっとそばでカイだけを見ていたタクヤ君の気持ちを考えると居たたまれなかった。


それにしても出現って、地から芽を出した毒キノコみたいじゃないか。

タクヤ君から言わせれば、その比喩じゃ足りないくらいのマグマが心の底に煮えたぎっているかもしれない。

ここは何としても新しい恋に全力でエールを送ることにしよう。

「でも他に好きな子ができて良かったじゃない。応援したいね」

「そうだな、いまは女に食指が動かないんだと。相手にその気があればいいけどな」

うーーーん、今回も男なのか。

ちょっと玉砕のキナ臭いニオイがしてきたが、そこは奇跡を信じるしかない。

自分が幸せになる分、ほかの人が犠牲になるって辛い。

仕方がないことかもしれないが、心にズシンと来る。

その分、幸せになるしか、その哀しみを癒すことはできないんだよね。

頑張るよ、タクヤ君が私で良かったって思ってくれるように。

タクヤ君の朗報も待ってるからね。

期待値<レベル85>


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