第44話 手動カウンター

「槍を投げてきていたのか……。見た、ぞ……」


 激しい痛みに襲われながらも【時間遡行】を使う。

 景色が歪んでいく……。



~~~~



 近づけば、回避不能の横薙ぎで吹っ飛ばされ、離れれば必殺の槍投げ。

 仕組みはわかった。

 だが、槍を手放したらどうなるんだ?


「ブヘッ」


 普通に腹パンされました。

 オーガは元々装備していても棍棒くらいのモンスターだからね。

 素手でも強いのだ。

 初手でワザと距離を取って槍投げを誘発して躱したんだが、チャンスと思って距離を詰めたらこれですよ。

 でも

 一発の威力はわかった。

 これなら


(【時間遡行】!)



~~~~



 飛んできた槍を躱す。

 ここまでは一緒。

 そして次の攻撃は腹パンだ。

 わかっているならそれにカウンターを合わせるだけ。


(【ウインドカッター】!)


 寸前で体をくねらせて攻撃を躱したら、すれ違いざまに【ウインドカッター】からの斬撃。

 カウンターでも斬撃は浅く大したダメージは入っていない。

 でものだ。

 そしてまるで効いてない様子の深紅のオーガが振り返った勢いでそのままフックを振ってくる。

 頭に貰ったが、兜があるので何とか耐えられる。

 とは言っても痛いものは痛い……。

 でも


(【時間遡行】!)


 腹パンの次は顔面フックね。

 ……。

 歪む景色の中でもう一発腹パンをもらった。



~~~~



(【ウインドカッター】!もう一つ!【ウインドカッター】!)


 腹パンにカウンターを合わせ、顔面パンチにもカウンターを合わせる。


(グェッ)


 次は前蹴り。

 あまりの威力にランタンを巻き込んで壁まで吹っ飛ぶ。

 が、確かにその蹴りの軌道、記憶したぞ。


(【時間遡行】!)


 吐きそうになるが、その前に気合で【時間遡行】を使う。

 苦しい、でもいいんだ。

 

 俺には莉子のように無意識に体が動くような高級なカウンタースキルはない。

 ならどうするか?

 簡単だ、全部手動でやればいい!

 


~~~~



~~~~



 殴られては攻撃を覚えて【時間遡行】。

 そしてカウンターを合わせてはまた殴られるのを繰り返す。

 ちょうど良かったよ。

 誰かに殴ってほしかったんだ。


(ごめんね、梓さん……)


 【時間遡行】を使ってから槍が飛んでくるまでの僅かな間、梓さんに謝り続ける。


『好きなる努力をして、今は……。本当に太助君のことが好きなの……』


 バカヤロー!


(腹パン回避、【ウインドカッター】!顔面フック回避、【ウインドカッター】!前蹴り回避、【ウインドカッター】!肘振り下ろし回避、【ウインドカッター】!ミドルキック回避、【ウインドカッター】!大振りのアッパー回避、【ウインドカッター】!)


 持って行き場のない感情を特異個体にぶつける。


「グボッ」

 

 そして殴られる。

 鼻が折れたのか鼻血が噴き出す。

 正面、右ストレート……、その軌道、覚えたぞ。


(【時間遡行】)


 これは俺への罰なのだ。

 だからどんなに痛くても耐えられる。



~~~~



 余計なことを考えてカウンターに失敗することもある。

 だから何度も繰り返す。

 もっと殴ってくれ……。

 俺もまた、同じようにあの娘を傷付けるんだから。


『好きなの……』


「あ……」


 注意散漫になって槍が刺さったと思ったら、体が弾け飛んだ。


(なんだこの威力……。【じか……。早く……)


 真っ暗になる……。



~~~~



 慌てて体を確認するが、手足はちゃんと繋がっているし、

 でも体と一緒に雑念が吹っ飛んだ。


(好きとか、生まれて初めて言われたな……)


 吹っ飛んでなかった。


『好きなる努力をして……』


 好きになる努力か……。

 俺はどうだろうか?

 今度は大丈夫、飛んできた槍を回避して距離を詰める。


(【ウインドカッター】!)


 腹パンを躱してカウンター。

 ただ逃げただけだ。

 何の努力もせずに……。


(【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!【ウインドカッター】!)


 今からでも間に合うだろうか?

 俺、あの娘のことを、梓さんのことを好きになれるだろうか?

 そうしたら許されるだろうか?


(【ウインドカッター】!あ……)


 カウンターで出した突きが深紅のオーガの腹に深々と刺さった。

 重点的に腹を斬りつけていたので、攻撃に攻撃が重なり、ようやく深手を負わせることが出来たのだ……。


「【ファイヤーボール】」


 何を思ったのか、自然と口から出たのは【ファイヤーボール】。


「ゴガーーーッ」


 悲鳴を上げたのは深紅のオーガ。

 今まで一度も成功しなかった、剣先からモンスターの体内への【ファイヤーボール】が、今このタイミングで発動したのだ。

 悲鳴と共に口から黒煙を上げた深紅のオーガは、それっきり動かなくなった。


「え?終わり?……勝ったのか?」


 あれだけ殴られたのに、今の俺は無傷。

 終わってみれば呆気ない勝利。

 まだ考えが纏まってないのに……。


「【ステータス】」


名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:20

HP:565/600

MP:80/290(300)

腕力:40

耐久:40

敏捷:40

魔力:30+1


スキル:【時間遡行】【皿洗い】【武器強化】【ファイヤーボール】【ファイヤーウォール】【ウインドカッター】【魔力+1】【エイミング】【継矢】【罠設置】【鍛冶・補修】【気配察知】【カット・野菜】【バーストジャベリン】new


スキルポイント:20


 体に違和感を覚えたのでステータスを確認した。

 レベルが20に上がっている。

 道中で19に上がったばかりなのに……。

 レベル差で経験値が大量に入ったのかもしれない。

 そうでなくても特異個体は経験値が多い聞く。

 そしてスキル欄の最後に見知らぬスキル。

 さっきのファイヤーボールが特異個体の魔石、つまりスキルオーブを砕いのだろう。

 【バーストジャベリン】。

 体が吹っ飛んだ槍投げの正体はこれか……。



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