眼鏡をはずした日

錦木

眼鏡をはずした日

 ミサとミヨは双子の姉妹だ。

 一卵性の双子なので、どこからどう見てもそっくり。両親でもたまに間違えるくらいだ。

 ただ一つ、ミヨは視力が悪いので眼鏡をかけていた。

 それ以外はいっしょなのに変だねと周りは言った。

 でも、ミヨは眼鏡が気に入っていた。

 ミヨは内気な性格だった。前髪を長くして眼鏡をかければ顔を隠すのには都合がいい。

 眼鏡をダサいと言う人もいるがかわいいねと言ってくれる人もいたので学校でも特にいじめられたりすることはなかった。


「ミヨももっと見た目に自信を持てばいいのに。なんてったってあたしと同じ顔してるんだからさ!」


 ミヨとは反対にミサは明るい性格でナルシストというかとにかく自分の容姿がとても好きだった。

 光と影。

 太陽と月。

 それくらい性格が違う二人だったが仲良しだった。

 性格が違うからというべきだろうか。

 互いにはないものを持っているのが好ましかった。



 高校二年生のある日、ミヨは恋をした。

 相手は同じクラスのタクマだ。

 タクマはバスケットボール部で文化系のミヨとは全く正反対のタイプだったが、優しくてミヨがどんくさくプリントを床にばら撒いてしまった時も軽い調子で助けてくれた。


「頑張り屋なんだなー。ていうかみんなが押しつけるから悪いんだっての」


 タクマがどんな人にも優しいのは知っていたが、ミヨは淡い恋心を抱いた。


「え、ミヨタクマが好きなの?!へーなかなかいいじゃん」


 ミサにはすっかり見破られてしまったので仕方なく話した。


「でも心配だなー。タクマってちょっとチャラそうだし」


 あっ、といたずらっぽい目でミサはなにかを思いついたようだった。


「じゃあさ、入れ替わってみようよ」

「え?」

「あたしがミヨのフリして話しかけてみる。見破れなかったらミヨのこと眼中にないってことだよ。眼鏡かして」 


 ミヨが反論する前にさっさとミサは眼鏡をかけてしまった。

 そして髪を三つ編みにする。


「じゃーん。ミヨの完成です」


 たしかに鏡を見ているようにミサの雰囲気はミヨにそっくりだった。


「行ってくるね。バイ」


 そう言ってミサは立ち去る。


「ちょっとミサ……」


 止める間もなく行ってしまった。



 部活が終わるころの時間になってミサはやっと帰ってきた。

 どうだったと聞くのがこわい。

 聞く前にミサが言った。


「脈なしなんじゃない?」


 眼鏡をはずす。


「優しかったけど、いつも通り。私がミサだってのわからなかったみたい。鈍感すぎだよアイツ」


 ミサはなぜか怒っているみたいだった。


「もっとミヨに似合う相手探したほうがいーよ」


 サラリと三つ編みをほどいてミサは帰ってしまった。

 ミヨは一人立ち尽くす。



 ため息をついてミヨは帰ることにした。

 ミサの言う通り、ミヨはタクマに似合わないのかもしれない。

 だけど。でも。


「あっ、いたいた。おーい」


 そう言ってなぜか反対側の廊下からタクマが小走りでやってきた。


「タ、タクマくん?」


 ミヨは動揺する。 


「あのさー」


 息を整えながらタクマが言う。


「お前ら、さっきなんで入れ替わってたの?」

「へ?」

「だから、ミヨとミサ。なんか遊んでいるのかと思ってノッてみたけど」


 気づいてくれていた。

 ミヨはじんわりと胸に温かいものがこみ上げてくるのを感じた。

 ミサの鈍感。

 タクマくんは気づいてたみたいだよ。


「ううん、なんでもないの。ミサが私のコスプレしてただけ」

「なんだそれ。双子だとなんか楽しそうだよなー」


 そう言って二人は並んで歩きはじめた。



「うまくいったみたいだね、まあがんばんな」


 陰にひそんでいたミサは微笑ましいものを見たという顔で去って行った。

 ミヨは太陽のような明るい顔で笑っていた。


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眼鏡をはずした日 錦木 @book2017

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