第27話 逆プロポーズ

「なんかさぁ~親父が怪しんでる」

父親からのLINEを見ながらカイが言った。

「ここ来る前に入居する予定だったマンションにも引っ越さなかったし」

「お父さん、秋田にいるんだっけ」

「3年だけ仕事の関係で」

「病院関係だったよね」

「地元で新しい病院を開院するので頑張ってる」

なんかサラっと言ったけど、またまたカイが遠くに行っちゃった気がする。

「開業医か、だからカイも医大なんだ、、、ものね」

「一人っ子だし、自然の流れ」

「ハイスペックだよね、イケメンで高学歴、高身長、医者なら高収入も確約だし

世の中の男子、全て敵に回してるよ」

「なにそれ」

「そんな私だって、世の中の女子を敵に回してるかも」

「戦う必要なくねぇ」

「ダメだよ、弱肉強食の世界なんだから食ったもん勝ちなの」

「いきなり肉食?!」


そんな会話を交わして数日後だった。

「なんか親父、東京で学会があるから明日来るって」

「いやいや、急じゃん、マズイまずい」

「ちょっと立ち寄って、日帰りするらしい、おれの顔が見たいんだって」

「じゃあ、私は仕事だから合わずに済むね。いきなりは無理。心の準備が必要だもの」

「わかった、一応それらしき人はいるって話しといたから、察してくれるんじゃない」

ノーマルな形態だとそれでOKなんだけど、そんな楽天的でいいのか不安になった。


「ただいまー!たい焼き買ってきた」

ドアを開けると、玄関に見覚えのない革靴が並んでいた。

部屋には背中しか見えないが、背広姿の男性が座っている。

「って、、、失礼いたしました。部屋を間違えました」

そっとドアを閉めようとして止められた。

「ゆりっち、ばれてる」

奥にいるカイが首を振ったので観念した。

「お邪魔します、は変ですね、えーーーっと」

「はじめまして・・・」

「はじめまして、カイの父で三枝博です」

カイとはあまり似てない実直そうな紳士である。

「宮下百合です。カイ君とは仲良くさせて頂いております。って、仲良くはちょっと変だけど、事情があって一緒に住んでますが、住んでるだけっていうか・・・」

「・・・」

お父様は言葉を選んでいるようだった。

カイが沈黙を埋めるように言った。

「俺の正直な気持ち、全部話したから」

「いきなりでビックリですよね、わたし本人が一番驚いているんですから」

「すいません、ちょっと頭の中を整理してまして。正直言って混乱しています。カイから大体のことは聞きました。今日は日帰りのつもりでしたが、ぜひともお会いしたくて、お待ちしていました」

「・・・わかります。反対でも構いません、常識はずれなのも承知しています。お父様の承諾が頂けるまで待ちます。待つのには慣れていますから」

「反対ですか、そうでしょうね、普通は反対しますよね。親子ほどの年が離れていたら色々な弊害もあるでしょうし。結婚となれば、どうしても本人同士の問題だけではなくなりますからね。カイは一人っ子でもあるので家業とか、色々と外野がうるさくなるでしょうから」

「僕は父さんに祝福してもらえれば、それでいいよ」

「百合さんはそう思ってはいないみたいだね」

「・・・」

「百合さんに聞いて貰わなきゃと思って、帰りを待ちながらずっと考えていました。初対面でちょっと重い話ではあるんですけど、聞いてもらえますか。この子の母親はこの子を産んで3か月後に亡くなりました。これからの成長を見れない、可愛い子供を残しての無念さは計り知れなかったと思います。でもね、彼女は妊娠した時から覚悟を決めていました。難治性の病気で妊娠することは相当のリスクがあることを僕も彼女も承知してましたから。

そして自分の命と引き換えにカイを生みました。わたしも彼女の希望を叶えてあげたかった。それを無謀とか身勝手とか、世間では言うのでしょうけど、そんなことはどうでもよかった。彼女は生きてた証に、僕を愛した証にカイを授けてくれました。それが我慢強い彼女の最初で最後の我儘だった。カイは私と洋子の大切な宝物です。この子の幸せは私の幸せでもある。叶えられる希望ならすべて叶えてあげたい。プロポーズのお返事は保留だと聞きました。どうかこの子の気持ちを受け取って頂けませんか」

「・・・ずっと迷っています、カイ君に相応しい人は私じゃない。たぶんお父様は反対されるでしょうし。私はそれを断る理由にして安心するんだと・・・卑怯ですよね」

「正直な方だ」

「・・・私を選んでくれたカイ君を信じたい、私でいいんでしょうか」

「正しい答えなどありませんよ、それを正解にするのはこれからのあなたとカイでしょう」

涙があふれて視界がかすむ。

そうだよ、何が正しくて何が間違ってるなんて今はどうでもいい。

カイと幸せになる、それで充分。

突き放しても、ひどい言葉で傷つけても、そばに寄り添ってくれた。

カイと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる、心からそう思えた。

「ずっとずっと一緒にいたい、お父さん、私カイと結婚します」

「なんだ、逆プロポーズじゃないか、カイ、どうしたカイ」

「・・・聞こえてるよ、お・・・OKに決まってるだろ・・・」

カイが流した涙のぶん、いっぱい幸せになろうね。


私に勇気をくれたお父様に<レベル99>

1点足りないのは、お父様が一つ年下だったから。


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