第19話 中学生でもなく高校生でもない

 浦和支部を立ち早5日。

 近場の各支部を回ってのスキルオーブ集めも順調である。

 しかし明日には高校の入学式があり、学校が始まる。

 Cランクに上がるまでは、また浦和支部でDランクダンジョンの攻略を目指す。

 Cランクまで探索者の階級が上がればフリーダンジョンにも挑むことが出来るので、うまく戦闘職のジョブを引き当てたいところだ。

 【戦士】よりも強いジョブのさえ就いてしまえば、後はさいたま支部の未攻略ダンジョンでポーションの素材となる薬草集めに入ることが出来る。

 何とか3ヶ月以内にはポーションが手に入りそうだね。


名前:田中太助

ジョブ:【戦士】

Lv:12

HP:358/360

MP:22/180

腕力:24

耐久:24

敏捷:24

魔力:18+1


スキル:【時間遡行】【皿洗い】【武器強化】【ファイヤーボール】【ファイヤーウォール】【ウインドカッター】new【魔力+1】new【エイミング】new【継矢】new【罠設置】new【鍛冶・補修】new


スキルポイント:12


 現在のレベルは12。

 今日は結構モンスターを倒したはずなんだけど、レベルは12のままだった。


(Eランクダンジョンだともうこれ以上は上がらないかもしれない)


 まず初日、赤井さんと会った後に、そのまま東京の探索者協会本部に行ってEランクで【ウインドカッター】、Fランクで【魔力+1】のスキルオーブを手に入れた。

 【ウインドカッター】はその名の通り風の刃で敵を切り裂く魔法スキルだ。

 【ファイヤーボール】より少し射程が短いけど、斬撃の魔法なのでを傷めずにモンスターを倒すことが出来るスキルになる。

 人の多い本部のダンジョンから出るので、産出も多くランダムスキルで魔法職のジョブが出た人に配られるのがこのスキルだ。


(多分おじさんもこれを覚えているはず)


 【魔力+1】はそのまま、覚えているだけでステータスの魔力が+1されるスキルですね。

 同じような【魔力+2】のスキルを取れば、魔力は合計で+3される。

 なら同じスキルを何個も取れば?と思うかもしれないが、覚えているスキルのオーブは光らないし、スキルポイントから覚えられるスキルの選択画面からも消えてしまうのだ。


(【時間遡行】なら100個でも200個でも取れるのに、そううまくはいかないものだね)


 2日目は千葉、柏支部まで行って、Eで【エイミング】、Fで【気配察知】のスキルオーブを手に入れた。

 【エイミング】は狙った場所を外さない槍のスキルだけど、剣での突きでも普通に使えたね。

 弱点が目とか鎧の隙間しかないってモンスターも多いので使う機会も多いだろう。

 ただMP消費が10なので多用は出来ない。


(【気配察知】は適性が無くて覚えられかったけど、【斥候】にジョブチェンジできれば覚えられるから、そっちが手に入るまでは残しておこう)


 3日目、今度は栃木支部に。

 Eランクダンジョンで【継矢】、Eでまた【気配察知】を手に入れた。

 【継矢】は【弓使い】で覚えられるジョブで、1回目に当てた場所に2回目に撃った矢も当たるというスキルだ。

 2射目を真後ろに向けて撃っても、弧を描いて戻って来て1射目と同じ場所に当たるという面白スキルだったりする。

 同じく【弓使い】で覚えられる【ホーミング】よりもホーミング性能が高いというね。


(ちなみに石でも使えたから、ナイフとかでも使えると思う)


 4日目には群馬の高崎支部へ。

 Eで【罠設置】、Fで【種蒔き】のスキルオーブが出た。

 【罠設置】はちょっと変わったスキルで、ダンジョンに置いた物が吸収されなくなるスキルだ。

 ただ使用中は最大MPが減るバフが掛かるので、解除するまでは【罠設置】で減ったMPは回復しなくなる。

 ビニールシートに【罠設置】使ってその上に荷物を置いておけば、ダンジョンに吸収される心配がなくなるという神スキルですね。

 【罠師】で覚えられるスキルなんだけど、罠自体は【罠作成】っていう別のスキルがあるのでそっちで作ることになる。

 【種蒔き】は適性がなかったね。

 【園芸師】で覚えられるスキルで、種の発芽率がほぼ100%になるこれまた神スキルです。

 土の中で最適な状態に保たれるんだとか。


(全国の農家さん垂涎のスキルです)


 で、今日なんだけど茨城のつくば支部まで行ってきて、【皮なめし】と【鍛冶・補修】のスキルオーブを取ってきた。

 Eランクの方の【皮なめし】は適性が無くて覚えられなかったけど、Fランクの鍛冶・補修】の為につくば市までいったので、ついでにEランクダンジョンも攻略してきたのだ。

 攻略と言えば各支部でちゃんとダンジョンの地図って売ってるんだね……。


(初日の苦労は何だったのかと言いたい)


 【鍛冶・補修】は装備の修理に使えるスキルで、金属製品の形を軽く整えることが出来るスキルになる。

 汚れも落とすことが出来るので、毎回その日の探索が終わったら使いたいスキルだ。


(装備は父親の形見の品になるので大事に使わないとね)


 行ける範囲で覚えられそうなスキルオーブが出る場所は回ったつもりだ。

 他に冒険者学校のダンジョンに【剣士】の【スラッシュ】と【魔法使い】の【魔力+3】が出やすいダンジョンがあるんだけど、関係者以外は入れないので諦めた。

 【魔力+3】……。

 同じ【魔法使い】のダンジョンコアのFランクダンジョンがある本部とは出やすいスキルオーブが違うらしい。


(ステータスアップ系のスキルオーブはぜひ欲しかったのに、数字が高い方に入れないとは……)


 手元に残ったスキルオーブは【気配察知】が2つと【種蒔き】と【皮なめし】。

 売ることもできないし、適性があるジョブの入ったダンジョンコアが手に入るまでは保管しておくしかないだろう。


(それにしても疲れた)


 慣れない遠征のせいだろうか?

 ここ2、3日は家に帰るとすぐに寝てしまう。

 しかも寝ても疲れが取れてる気がしないんだよね。

 今も少し頭が痛い。


「あ、太助君、久しぶりじゃない。昨日のオークションの結果は見た?」


 4日ぶりに浦和支部に帰還。

 昨日は【ファイヤーアロー】のオークションがあって、なんと803万円という相場の2倍の値段が付いたのだ。

 疲れているけど、そのお金の受取り手続きの為に支部に寄ったのだ。


「はい、びっくりしました。これも黒川さんのお陰です。ありがとうございます」


 オークションに出そうって言ってくれたのは黒川さんだからね。

 それが無かったら半分の値段で売ってしまっていた。


「私は何もしてないわよ。普通に仕事をしただけなんだから。さあ、手続きしちゃいましょうか。書類持ってくるからちょっと待ってね」


「最近来ないと思ったけど、もう学校始まってたのか?お前って何年?3年じゃないよな?」


 黒川さんが奥に引っ込むと、莉子が話しかけてきた。


「1年です。明日入学式ですね」


「はあ!?え?ってことはまだ中学生だったのか?嘘だろ?」


 いや、卒業式はずいぶん前に終わってるから中学生ではないんだよね。

 でも入学式が終わってないから高校生でもないという……。


「何?大きい声出して。また太助君に絡んでるの?やめてって言ってるでしょ!」


 黒川さんが戻ってきて莉子を窘める。


「いや、コイツ中坊だって!茉莉、知ってたか?」


「え?嘘でしょ?確かに若く見えるけど……。中学生に探索者のライセンスは発行されないって。ねえ?」


「はい。明日、高校の入学式なので高校生でいいと思います」


「ふえっ!?」


 黒川さんも知らなかったのか。

 支部長は知ってるんだけど、教えてなかったみたいだね。


「どうやってライセンス取ったんだよ。歳誤魔化したのか?茉莉みたいに?」


「誤魔化しとらんわ!でもおかしいわね?高校生でも、4月に入ってからじゃないとライセンスって取れないわよね?」


「だよな?まだ15か?茉莉の半分だぞ?」


「失礼な!まだ30じゃないわ!」


 ちょっとまだってところが弱かった気がするが……。

 まあ俺の方は隠してる訳じゃないし、教えてもいいだろう。


「特例で3月からダンジョンに入れるようにしてもらいました。病気の弟がいてポーションが必要なんです」


 黒川さんならポーションや薬草のことにもいいアイディアを出してくれるかもしれないしね。

 教えておいて損はないだろう。


「えぇ、そうなの……大変ね。何かいい方法があればいいんだけど……」


「特例?クソッ。なんでお前みたいな奴が探索者になれたかと思ってたら、特例かよ。はぁ。


 コイツ……。


「ちょっと莉子!言っていいことと悪いことがあるでしょ!アンタ、いい加減にしなさいよ!」


 黒川さんが怒ってくれてるけど……。


「病気ってことは薬草だよな?Cランク、それも未踏破ダンジョンのCランクエリアだ。やめとけ、お前じゃ死ぬだけだ。大体?ガキを……」


 言い訳かもしれないけど……。

 気が付いたら手が出ていた。

 疲れていて頭が回っていなかったのかもしれない。

 言っていいことと悪いことがあるように、やっていいことと悪いことがある。

 でも……。


「きゃあっ」


 アレ?





「……け君、太助君。良かったー。目は覚めた?わかる?」


 なんかとっても柔らかいのがわかります。

 しかも陰になって、起こしてくれた黒川さんの顔が良く見えない。

 これは……、もしかしなくても膝枕というヤツでは?


「は、イッ……」


 起き上がろうとすると幸せな感触とは一転、顎が痛んだ。


「大丈夫、ではなさそうね。でもさっきのは君が悪い!莉子も悪いけど暴力は絶対にダメ!探索者の力は人向かって使っていいものじゃないんだからね!本当ならライセンス剥奪ものだよ?わかってるの?」


 何が起こった?

 いや、やられたんだ……、莉子に。

 顎に一発か?

 前からわかっていたけど、アイツは俺より高レベル。

 支部職員はDランクダンジョンでモンスターの間引きをしている。

 当然レベルは20以上だろう。

 今のオレじゃ勝てる訳のない相手だ。


「アイツは?」


「……ハァ。支部長室。お説教中よ」


『この子は!なんでわからないの!』


『知るか!なんでアタシだけ……』


 奥から支部長の怒号が聞こえてくる。

 でも支部長だけじゃない、莉子の言い返す声もだ……。

 全然反省してないな。


(【時間遡行】)


 俺もだ!



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