第40話 【宇佐美莉子】オートカウンターその3
SIDE:宇佐美莉子(探索者協会職員)
おっさんとの顔合わせも済んで数日。
何日か一緒にダンジョンに潜った後の最初の休みの日だ。
今日は世界七大ダンジョンの一つ、さいたまダンジョンに来ている。
オフなので私一人でだ。
実は中に入るのは初めてだったりする。
ママがここには近寄れないようにしていたのだ。
(パパが死んだダンジョンだから……)
だが今の私には、会長に貰ったこのダンジョンフリーパス券がある。
これさえあれば、休日は探索者のように好きなダンジョンに入れるのだ。
これからは休みの日はさいたまダンジョンに来て、手当たり次第にモンスターを倒す。
間引きというヤツだ。
休日に一人でいける階層には限りがあるので、ささやかな正義の味方ごっこではあるが、何もやらないよりはマシだろう。
(今はそれでいい)
パーティーはそれなりにうまくいってると言っていいだろう。
最初は前に出過ぎるおっさんと、好き放題魔法をぶっ放す日野に苦労させられたが、そこは赤井を前に出すことで解決した。
赤井はフラフラと戦闘をするので日野は無暗に魔法を放てなくなり、おっさんは赤井の成長を見守るためにモンスターを仲間に任せることを覚えた。
赤井も赤井でようやく前に出てくるようになった。
魔法使いを守るのは盾役の仕事、そんな話を日野がしていて、それを聞いた赤井は『おじさんは私が守ります!』と盾職になる決心がついたようだ。
日野も日野でよくわからない奴だ。
なんで護衛の仕事を受けたのかと思えば、どうやらおっさんを勧誘するつもりだったらしい。
Sランクパーティーである蒼天を抜けて自分のパーティーを作るのだとか。
そうは言っていたが、私としてもおっさんを連れて行かれると困るのだ。
おっさんの護衛として探索者ごっこが出来ている訳だから、護衛の任が解かれれば、フリーパスも返上だろう。
残された赤井の護衛として、フリーパスも残してくれるならどうぞ連れて行って下さいと言うところだが、残念ながらあのババアはそこまでお人好しではない。
私にできることと言えば、あの二人に置いていかれないように強くなることぐらいだろう。
あの二人……、A級どころかS級の日野はいいとして、あのおっさんはやっぱりおかしい。
魔法職のクセに【武器強化】を使って接近戦をするし、先頭に立っては【気配察知】を使って斥候職の真似事まで始める。
極めつけは【ヒール】だ。
怪我をしがちな赤井に【ヒール】を掛けまくっているのだ。
私を受け入れる代わりにと、ババアに【ヒール】のスキルオーブを貰ったらしい。
【賢者】には全ての魔法に適性がある。
もちろん回復魔法にもだ。
『莉子さん、心配されてますね』
そんな訳あるかい!
お人好しのおっさんだと言うことはわかったが、あのババアに限ってそれはない。
逆だ逆。
【賢者】に【ヒール】を覚えさせたくて私を送り込んだまであるな。
これからも折を見てはスキルオーブを渡していくつもりなのだろう。
順当に行けば最高の魔力を誇る最高の回復魔法使いが誕生することになる。
(私という紐が付いた、か……)
日野のことにしてもそうだ。
ババアとしては別に日野におっさんを引き抜かれてもいいのだ。
日野は日本最高の魔法使いと呼ばれているほどの魔法職。
最高の魔法使いが【賢者】を育ててくれるなら、将来は蒼天を超えるパーティーが出来るとでも考えているのだろう。
だがおじさんが赤井を見捨てて日野と出ていくことはないだろう。
別に上を目指しているという訳でもないようだし。
まあゆっくりやって支部の記録を更新するようなおっさんだから、放っておいてもAランクまでは昇格するだろうけどな。
逆に選択を迫られているのは日野の方だ。
あきらめて他を探すか。
それともおっさんの軍門に下るか。
無理矢理赤井と引き剥がすってことも出来ないことはないだろうけど、その場合は……。
「ここか……。じゃあこの辺りになるのか?」
15階層、セーフティゾーンに着いた。
1年前にモンスターパレードが起こった時、ここに防衛ラインを敷いて戦ったのだ。
つまりパパはこの近くで死んだことになる。
『特異個体だー!』
『ここにも入ってくるぞ!』
『逃げろ逃げろー!』
センチメンタルな気分になっていたところに、急に喧騒が聞こえてくる。
特異個体?
まずい、特異個体は階層を移動してくる、しかもセーフティーゾーンでもお構いなしだ。
寝ている奴は逃げ遅れるぞ。
(正義の味方の出番か?)
甘い考えだった……。
天敵。
【オートカウンター】はその性質上、カウンターが発動する時に限り、完全回避が発動するスキルだ。
そもそも私の攻撃が届かない距離からの攻撃に対しては【オートカウンター】発動しないのだ。
つまりスキルによる回避は不可能……。
「あ……」
油断もクソもない。
気が付いた時には飛んで来た槍が私に突き刺ささり、体の前半分がなくなっていた。
痛みは感じなかった。
ただ飛び散った内臓を見て、自分がもう助からないことを悟る。
「……パパ、助けグボッ」
それが最後に出た言葉だった。
ママ、ごめん……。
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