リロード青春 〜人生やり直したら陰キャだった、それなのに周りの女の子達がグイグイくる件について
うさこ
終わりと始まりのディスティニーシー
疑問に思ったんだ。今までの人生はおかしかったんだ。
それに気がついたのは初めて依頼に失敗した時だと思う。『未来視』『リロード』の能力がある俺に失敗などあり得なかった。
人に興味が無かった。仕事もどうでも良かった。人生に目的なんて無かった。ただ生きているだけの存在。
なんてことはない、ただ組織に裏切られて失敗しただけだ。
死ぬ事は怖くない。いつしか人は死ぬんだから。でも心残りはある。
「御子柴……、なんで? 逃げられたでしょ?」
「ははっ、わりいな。なんか誰かに影響されちまったんだよ。てかさ、殺しに来た
ディスティニーシー、神奈川県にある大型パクリテーマパーク。駐車場の片隅。
転がる死体、ナイフで滅多刺しにされた俺の身体。俺を抱いて泣いているのは同僚の吉田。
そういや、初めて吉田の顔をはっきりと見たわ。
なんだ、結構可愛らしい顔してるんだな。
まあなんでもいいか……。
俺は懐から電子タバコを取り出す。酒でもあれば最高だ。手が震えてしまってタバコを持ち上げられない。
「逃げろって言ったのになんで? ぼ、僕のせいで……」
吉田は手に持っていた銃を力なく落とす。
バカ、俺が逃げたらお前が死ぬんだよ。お前は人質だったんだよ。自分でも知らずにこいつに情を抱いていたんだな。組織の選択は最良だ。俺を殺したかったら吉田を使えばいい。
「違えよ。俺は、自分の意思で死ぬんだよ。……お前、ちゃんといい女になれよ」
「そんなの、無理だよ……」
そう、俺達は普通じゃない。死と隣り合わせの危険が日常だ。でもな、願い事くらい構わねえだろ?
「恋人作って、結婚して、ガキを育てて……、幸せになれよ」
「だから無理だって言ってるの!! こんな世界じゃ、こんな現実じゃ……。君がいないと出来ない、よ……」
言葉を発しようとした時、俺の身体がなにかに反応した。ナイフで刺されていようが、死ぬほどの痛みを抱えていようが、身体は反応する。
射線、吉田を蹴り飛ばす、ライフル、銃弾、胸を突き破る、心臓が破裂する、暗い、死ぬ――
全てがスローモーションに感じる。吉田の顔が驚きから絶望へと変わっていく。
人生なんてこんなものだ。
ガキの頃から実験台にされて、弄ばれ、悪事に加担し、最後は殺される。
……普通の青春ってなんだろうな? 普通の生活ってなんだろうな?
このディスティニーシーには笑っている人々で満たされていた。そんな人達を見ていて、俺は不思議でしょうがなかった。どうすればそうなれるのだろうか、と。
吉田と一緒に学校通ってみたかったな。放課後カラオケなんて寄ってさ、ポテチだっけ? あれ食べてコーラ飲んで歌って……、あ、俺達歌知らねえな。なんでもいい、とりあえず二人で騒いで楽しんで……。
そんな、青春、送ってみたかった。
その時、全身の細胞が沸き立つような感覚に陥った。
時間が止まったように思えた。空気が凍りついている。身体の痛みも止まった。
初めての感覚だ。眼の前が真っ白になる。俺を見下ろしている誰かがいた。
このテーマパークのマスコットキャラ? なんだ? 幻覚を見ているのか?
『青春したいのか、むき?』
『あ、ああ、願わくば……、てか、むき?』
『ならば、貴様の願いこのムッキーが叶えよう。対価はすでにもらっている。死にたい願いと生きたい願い』
『はっ? お前何言って――』
『リロード、むき』
*****
目が覚めるとそこは風呂場だった。俺が住んでいる江の島のアパート。
「生きてる……。何が起こったんだ? ていうか吉田は無事か……?」
身体に痛みが走る。ナイフで刺された傷じゃない。殴られたような外傷と……、手首をナイフで切った傷だ。血がまだあたたかい。
……自殺か? 浅すぎてかすり傷にしかなっていない。
風呂場に映る顔は自分だった。だが、少し痩せている。身体もそうだ。全然筋肉が付いていない。ヒョロっちょだ。
状況が飲み込めない。スマホが転がっていた。
「あいつリロードって言ってたな。……なんの意味のリロードなんだ?」
俺の能力のリロードは精神的肉体的疲労を瞬時に元の状態に戻すだけの能力だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
スマホが震える。メッセージ一件、差し出し人むっきー。
『世界は根本を変える事はできない。枝をほんの少し変えただけだ。貴様のリロードを進化させた。新しい自分と向き合うのだ』
新しい自分……。
……てことはあれか? この腐った世界はそのままで、俺の存在だけが一からリスタート、リロードしたって事なのか。平行世界みたいなものか?
『理解が早くて助かる、むき』
「って、心の言葉に返信してんじゃねえよ⁉ ハムスター野郎!! てか、俺のライン友達ってこいつしかいねえじゃん!」
『光栄に思え』
「ちょいまち、リロードして新しい自分になるって理解したが、ここにいるこの俺は?」
『違う人生を歩んでいたかも知れないお前の可能性の一つだった』
「過去形って事は……、そっか……ここで死んじゃったんだな。なんだよ俺、もっと頑張れよ。ていうか、人の事言えねえか」
『何にせよ、これで契約は完了だ。気が向いたら連絡する、むき』
それっきりムッキーから返信は来なかった。
……違う俺が存在していた世界、根底は同じ世界。世界の枝葉が違うだけ。
「気を取り直して状況を整理するか」
とりあえず俺はシャワーを浴びて血を流す事にした。
元の俺のアパートに比べて普通の学生みたいな感じの私物がおいてある。
アルバムやら書類やら色々調べたが、基本的な情報は一緒だった。両親はいない、孤児院で育てられる、引き取った人間が違う。
こいつの保護者は真っ当な人間だった。諸事情があってここでひとり暮らしをしているが、家庭環境に問題があるわけじゃない。むしろ保護先が優しすぎて迷惑をかけたくなくて一人暮らしをしているみたいだ。
日記にはそう書かれてあった。
……なんか俺っぽくないな。まあいいや。
「えっと、中学時代は……」
引き取られたのは中学の時、そこの同い年の娘とも関係は良好……だった。
中学の時から始まったいじめによってこいつの人生が狂った。
引きこもり、一人暮らしをし、勉強をして、いい学校に入って、高校から一からやり直したいと思ったんだ。
……一人暮らし出来る金は持っていたんだな。てか、俺も金を稼ぐ才能はあるしそこは一緒か。
苦悩や悔しさ、悲しさや寂しさ、自分の能力の低さを嘆き、それでも義両親と義姉との約束を守るために高校に通って……、感情が日記から感じ取れる。
ていうか、こいつ誰も恨んでねえんだ。……そっか、頑張ったな。
「で、高校に入っても状況は変わらなかった、再びいじめが起こったってことか……」
俺は日記を抱きかかえるように自分の胸に持ってくる。
目を閉じて黙祷を捧げる。
――あとは任せろ。どんな状況だか知らねえが、お前の願いと俺の願いは同じだ。
日記の最後のページには――
『青春したかったな』
と書かれてあった。自分の胸を強く掻きむしった。
ああ、青春してやろうじゃねえか――
『リロード青春』
俺の第二の人生の始まりだ。
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