第8話 眠れない夜

砂漠の岩の下に金属製の大きな壁と扉がある。エムザラが扉の前に立ち金属製の板に何やら入力するとガコンっと重厚感のある音が響く、静かに扉が上に上がる。

「入ってくれ。」エムザラが手で中に入るように促す。ノアとアークは中に入る。中はコンクリートの様な壁に囲まれとても狭い。3人がやっと中に入り込むと扉が閉まる。一瞬真っ暗になったかと思うと。ほんのり赤い照明と煙がノア達に降りかかる。

「うわっ!何だこれ!?」ノアが驚いたように叫ぶ。

「口に入るから喋らない方がいいよ。」エムザラが言う。

「けほ、光の粒子を落としているのだな?」アークが煙そうに手で煙を払い言う。

「君も喋らない!」エムザラが少しだけ強く言う。すると煙が止み目の前の重たい扉が上に上がる。天井はあまり高くないが中はだいぶ広い。中央に大きな白いテーブルが置いてあり、席が全部で10席はあるだろうか。奥を見ると廊下と扉がいくつもある。人が沢山住んでいるのだろうか?

「驚いたのう!コレだけの技術に人がある程度住んでいると見える。一体どうやって生き抜いて来たのだ?」アークが驚いたようにエムザラに聞く。

「いや、もう僕しか残ってないよ…昨年おじいちゃんとおばあちゃんが死んで僕が最後だ…」エムザラが静かに言う。

「そうじゃったか…すまんかった…」アークが申し訳なさそうに眉を下げる。

「いいんだ。寂しいけどおじいちゃんとおばあちゃんは随分と長生きしたよ。」エムザラはハハッと笑う。

「んじゃお前は去年からずっと1人なのかよ?」ノアが青い瞳で聞く。

「そうだよ。昔は沢山住んでたみたいだけど、僕が生まれた頃にはほんの数人だけだったみたい。っと改めて僕はエムザラだ!人に会えて嬉しいよ」そう言いながらエムザラはマスクを外す。中からは中性的な美少年が出てくる。髪はショートで額には汗をかいているがとても健康的に見える。

「おう!よろしくな!あのよ…着いてそうそうに悪ぃんだけどよ…トイレ借りていいか?」ノアが瞳を青くしながら言う。





「軽度の脱水症状が出ておるの。」アークがノアの横になるベットの脇に座り言う。

「うぅぅ気持ちわりぃぃ」ノアが呻く。

「水が合わんらしいのう。浄水器が必要じゃな。わしが何とか作ってみよう。お主は少し寝ておれ」アークがそう言うとノアが呻きながら返事をする。アークが部屋からでて1つため息を着くとエムザラが近ずいてくる。

「彼は大丈夫かい?」エムザラは心配そうに聞いてくる。

「うむ。どうやらこの星の水が合わんらしい。浄水器を作れれば何の問題もないが…何か要らん部品とか廃材はあるかの?あれば譲って欲しいのじゃが…」アークが手のひらを重ねエムザラに上目遣いでお願いする。

「別に構わないよ。奥の部屋に使わなくなったり壊れた物が沢山あるんだ。好きに使ってくれ。」エムザラがニコリと爽やかに笑う。

「何から何まですまんのう。部屋も借りてしまったし」

「部屋も沢山余ってるし、使わないのは勿体ないよ」

「ありがとうのう。して、先程の質問の続きなのじゃが、お主らはどうやって生き延びたのじゃ?」アークが質問する。

「おじいちゃんに聞いた話になるけど、僕達の御先祖様はGR光粒子に体制があって長いあいだ生きる事が出来たんだ」

「GR光粒子じゃと?なんじゃそれは?」アークが片眉を上げる。

「GR光粒子、guilty rainは大昔に地球上に目に見えない光の雨が降り注ぎ人々が次々と死んで行った。ただ死ぬ人も様々で、すぐに死んでしまう人とゆっくりと死んでいく人がいたんだ。僕の御先祖様はゆっくり死んでく側だったみたい」エムザラは続ける。

「僕の御先祖様達は急いで対策を考えて、GR光粒子をある程度除去する方法を見つけた。これもそれを応用した物だよ」テーブルに置かれたマスクを指さす。

「ただ、それでも完全に除去することは出来なかったんだ…だから僕達はゆっくりと死んでいく」エムザラが顔を伏せる。

「そうじゃったのか…良くぞ今まで生き残っていてくれた。わしにも責任の一旦があるからのう…」アークが頭を下げる。

「次は君の番だよ。君たちは一体何者なんだい?」エムザラが右手を腰に当て聞いてくる。

「ああ、全て話そう。じゃが話は浄水器を作りながらでもいいかのう?」




アークが浄水器をナノマシンを使い作り上げ、それとは別の物に取り掛かる。

「なるほど。そんな事が大昔にあったんだね…」エムザラが目線を下げる。

「わしを恨んでもらっても構わん…わしを殺してくれてもいい。じゃがノアだけは皆の元に帰してやりたいのじゃ。どうかそれまでは…」アークが改めて頭を下げる。

「君は悪くないさ。悪いのはいつだって人間なんだ…だから頭を下げないでくれ。」その言葉でアークは顔を上げる。

「人間の欲望は再現ないね。おじいちゃんの受け売りだけど」エムザラが少しハニカみ目線を移す。

「それ凄いね。どうなってるんだい?」エムザラが銀の砂の渦が物を構築していく様子を見ながら言う。

「これはナノマシンじゃ。目に見えない程の小さな機械達が物を組み立てるのじゃ。要らん部品をナノマシンの糧にしたおかげで数が増えたわい。っと完成じゃのう。」そう言うと小さなカプセルの様な物をエムザラに手渡す。

「何だい?僕にくれるのかい?」エムザラがカプセルを摘みまじまじと見つめる。

「GR光粒子完全除去装置、と言った所か」アークが何ともないように言う。

「完全除去装置だって?!」エムザラが急に立ち上がった事により手に持ったカプセルを滑らせ落としそうになる。

「そうじゃ。お主の先祖が作った装置を解析し、改良を加え小型化した。カプセルの中にナノマシンが入っておる。お主がカプセルを飲み込めばナノマシンが取り込んだGR光粒子を除去してくれるじゃろう」アークが小さな肩を回しフゥっと息を着く。

「そ…そんな…こんな小さなカプセルで?しかもこんな短時間で作ってしまうなんて…」エムザラが手のひら上のカプセルを見つめたまま言う。

「わしは世界で1番の人工知能を有しておるのじゃ。この位朝飯前なのじゃ。これでマスクをせずに外も歩けるじゃろう」アークが浄水器を持ち立ち上がる。

「外を…マスク無しで…」エムザラが呟く。

「君たちともう少し早く会えていればね…」エムザラが座ったまま項垂れている。アークは何も声を掛けてあげられない。その資格はない。浄水器を持ってノアの元に行く。





目を覚ますと部屋は暗くベットの上だった。体調が良くなっている。傍らにはずっと看病してくれたアークがベットに寄り掛かりながら寝ている。

「迷惑かけちまったな…ありがとうな」優しく頭を撫でてやる。

「くすぐったいのじゃ…むにゃむにゃ…」ノアが静かに笑う。AIも寝るんだなあとノアが思いながら自分に掛かっていた布団をアークに掛けてやる。ベットから静かに立ち上がり、扉へ向かう。扉にはドアノブがなく代わりに金属の板が着いている。どうやって開けるのか分からず四苦八苦していると手のひらが板に当たりドアが横にスライドし開く。

「エムザラに礼を言わねぇとな」部屋から出てノアは暗い廊下の奥に明かりが見え歩き出す。扉が開いたままになっており、明かりはそこから漏れているようだ。テーブルと本棚が壁際に置かれ、綺麗に整頓してある小ぢんまりとした部屋だった。壁にはマスクとエムザラが背負っていた大きな銃が掛けられているにここはエムザラの部屋だろうか。

「エムザラいるか?」部屋の中に声を掛けるが返事がない。中からは微かに水が流れるような音が聞こえる。躊躇しつつノアが部屋に入る。

「エムザラ?」やはり返事は無い。居ないのだろうか?ふとテーブルに視線がいく。テーブルの上には写真立てが置かれており、2人の老夫婦と小さなエムザラらしき子供が笑顔で写っている。

「ちっこいな。女の子みたいだぜ」するとガチャりと音が鳴る。音の方を見ると奥まった所の扉が開き中からエムザラが出てくる。湯気が立ち上り髪は濡れている。彼は服を着ていない。身体の線は細く腰はくびれ胸は大きい。下半身は…ついていない。彼は、いや彼女は女の子だったのだ。ノアが口を大きく開き、エムザラと目が合う。エムザラがノアと目が合うとみるみるうちに顔が赤くなり。

「いやあああああっ!」エムザラがしゃがみこむ。自分の面積を少しでも減らそうと小さくなるように。

「ごっごめんっ!」ノアが急いで部屋の外にでる。瞳が真っ赤に燃え心臓が早鐘を打つ。エムザラの裸を見てしまった。脳裏にエムザラの裸が焼き付く。忘れろ!考えるな!息を整え心を平常心に保つ。

「ごめん!礼を言いに来たんだが、扉が開いてて勝手に入っちまった。マジでごめん!」ノアが目を瞑りながら部屋の外で背を向けながら必死に謝る。

「こちらこそごめん。ここ扉の調子が悪くて勝手に開いちゃうんだ。少し待ってて」エムザラが中から言う。中から衣擦れする音が聞こえる。急いで服を着てるのだろう。ノアは自分の耳の良さが嫌になる。

「いいよ」エムザラが中から言う。ノアは恐る恐る振り返り、部屋の中を覗くとエムザラが白い半袖のTシャツとジーンズを履いている。髪は濡れたままでTシャツは水に濡れ少し透けている。ノアが視線に困る。

「あ、ありがとな!おかげで助かったぜ!」ノアの目がキョロキョロしながら、できるだけエムザラを視界に入れないように部屋に入る。

「いや、僕も人に会えて嬉しいし、助けられて良かったよ」エムザラは顔を赤らめたまま言う。

「それに彼女からいい物を作って貰ったし、むしろ礼を言わないといけないのは僕の方だ。ありがとう」エムザラが頭を下げる。

「彼女ってアークか?なら俺は何もしてねぇからアークに言ってやれよ」ノアが天井を見ながら言う。石鹸のいい匂いがする。

「そうだね。ちゃんと御礼を言わないとね…さっきは言えなかったから…あと君の話も聞いたよ。宇宙を旅して来たんだってね」砂漠を旅してる間に自分の話をアークには伝えていた。それを話したのだろう。

「そうなんだ!俺は宇宙人の友達が欲しかったんだ!エムザラに会えて良かったぜ。俺たち友達になろうぜ!」ノアの瞳がドピンクになり手を差し出す。

「ホントに感情で瞳の色が変わるんだね。」エムザラがノアの手を握り握手する。

「ピンク色の時はどんな感情なんだい?」エムザラが握手したままに聞いてくる。ノアの瞳がまた真っ赤に燃える。

「な、何でもねぇーよ!大した感情じゃねぇ!」ノアが大きい声で感情を隠すように言う。

「あ、また瞳の色が変わったよ!赤はどんな感情なんだい?」エムザラが顔を寄せノアの瞳を見つめながら不思議そうに尋ねる。

「だから何でもねぇーって!」ノアが顔を背け目を隠す。

「ふーん、まぁ後でアークちゃんに聞いてみるか。所でノアくんは大変な状況らしいね。3年前の地球に来ていて、皆に合流できないし場所もかなり遠い」エムザラが足を組み腕を組む。

「旅する為には食料や旅の道具も必要になるよね?」エムザラが真面目な顔になる。

「ここの物を全て使ってくれて構わない」ノアが驚く。

「いやいや、そこまでしてもらう訳にはいかねぇーよ!」

「なにタダでやろうって訳じゃないさ。僕も連れてってくれないかな?」エムザラがまた顔を近ずけ言う。

「なんでだ!?」何故エムザラが俺たちに着いてきたいんだ?

「今まではじいちゃんとばあちゃんが居たけど、今はいない。2人とも死んでしまったよ。僕は今ここで1人なんだ。」エムザラが眉尻と口元を下げる。

「聞いていいか?何でじいちゃんとばあちゃんは死んじまったんだ?」ノアが静かに聞く。

「2人は良い夫婦だった。僕とは血が繋がってないけど2人は僕が大人になるまで育ててくれた。ある時、僕とじいちゃんは猟に出ていて帰ってきたらばあちゃんが居なくなっていた。急いで探したらマスクもせずに外をさ迷っていたよ。GR光粒子が蓄積し脳に影響が出ていたんだ。僕達を探しに出たらしい。それから程なくしてばあちゃんは死んだ。その後じいちゃんは塞ぎ込み奥の部屋で自殺した」エムザラは暗い顔をしたまま続ける。

「じいちゃんの気持ちはわかるよ。愛する人に置いてかれて死を選ぶ気持ち、僕も何度も考えた。だが怖くて出来なかった。そしたら君達に会えたんだ。きっとこれは僕にとって大事な事なんだと思う。だから僕も連れてって欲しいんだ!」エムザラがノアの瞳を見つめながら真剣に言う。

「わかった。一緒に行こう!エムザラが居れば旅の道中もきっと楽しいだろうし、エムザラが居れば色々と助かるよ!」ノアが笑顔で答える。

「あとね…僕はもうひとつ君に頼まないといけない…」エムザラが顔を赤らめ言いずらそうにする。

「なんだよ?何でも言ってくれ!」ノアが真剣に聞く。エムザラが決意したように口を開く。

「僕と夫婦になってくれないか?」エムザラの顔が真っ赤になる。ノアも同じように真っ赤になる。

「な、ななななんでだっ!?俺たちまだ会ったばっかだろ?!」ノアが口篭る。

「僕もそう思う。思うけど…君とそうなりたいんだ。君と会った時に僕は運命を感じた。だから…その…好きなんだ!!」エムザラが濡れた髪と濡れた瞳でノアを見つめてきてドキリとする。言葉が出てこない。喉に使えて出てこない。彼女の瞳から目が離せない。頭が回らない。

「ノア、君はどうなんだい?僕と同じ気持ちじゃないかい?」一瞬ジュエルやサクラテスの顔が浮かぶが2人とは違う。2人は兄弟だし、恋愛対象として考えた事もなかった。ただエムザラは違う。何故だろうか。ノアが口を開く。

「俺は…」

「何をやっておるのじゃ?」目を擦りながらアークが入ってくる。

「早う寝るぞ。これからの事を明日話さなければならんからのう」アークが伸びをするがまだ眠そうだ。

「そうだね。この話は明日にしよう。おやすみアークちゃん。ノア…」エムザラが薄く笑う。ノアがドキリとする。

アークと2人で部屋に帰りベットで横になる。アークは隣ですぐに眠ってしまうがノアは寝付けない。エムザラが脳裏から離れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る