落としたのは……
緋雪
第1話
母親に、
「ちょっとキャンプに行ってくるわ」
と、バイクに荷物を括り付けながら言って。
「いつ帰ってくるの?」
「明日の夜には帰るよ」
母親はなんの心配もせず送り出した。
でも、2日経っても3日経っても、戻ってこなかった。
春休みもあと3日となった。
俺は、先輩から借りたノートと、資料をいっぱい積み上げて、休み明けに出さないといけないレポート作成をしていた。
明日、明後日は一日中バイト。今日中に仕上げておかねばと焦る。
ある程度形になったところで一息。コーヒーを飲みに台所へと降りた。
と、スマホが鳴る。
「どした?」
「お前、裕二がどこにいるか知らねえ?」
「いや、聞いてないけど」
「そっか〜、お前んトコもアウトか〜」
「何? なんで裕二探してんの?」
「行方不明なんだってよ」
「行方不明?」
「裕二のかあちゃんから電話があってさ。心当たりがないかって」
「
雅は、裕二の彼女だ。
「雅な、今、病院入ってるんだって」
「病院? 入院してるのか? なんで?」
「わからないって。ちょっとおかしくなってるみたいで」
「おかしく?」
「ちょっとな……精神状態がヤバいみたい」
とにかく、裕二から連絡が入ったら教えてくれと言って、健人は電話を切った。
レポートの続きをやるつもりだったが、そんなことやってる場合じゃない気がした。
悪い予感しかしなかった。
とりあえず、
「どしたの?」
「裕二がさ、行方不明なんだって」
「行方不明?! どういうこと?」
俺は香菜に、健人からの話を話した。
「えっ、雅、そんなことになってんの?」
「みたい。そっちには何も連絡なかった?」
「雅から全然連絡こないな〜とは思ってたけど……。ねえ、それってこないだの満月の日じゃなかった?」
「何が?」
「裕二がいなくなったの、と、雅がおかしくなって帰ってきたの」
「『裕二と一緒に月の光だけで過ごすんだぁ』って、乙女なこと言ってたから、雅」
「二人でどこかに?」
「キャンプか何かだったんでしょ? 裕二好きじゃん。誰かに場所言わなかったのかな?」
「ソロキャンプ好きだからな〜。お気に入りの場所とかあったのかな?」
「聞いてないねえ」
「
こうやって、それぞれの知り合いを辿るうち、A山に古くからあるキャンプ地ではないかということになった。
「俺、ちょっと行ってくるわ」
香菜に連絡する。
「え、ちょっと、怖いよ。帰ってくるの待とうよ〜。」
香菜はそう言ったけれど、健人と、裕二の友達の
「あの近辺をちょっと見てくるだけだよ」
そう言って、電話を切った。
そこは、古びたキャンプ地で、もうあまり使われている形跡がなかった。辺りは草が伸び放題だ。
「なあ、あれ!」
田宮が指差す先には、小さなテント。緑色だから、わかり辛く、ぐるっと草に囲まれていたので、余計わからなくなっていた。
「おおかた、あれじゃね? 夜中に女の子といいことしようと思って、あんなとこに建ててる奴がいるんじゃ?」
健人は笑ったが、そのテントには見覚えがあった。
俺は、そのテントに近付いていく。人はいなかった。
「これ、裕二のと同じテントだ……」
中を調べると、グチャグチャだった。食料を食い荒らされた痕跡が残っていた。
「おい!! これ!!」
テントの外から健人が呼ぶ。
「バイクが……」
バイクが草むらの中に倒れていた。田宮が駆け寄る。
「裕二のだ……」
みんな黙った。
この先は森だ。何か手がかりがあるかもしれない。三人とも、そう思ってはいても、何か嫌な予感がして先に進めない。
「お、俺が行ってくるよ」
田宮が言う。裕二とは、大学で一番仲が良いらしいからな。心配なんだろう。
いや、心配なのは俺等も一緒だった。大学で学部は違ったけれど、中学からの仲間だ。
「まてよ、俺達も行く」
健人が言い、俺も頷いた。
「まさかとは思うけど、テントの中の荒らされようじゃ、熊がいるかもしれないぞ」
健人が言う。
「音を鳴らしていけばいいって言ってたぞ、テレビで」
俺が言うと、
「じゃ、俺が音楽かけながら行くわ」
田宮が、ちょっと場違いなロックを大音量でかけはじめた。まあいいか。これで熊も逃げていくだろう。
森に入って暫く歩くと、辺りが暗くなってきた。まだ昼間なのに、だ。
「いかん。天気が悪くなってきた。一旦戻ろう」
健人が空を見上げて、帰ろうとした時、雨がいきなりザーッと降り始めた。
「うわっ!! なんだよ急に!!」
着ていたパーカーのフードをかぶる。
「こっちだ!」
田宮が指差す方には、岩の
雨はなかなか止みそうにない。空は黒い雲に覆われていて、辺りは昼間なのに薄暗くなっていた。
「なあ、ここ、なんだろ?」
と田宮が今になって言う。
「なんだろ? とは?」
と、健人。
「祠じゃないの?」
俺が言うと、田宮が不思議そうな顔をした。
「祠ってさ、普通、何かを
「そう……だな」
「何も祀られてないな」
「いや、まて、田宮、お前の踏んでるの、それ!」
田宮が赤く塗られた木を踏んでいた。
「あっ、これ?!」
田宮は手に取って驚き、辺りを探す。健人がスマホのライトをつけると、それは鳥居の一部だとわかった。その辺中に、祠の中身は飛び散っていて、中にあったお地蔵様は、向こう側に倒されていた。
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