第32話 出会わなかった人達
(梓さんにはまだまだ成長の……。ここ、止めだ!)
クラスの女子の全員の名前が出たかな?と、言うところでようやくブラッディベアを倒せた。
戦ってみた感想としては、スキルを、MPを消費すれば苦労する相手ではない。
しかしながら、MPを使わないとなると一対一でも正面からは厳しい。
パワーが違い過ぎて攻撃を受けただけでも吹っ飛ばされるからね。
洞窟の地形を利用しつつ、時間を掛けて手足を削ればなんとか倒せると言ったところだ。
(そうなってくると、今度はMPを取るか時間を取るかって話になってくるんだよね)
MPは0から全回復するするまでに大体10時間から12時間って言われている。
怪我をしていなければ、普通のジョブは10時間。
レベルの割にMPが多い魔法職などのジョブは12時間掛かるらしい。
俺の場合は【戦士】で最大MPは255なので、1時間に25回復する計算になる。
これは俺のレベルが上がって最大MPが増えれば増える程回復量は大きくなるということだね。
少なともMP消費10のスキル、【ファイヤーボール】や【ウインドカッター】は1時間に2発か3発は撃ってもいいと言うことになる。
いや、撃たないと時間的には損ということになるか……。
(次の問題としてはどのモンスターに撃つか、だね)
ブラッディベアから魔石を取り出した。
体の大きさがそのまま魔石の大きさに繋がる訳では無いけど、雑魚モンスターの中では一番大きいだろう。
これなら一個千円以上はする。
今の戦闘で2千円。
金額的にはかなり美味しい相手なので、普段なら狙って倒しに行くべき相手なんだけど、今日に限ってはこのダンジョンのクリアを目指しているので会いたく無い部類の相手になる。
兎に角20階層のボス部屋を目指して進んで行って、その道中で避けられない戦いの場合のみスキルを使って倒す。
これが正解だろう。
ブラッディベア以外でスキルの使用が必要な相手は、基本的には小部屋から出てこないリーダー格のモンスターだけだ。
地図がある上に【気配察知】でモンスターの多い小部屋すぐにわかるので、迷うことはない。
(方針が決まったら進んで行くか)
会いたくない、と言うか、受けたくない授業として体育がある。
体育の授業は他の生徒に怪我をさせる可能性があるので見学だけだと聞いていたのだが、体育教師が俺に言い渡したしたのは校庭の隅をグルグル回ることだった。
しかも体育教師の目の届く範囲を走れと言われていて、サボることも許されない。
これを見かねたクラスメイトの陽平君が抗議の声を上げてくれたのだが、体育教師は聞く耳を持たない。
陽平君というのはその名の通り陽キャの陽平な訳で、着崩した制服に茶髪という、いかにもなキャラなのだが、中々どうして、漢気のある生徒で……。
︙
︙
その太っちょの善治君はよく他のクラスメイトに、その女子よりも……。
『ここのボスってマザーベアなんだっけ?』
『もー、出発前に何回も説明したでしょ!』
誰かいる。
20階層ももう終盤と言うところで人の話し声が聞こえてきた。
17階層以降では初めてかな?
地図上ではその辺にボス部屋に繋がるダンジョンゲートがあるはずなので、ボス部屋の順番待ちをしているのだろう。
『あ、光だ。他のパーティーが来たみたいだよ』
『じゃあ、モンスターは倒してきただろうし、後はボスだけだね』
光で気付かれているのに出ていかないというのも怪しいので、剣を仕舞ってから近づいていく。
『あれ?一人しかいないよ?』
『ホントだ。ベテランか?』
気配は四つ。
話し声からして女の子がいるのはわかっていたけど、なんと全員が女の子だった。
「どうも……」
近づき過ぎない程度の距離で止まり声を掛ける。
「お疲れ様。見ての通り順番待ちだ。さっき、前のパーティーが入ったばかりでね。もう少し掛かりそうだよ。君は……、一人かな?」
リーダーなのか交渉役なのか、一人の女の子が前に出て俺に話しかけてくる。
『若くない?』
『そうね。ウチの弟より年下に見えるわ』
『本当に一人なのか?ここ結構難易度高めだよな?』
後ろのおしゃべりは止まらない。
「はい。一人です」
「ねえ、こっちに来なよ。もっと近くにきて顔見せてよ」
俺の返事に、交渉役の人ではなく、後ろのメンバーから声が掛かった。
「おい、顔ってお前……。まあいっか。来なよ。ボス部屋が空くまで少し話をしよう」
交渉役の人も俺を呼ぶ。
これが男4人なら俺も善治君のような目に遭う可能性を心配しないといけないが、女の人が4人ならその心配もないだろう。
いや、寧ろのその心配をしたいぐらいだ。
「やっぱ若いね。高校生?冒険者学校の生徒かな?」
「冒険者学校でここまで来るって噂の卒業試験か?まだ4月だぞ?最速じゃん」
「いや、あそこは5人揃ってないと外のダンジョンには潜っちゃいけないはずよ。大学生?ってことはないかな……」
冒険者学校では3年生になると卒業試験として外のDランクダンジョンの攻略が課題となるらしい。
Cランクへの昇格が卒業の条件となっているのだ。
卒業まではCランクダンジョンへの挑戦は禁止らしいけどね。
過去に冒険者学校の敷地内のダンジョンから産出されたボスの魔石を使った不正な昇格が発覚したことあるので、そのダンジョンでの昇格は探索者協会が許可していないという事情もあったりする。
「高校生です。冒険者学校の生徒でもないですね」
「えー、高校生でDランク?いえ、ここまで一人で来れるってことはもうCランクなのかな?すごいね」
近づいてみて思ったんだけど、この人達どこかで見たことがあるような?
「まだDランクですよ。今日が初のボス部屋ですね」
「え?初めてなのに一人なの?ダメだよ、それは!」
交渉役の人が声を上げた。
あれ?やっぱりこの人どこかで……。
「あっ、【ファイヤーアロー】の人……」
交渉役の人、この人は俺がオークションに出した【ファイヤーアロー】のスキルオーブを落札した人だ。
パっと思い浮かんで、そのまま思わず口から出てしまった……。
確かBランクのパーティーだったような?
どうしてこんなところに?
「おお、リーダー有名人!」
「亮子ちゃんも出世したわね!」
「そうです、私達がかの有名な美少女5人組、ファイブフラワーズです!」
美……少女?
いえ、ファイブなのに4人しかいないことに驚いただけです!
交渉役、いや、リーダーの亮子さんは【魔法剣士】というジョブだとどこかの記事で読んだ気がする。
「おや、私を知っていたのか。実はその【ファイヤーアロー】が産出したのがこの支部だって聞いて来たんだよ。出品者にお礼を言いたくてね」
「でも協会側は何も教えてくれなくてさ、なんとかこの支部が出所だっていうのは調べられたから、直接個々の職員に話を聞いてみたんだけど結果は同じ。まあ個人情報は教えてくれないよね」
「君は何か知らない?あ、名前聞いてなったね。私、響。そっちが真琴でこれが美穂。君は?」
知らないかもなにも、出品したのは俺ですね。
「俺は田中です。【ファイヤーアロー】がここで出たっていうのは初めて聞きましたね」
まあ協会が秘密にしてくれてるのに俺が自ら名乗り出る意味はないよね?
金を持ってるってだけで、どこから狙わるかわかったものじゃないんだから……。
「知らないか……。ああ、私は亮子だ。もう一人、和美っていうのがいるんだが今日は休暇中でね。そういう時は残りのメンバーで行ったことのないダンジョンを回ってみてるのさ。4人だからランクは抑えめでね」
「そうそう、今日もついでにここのダンジョン回ってみようって話になってね」
「飯能支部のCランクも捨てがたかったけどね」
「あ、ボス部屋空いたよ」
賑やかな人達だね。
まあこれでお別れだ。
もう会うことも無いだろう。
と、思っていたが……。
「田中君、一緒に行こう。初めてで一人は危ない」
亮子さんに一緒にボス部屋に入ろうと言われた。
面倒なことになった……。
「いえ、一人で入りたいので。俺のことは気にせず行ってください」
「うーん。……わかった。じゃあ先を譲ろう。行きなさい」
いや、これ先に行かせて、付いてくるヤツでしょ。
ボス部屋は最初の一人が入った後、1分以内なら後続が4人、計5人まで入ることが出来るのだ。
俺を先に入らせてから後から入ってくるつもりなのだろう。
他のメンバー達はなにやら頷き合った後、俺と目を合わせようとはしない。
(バレバレです……)
いい人達で心配してくれてるのはわかるんだけどね。
でも、まずは一人で倒せるか様子見をしたいんだよね……。
(あっ、様子見に付き合ってもらえばいいのか!)
俺一人で倒せそうなら【時間遡行】でこの人たちに会う前に、ランタンの光に気が付かれる前に戻ればいいんだから。
倒せないってなった時に歩いて地上まで戻るのは非常に面倒だしね。
まずはこの人達に戦ってもらって、戦い方や弱点を学ぼうか。
「じゃあお先に失礼します」
……付いてこないとかないよね?
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