第6話 紅玉

会社から帰宅すると、玄関前に座り込んでる人影あり。

近づくとイケメン隣人と判明。どういう状況?

「あっ、お帰りなさい」

立ち上がると王子様キャラ全開に圧倒される。

「ただいま」

痴漢騒動の一件以来の顔合わせだ。

お礼を言うべきなのか、迷う。

「これ、秋田の親父が送ってきて、おすそ分けです」

差し出されたビニール袋にギッシリの林檎。

ちょっと小ぶりの紅玉ってヤツだ。

林檎は好きなので品種には詳しい。

ちょっと酸っぱいが、そこがお菓子作りには最適なのだ。

「なんか、皮を剥くのが面倒で」

危うく、剥いて差し上げましょうかと提案しかかったがヤメた。

彼には喜んで林檎の皮を剥く女はごまんといる。

「いつも頂くばかりですいません」

「あれから大丈夫ですか」

なんのことか察するのに時間がかかった。

「なんか余計なお世話と思ったんだけど、気になっちゃって、最近同じ電車に乗らなくなっちゃたんですね」

そうだ思い出した、あの痴漢騒ぎの日は偶々遅くに起きて、いつも乗る電車じゃなかった。

ということは、私を心配して、わざわざあの時間の電車に乗っているの?

なぜ?!お姫様を守る白馬の騎士かよ。

「はい、あれが最初で最後だと思いますので、ご心配なく」

訳の分からない返答をするな。

なんだよ、折角のチャンス、二度とないチャンス、見逃すのかよ。

「なら良かった、あっ、その林檎ちょっと酸っぱいので」

キラキラした笑顔を振りまきながら、彼は部屋に戻った。

知っています。あなたも知っているということは、やはり剥いてくれる人がいるのですね。

違う、ちがう拘るとこ、そこじゃないでしょ。

ぶっちぎりの優しさに<レベル90>あげちゃいます

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