もっと早く知りたかった
左原伊純
もっと早く知りたかった
「あの人かっこよくない?」
「本当だ!」
駅の待合室の端で中学生らしき女子二人が騒いでいるが、俺には関係ない事だ。
生まれてから今まで、告白された事はないし、女子に好かれた事もない。
中学生の頃なんて女子から不細工扱いされていたし。
それにしても、駅に男性は俺一人しかいないのに、彼女らは誰の事をかっこいいと言っているのだろう。
今日から高校生だ。
そして、俺が眼鏡デビューする日でもある。だけどもともと不細工扱いされていた俺にとって、眼鏡をかけてこれ以上かっこわるくなる事はない。何も気にする事はない。
電車に乗っても、降りて学校まで歩いている時も、妙に視線を感じる。一体、どうしたというのだろう。
主に女子たちの視線だ。睨まれてはいないらしい。きゃあきゃあと高い声も出している。本当に、一体どうしたのだろう。
新たな生活の場である高校の校門をくぐる。校庭に入ると、俺に向かってくる視線は少なくなった。時々、視線が飛んでくる程度だ。そっちの方を振り返るとすぐに目を逸らされるのだが。
一年一組のクラスに到着し、席順表を確認して着席すると、隣の茶髪の男が俺を見た途端に驚いた顔をした。
やはり、今日は皆に何かを思われている。
もしかして、男から見ても不細工なのかな。でも、そんなに驚くことか。ごく普通の不細工としてほうっておけばいいじゃないか。
中学のクラスの女子に恋愛相談をされたし(つまり、恋愛の対象ではない)、○○くんにこれを渡してと飛脚にされたし。
男子校に来たからそういう事はもうないと思うが、顔の事で何か言われるのはやはりいい気分はしない。
「お前……」
「ん?」
茶髪のチャラい男が、目を丸くして俺を指さした。
「めっちゃイケメン!」
「は?」
すると、ざわざわしていたクラスの奴らの注意がこちらに向いた。こいつの声がでかすぎたのだ。
「イケメンだ!」
「やべえ」
「もったいねえ」
は?
次の休み時間、眼鏡を外して拭いていると、隣の男がまたしても驚いた。
「お前、眼鏡を常にかけっぱなしにした方がいいぞ!」
「は?」
俺はトイレに連れていかれた。
そして鏡の前に立たされた。
眼鏡をかけていると、俺はイケメンだった!
外すとブサメンに戻った。
「女子がいなくて残念だったな」
もう男子校に入ってしまった。
もっと早く知りたかった 左原伊純 @sahara-izumi
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