第13話 俺と異世界雑魚モンスター

 ガルム。


 オオカミのようななりをしているが、ちぐはぐな感じがする魔物だ。

 毛のない柴犬、というイメージが近いだろうか?

 生物としてみるとちぐはぐな感じがする。

 そして、案の定人間に対して非常に好戦的である。


 俺はさっそく攻撃を仕掛ける。

 思ったよりも素早く動くガルムに、俺の剣はなかなか当たらない。

 重たい鉄製の剣を振るのは3日間である程度慣れたつもりだったが、まだまだ未熟だったらしい。

 おそらく、竹刀だったら当たっていたであろう一撃は難なく回避されてしまう。


「ぐっ」


 むしろ、ガルムのひっかきがバックラーに当たる。


「未熟かっ!」


 自分の未熟さを吐き捨てる。

 だが、今は命のやり取りをしているのだ。剣に集中する。


「【ウォーター】!」


 すると、ユリアの援護だろう。魔術の水弾がガルムに命中する。

 丁度ひるんで隙ができた。これならば今の俺でも行ける!


「はぁ!」


 ザンッっと剣を振りぬくと、ガルムを一刀両断にしていた。

 手には生き物を切り捨てた感触が残る。別に森でもたまに魔物との戦いはあったが、追い払う程度になっていたため、この手で、剣で殺すのは初めてだった。

 だが、こんなものかと感じる。ガルムの死体は霞となって消え、小さな魔石だけが残った。


「やったわね! ヨシヒロ!」

「ああ。思ったよりも素早くて焦ったが、ユリアの魔術のおかげで助かったよ」

「ふふん、まあ、私にかかればこんなものよ!」


 自慢気なユリアに、俺は一つ疑問を訪ねる。


「そう言えば、魔術って発動させるときに魔術の名称を宣言しているけど、なんで『英語』を使ってるんだ?」


 ユリアは魔術発動時にはっきりと【ウォーター】と言っていた。

【ファイヤー】の時もそうだったので聞いてみることにする。

 それに答えたのはエルメだった。


「魔術の発動キーは【力ある言葉キーワード】というんですけど、人によってなじみのある言葉に聞こえるんですよ。エイゴというのがヨシヒロさんにとってなじみのある言葉ならば、そう聞こえるというわけです」

「なるほど、つまり、エルメさんには「水」!って聞こえるわけだ」

「はい、正確には「水よ」って聞こえるわけですが」


 まあ、俺は使えないみたいなのでわかりやすければヨシ!といったところではある。


 ……いや、せっかく異世界に来たんだから俺も魔法は使ってみたい気はする。

 ただ、俺の魔力だとせいぜい自分自身の身体強化程度しかできない量しか持っておらず、その身体強化魔術も教えれる人が村にはいないので魔術を習得できずという感じだった。

 それはそれで残念だけれども仕方が無いだろう。

 人間にはそれぞれの役割というものがあるのだ。


 その後、何匹かガルムやスライム(無属性のスライムはどうやら雑魚らしい)、ガルーダという鳥っぽい魔物を撃退しながら平原を進んでいく。

 当たらなかった剣は何度か戦ううちに当たるようになり、ユリアも魔術の精度が上がっていく。

【ノーヴェルン村】にたどり着くころには、この平原に出てくる魔物を苦も無く倒せるまでには成長することができていた。

 うーん、やっぱり実践は練習とは違ってかなりの経験が身につくのだなと改めて実感したところだった。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「二人ともお疲れ様でした。ここが【ノーヴェルン村】です!」

「二人ともかっこよかったよ!」


 俺とユリアは二人の言葉に疲れからかその場に崩れ落ちた。


「ふぇぇ~。さすがに疲れたわよ~」

「ああ、まったくだ。思っていたよりも魔物に襲われたせいで、何度も戦う羽目になったし……!」

「魔術も、発動だって結構精神力を食うんだから、疲れるに決まってるわよ~!」


 ただ、平原に人間の拠点が無い理由は大いに分かった。

 昼間ですらあんなに魔物と遭遇する以上、人間が住むには適さない。

 戦いの経験はかなり得られたが、絶えず襲ってくる魔物に対処するのはさすがに疲れた。


「ほら、二人とも、疲れてうずくまってないで宿を探しに行こうよ」

「あ、なら私が先に宿を取りに行きますね」

「あ、エルメお姉さん、よろしくお願いします」


 戦いでそこまで出番がなかった二人が張り切って動いている。

 まあ、俺も怪我をしなかったし、ユリアの場合は魔力自体は余裕がありそうだったので、二人に出番がなかっただけではある。


「お兄さん大丈夫です?」

「ふぅ、座れる場所で休憩したい」

「だったら、ちょうどあそこに座れそうな場所がありますよ!」


 龍也くんが指さしたのは、村……密度的には街に近いが、の中心となっているオブジェのそばのベンチだった。

 俺たちはそこに移動して、そこに腰を掛ける。


「しかし、もう夕暮れか。なんだかんだで半日も移動にかかったんだな」

「魔物のせいであんまり休む暇がなかったものね……。日をまたいで移動する場合はどうしたらいいのかしら?」

「馬車を借りて移動するか、商隊に同行させてもらうしかないんじゃないか?」


 ぱっと見、木材の加工所なんかもあるように見えるし、他の都市に木材を流通させるならば商隊がきていてもおかしくないだろう。

 しばらく休んでいると、エルメさんが戻ってくる。


「皆さん、無事宿は取れました!」


 俺たちは、まずは一晩休んでから、【ノーヴェルン村】を探索することにしたのだった。

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