第4話 カウンセラー水亀信乃
姉から渡された名刺にある水亀先生だろうか?僕に椅子に座るように促す人物は男性か女性かもはっきりしないような端正な顔立ちをしていて、声を聞いているだけでも落ち着く不思議な雰囲気がある。髪色は少し明るめではあるが、染めているような色ではなく、それほど、長身でもないのだが、姿勢のせいか背が高く感じる。全てが自然体で美しいといった印象を持たせる。一流のカウンセラーとは、皆こんな感じなのだろうか?
「初めまして。水亀です。当カウンセリングルームの代表カウンセラーをしています。お姉さんから、兼人さんは、心理カウンセラーを目指して学業に励みつつ、現場を学ぶために、こちらのカウンセリングルームでアルバイトをしたいとお伺いしていますが、間違いないですか?」
完全に正解ではないが、大体合っているので、よしとする。
「はい。研究者か臨床の現場で仕事をするか迷ってはいるのですが、臨床の現場を経験し、将来を考えたいと思っています。」
「分かりました。では、このカウンセリングルームで見たこと、聞いたこと全て外部に漏らすことを禁じますが、約束は守れますか?」
「はい。カウンセリングにおける守秘義務の重要性を理解していますので、守秘義務をきちんと守り業務に従事したいと思っています」
「分かりました。その守秘義務の約束はアルバイトを辞めることになっても守って下さいね」
守秘義務の重要性は知っていたので、さほど気にならずに返事をした。
「はい。もちろん。誰にもお話ししない事を約束します。」
「理解いただき有難うございます。では、これから一緒にお仕事をする私と茜ちゃんを紹介しますね。」
あれ?もうアルバイトが決まった・・・?急なこと過ぎて、頭がついて行かなかったが、水亀先生の声に耳を傾けた。
「まず、私の名前は水亀と書いて、ミナカメと読みます。ミナカメシノと言います。こちらのカウンセリングルームの代表をしています。たまに、他のカウンセラーがやって来る事もありますが、基本的には、ここでは私と茜ちゃんの二人でカウンセリングをしています。」
茜ちゃんと呼ばれている女性が、何やら勝ち誇ったような顔でこちらを見ている。先輩なんだから、言うこと聞けよとでも言いたげな表情だ。
「兼人くんと茜ちゃんは見た目が同じような年齢に見えますね。茜ちゃんは、私とは担当クライアントは違いますが、ベテランのカウンセラーです。分からないことは彼女に聞いて下さいね」
茜ちゃん・・・若く見えるけど、ベテランカウンセラーということは割と歳なのか、それとも、姉さんのような天才型の人間なのだろうか?
「はい。茜さん、どうぞよろしくお願い致します。」
「兼人・・・よろしくね。」
茜さんは、初対面の僕を呼び捨てにしながら、興味深げにじっと見つめている。本当にカウンセラーなのだろうか?それどころか、初対面の人に対して、この態度は人として如何なものかと思う。可愛い顔はしているけど・・・。
「ご挨拶はすみましたね。では、仲良く、助け合って下さいね」
水亀先生は茜ちゃんの態度は気にならないようで、柔和な表情で話しを続けている。時給の話しや、勤務時間の話しをしてくれているので、ようやくアルバイトが決まった実感が湧いてきた。それにしても、先生の声やこの空間は心地がいい。心が洗われる感じがする。
「では、兼人くん明日からアルバイト開始で、トレーニングも始めていきましょう。」
「はい。どうぞよろしくお願い致します」
「では、今日はここまでにしましょう。明日また同じ時間に来て下さい」
「はい。では、今日はこれで失礼します」
アルバイトが決まり、早く姉に報告したいという思いで、入って来たドアに足早に向かう。
「あと、大したお話しではないのですが、私も茜ちゃんも人間ではありません。」
「・・・え・・・?」
ドアノブを握ろうとした手が止まった。
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