EP01-09・レベルアップ
私はレベルアップのポイント割り振り画面を見る。相変わらず低いステータスだ……普通に動いているだけで痛感するほどに感じていた。耐久力と筋力、持久性……敏捷性も……あまりに低い……あちらの世界の様に動けないのだ。
私はミサキの現在の生活だと、知力、魔力や精神力など魔法使い系のパラメータで足りていると感じていたので、日常生活が不便になるレベルのパラメータにポイントを振っておいた。これで息が切れやすくなることも無くなるだろう。
「……え、あの……ステータス画面が……」
「アギー、これ……その、ポイント振れる仕様が……この世界でも……」
「え? 何を言っているの? あなた達はレベルアップと同時にものすごい勢いで数値割り振りするじゃない?」
何故かWODFのプレイヤーである二人が戸惑っているようだった。プレイヤー達はキャラクターをビルド(成長)させるかを日頃から考えているらしい。プレイヤーから求められている数値を割り振る私たちとは違う感性だ。
「ってか、俺のステータスひくっ!」
「うわっ…私のステータス、低すぎ…?」
二人ともなぜか初めて見た様な感覚だな……なぜだろう?
二人はしばらく考えた後に私に何かしらのアドバイスをするようなまなざしをしてくる。
「何かわからないことがあるのかしら?」
「……えっと、これを振ると……現実にも影響が……」
「振りなおしは出来ないんだよな……WODFみたいに……」
「そうだと思うけど、こちらの世界だと仕様が違うのかしら?」
「……運動に伸ばすか、アートスキル関連の方に伸ばすか悩むな……」
「ここは知性と精神に全振りでいいでしょ……げっ、運……あるよ!」
「魅力……もあるな……ステータス細かいな……」
二人はかれこれ5分ほど迷った後にポイントを振り分けていく。私は早く帰って
「終わった」
「お、おし……んじゃこれで!!」
クレオが気合を入れてボタンを押す。そのあと真剣なまなざしで垂直ジャンプをする。本気? と思える程に低いジャンプだった。クレオは驚きの表情をしているな……ユズラも目を見開いている。
「すげぇ……アフリカ人の動画に出てくるすげー人並みにジャンプできた」
「え、え?? そんなにパワーアップしたの?? 割り振り間違えたか??」
ユズラが動揺しているな……この世界だとあれくらいが普通なのかしら? まだレベルも低い学生だというし、これから伸びていくんだろうけど。
「ね、ねぇ。クエストはほかにないの??」
「そ、そうだな……レベル上げを……」
二人の目がギラギラと輝いている。おいしい敵の狩場を見つけたプレイヤーの様だな。
私は検索をする。特に私の周りにクエスト発生の『フラグ』はたっていなかった。
「この周辺には無いわね。『フラグ』もみつからないわ。変ね……あ、それよりも私は
「あ、そうだったね……」
「人探し……が目的だったのね」
「ってかフラグ……現実にもあったのか……」
私は周囲を見回し人気が無いのを確認すると、ストレージからテレポートストーンを取り出す。
「それじゃ飛ぶね」
「えっ?」
「跳ぶ?」
私はホーム登録をしていた自宅を選択する。一瞬にして玄関前に到着する。クールタイムはむこうと同じ45分のようね。
「……すげぇ……」
「……あ、頭がぐらぐらする……」
クレオは何やら興奮しているみたいだけど、ユズラは倒れそうね。私は彼女の肩を支える。かく言う私もなぜか頭がユラユラしていた。なぜだろうか?
「現実世界だと、景色の変化に対して三半規管が付いてこれない感じだな……」
「……それでか……画面酔いみたいなものね」
「画面酔い……」
私はプレイヤーの話を思い出していた。人によってはVR画面でプレイすると酔うので普通のディスプレイで操作をしていると言っていた。私に差はわからないが……ミサキの記憶をたどっていると、彼女は配信のためにディスプレイで操作していたんだな。現実のVR画面とやらを見てみたいけど……
「VR画面と言うのを経験してみたいんだけど」
「ああ……」
「持っている人は少ないよ。ネット見ながらできないし……」
「あなた達も持ってないの?」
「うん」
「ガチプレイヤーだけじゃないかな……」
「ガチプレイヤーこそディスプレイだと思うぞ。長時間プレイすると頭重くて痛いらしいし」
「え? そうなの?」
二人が言う会話を若干理解できなかったが、ディスプレイでのプレイヤーが多いのね。二人が熱く語っているが早く検索をしたい……
私は家の鍵を取り出す。多分差し込んで……まわすのよね?
私は鍵を穴に差し込もうとするが、途中でひかっかる感じがして差し込めない。
「あ、アギー。上下さかさまかも」
「そうなの?」
私は言われるとおりに鍵を上下反転させてみる。すんなりと抵抗なく奥までささる。これで回す……意外に重いのね……そのまま抜こうとすると抜けない……また引っかかる……
「アギー、いったん鍵をもとの位置に回しなおして」
「ん?」
言われるがまま元の位置に回しなおすとすんなりと抜けた。なるほど……鍵を開けると言う行為はこんな感じなのね。UIでボタンを押すだけだったから知らなかったわ。開かなかったら『ピッキング』スキルで開けるだけだったんだけど……
私は部屋に入るとミサキの記憶を頼りにパソコンの電源をつける。タワー型の本格的モデルだ。私はふと振り返る。
「……何で二人はついてきたの?」
「え?」
「そりゃ……色々と……」
「カクタ君はお引き取りください。女子の部屋だぞ?」
「昨日も入ったし! って、だめか?」
「別にいいけど……あ、検索方法を教えてくれる?」
「わかった。俺がやる」
「私もできるけど……」
私はミサキの記憶を頼りにパソコンを起動させる。すると机の上の何かが光り出す。スマホか。ミサキも持ってたんだった。完全に忘れていた。
「あ、起動認証スマホになってるね。顔認証っぽいよ」
「なるほど。うわさに聞く顔認証か……」
スマホのカメラの位置に映るように顔を持っていくと認証された。あちらの世界のボディスキャンの演出のようにレーザーとワイヤーフレームの演出は出ないのね。地味ね……
PCが起動するといろいろなアプリが立ち上がる。
早速Google先生の出番かと思いきや、何やらスケジューラーが立ち上がる。
「え? 配信の時間予定?」
「予告してたんだ……キャンセルしておいた方がいいかも」
「あ、昨日倒れた時のコメントが大量にあるね」
二人は私を差し置いてPCの画面を占領しあーだこーだ言っている。私はどうすればいいんだろう?
「アギー。どうする? 配信とかできる?」
「ミサキちゃんのフリできたりするの? 確か……結構な良いバイト料くらいは稼げてる……って言ってたし」
「……まじで? そんなに稼げるの?」
私はミサキの記憶をまさぐってみる。まだPC購入分の借金を返せてない……よしやるか。多分やれる。彼女の記憶は配信時の事だけはすごく覚えてくれている。
私は配信用の服に着替えようとするが……UIに登録されていないな。どうやら一度手動で着替える必要がある仕様のようだ。
私は配信用の服に着替え始める。流石に現実の体の操作に慣れてきた……
「ちょ、ちょっと……ちょ、待て、部屋出るからまって……」
「うは……羞恥心の概念がないのね……ってか元からあんまり無い子か……」
慌ててクレオが出ていく。思春期の男の子は難しい……って言っている人がいたな。私はWODFではなぜか家庭内の愚痴を聞くことが多かった。それだけ高性能だったんだろうな。
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