第38話 【宇佐美莉子】オートカウンターその1
SIDE:宇佐美莉子(探索者協会職員)
『探索者は正義の味方なんだ!』
それがパパの口癖だった。
Aランクの探索者と探索者協会の職員の娘として生まれ、そんな口癖の父親の元で育てば、必然的に……。
『将来の夢はパパみたいな探索者になることです!』
危険なダンジョンに潜り、悪いモンスター達が地上に上がって来ないように退治する。
そんな正義の味方に私もなる。
小学校6年生にしてはずいぶん子供っぽい作文を書いたと思う。
もしかしかしたら大好だった父親を喜ばせようと打算的に描いたモノだったのかもしれない。
『パパは反対だ。絶対にダメ!』
想定外の反応だった。
きっと喜んでくれる、そう思っていたのに……。
一人娘の私はずいぶん甘やかされて育っていたと思う。
私のワガママを何でも聞いてくれたし、ママに叱られてもパパだけはいつも私の味方だった。
初めての否定……。
女の子が父親を嫌いになる理由なんてそんなものかもしれない。
探索者の仕事は常に危険と隣り合わせ、言いたいことはわかる。
『パパは探索者やってるじゃん!』
納得できなかった。
自分は正義の味方をしているのに娘にはそれをさせない。
人の為に戦ってるならそれはいいことのはずなのに……。
良い行いを娘にさせないのかと……。
それから長い反抗期に入った。
『うざっ』
『キモッ』
『死ね、クソ親父』
探索者という仕事柄、パパは家を空ける日が多かった。
その反動か家にいる間は私のことを構いたがって、結果として関係はさらに悪くなっていく。
家に帰ってこないで自分だけしたいことをしているのに、そう考えていた。
いや、実際にそうだったんだけど……。
『探索者学校はダメだぞ!』
『うるせー、誰が行くか!』
関係が悪くなって以降、私の機嫌を取ろうと更に甘くなったパパだったが、探索者になることだけは絶対にダメだと頑なに言い続けた。
ただもうその頃になると私の方こそ探索者だけには絶対にならないと思っていた。
『やっぱり家から通える大学にしたほうがいいんじゃないか?女の子の一人暮らしは危ないよ。家なら安全だろ?』
『死ね!』
それが最後の会話だった。
その日、さいたまダンジョンで起こったモンスターパレードに立ち向かい、パパは帰らぬ人となった。
『死ね!』
そう言い返した時の何とも言えないパパの顔を思い出す。
『死ね!』
今でも後悔している……。
『死ね!』
私が死ねなんて言ったせいで、モンスターパレードに突っ込んだんだろうか?
でもそれは違った。
その後、見事に大学受験に失敗した私の前にモンスターパレードの生き残りだと言う人をママが連れてきた。
『下層から上がってきたモンスターの数は尋常ではありませんでした。ダンジョンの外で迎え撃とうと言う案もありましたが、飛行型のモンスターも多くそれでは壁の外に出してしまう、と。近くに家があって娘がいる、隣の支部では奥さんが働いているから外に応援に来ているかもしれない。二人を守るために絶対にここで食い止めるんだと……』
七大ダンジョンであるさいたまダンジョンの周辺区画は厚い壁で覆われているが、飛行型のモンスターや、Aランクのモンスターではその壁も紙みたいものだろう。
私の所為ではなく、私の為だった……。
いや、私やママだけではなく、多くの人たちを助けるためにパパはモンスターパレードに突っ込んだのだとその人は言った。
その甲斐があってか、後続の探索者たちが到着するまでダンジョンからモンスターは出てくることはなかったという。
子供頃憧れていたパパは何も変わっていなかった。
結局パパは最後まで正義の味方だったのだ。
『私、やっぱり探索者になる!』
私も変わっていなかったようだ。
夢を捨てていなかった。
本当はパパのことが好きで同じ探索者になりたいからずっと反抗し続けていたのかもしれない。
気が付くのが遅かった……。
もっと早くこのことに気が付いていれば……。
でも今からでも遅くないことがある。
正義の味方になってみんなの為に戦うんだ。
『ダメよ。絶対にダメ!』
今度はママに反対される。
『パパが反対してたんだからママはその意思を継ぎます』
未成年、いや、20歳以下が探索者になるには親の許可が必要になる。
必死にママを説得しようとしたけど、口ではママに勝てない。
もちろん力でも。
Dランクダンジョンまでの支部長とは言え、Dランクのボスに一人で対抗できるだけの実力がないと支部長にはなれない。
意外なことに探索者協会は実力主義だったりする。
お役所的に仕事をしているように見えるが、間引いたモンスターの数、担当している探索者が出した成果、アイテムの販売や買取、その他諸々で年齢に関係なくどんどどん昇進することが出来る。
まあ、ママの場合はAランクのパパのパーティーの成果が丸々入ってたのが大きいけどね。
結局、このままでは無職のプー太朗になる私を心配したママが折れる形で探索者協会への就職が決まった。
ママの支部に配属になってママの監視の下でダンジョンに入る。
ダンジョンに入ってモンスターを倒すのが正義の味方の仕事。
ママが一緒という何とも締まらない正義の味方だが、最初に一歩としては悪くないだろう。
私がレベル1になって獲得したランダムスキルは【オートカウンター】。
自動で回避とカウンターが発動するパッシブスキルだ。
オン、オフの設定はあるが、オンにしておけば私が気がついていない攻撃でも勝手に体が動いて反撃するのだ。
そんなママも太鼓判のスキルを得て、1年が経つ頃にはDランクダンジョンのボスも倒せるようになっていた。
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「もういい!どうせ来月には二十歳になるんだ。ママの承諾もいらなくなる。やめて探索者になるから!」
ママと喧嘩した。
いつものことだ。
私が若い探索者に絡むのが原因だ。
頭ではやめようと思っているのに、覚悟もないお遊び気分の大学生を見るとつい一言言ってやりたくなる。
私は探索者になれないのに……。
「ダメって言ってるでしょ!待ちなさい!」
ただ、今回はまた違って、ソイツは別に覚悟がないとか今までの奴等とは違った。
私と同じようにダンジョンで父親を亡くし、病気の弟の為に探索者になった高校生……。
嫉妬だったと思う。
でもその在り方こそ私がなりたかった探索者像だった……。
それでまた言ってはいけないことを言ってしまった。
後で謝りたいとは思っているけど……。
でも逆に火がついたのだ。
やっぱり探索者になりたい!
そう思って叱られている最中にママに許可を求めて喧嘩になった。
アイツのことは放っておいてるのに、私はダメなのかと。
そうして家まで飛び出したのはいいが、来月まではすることも無い。
とりあえず茉莉や他の職員の家を転々としている。
「会長が私を?何の用で?説教か?」
探索者協会のトップからの突然の呼び出し。
やめるとは言ったが、引継ぎもなしに急に辞められるものでもないだろう。
無断欠勤扱いでクビとなると退職金も出ないか?
給料は全部スキルオーブを買うのにつぎ込んでいるからほとんど残っていない。
そして例え二十歳になったとしてもあのババアが許可しないと探索者にはなれないのだ。
探索者協会とはそういう組織だ。
会うだけは会ってみるか……。
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