第6話
ロキがダンジョンコアと呼称した、腰ほどまでの高さがある黒い球体の前に立つ。
そこには磨き上げた黒曜石のような球体が妖しく煌めいている。
(そのダンジョンコアって何?)
『文字通り迷宮の核さ。迷宮を停止したり折り畳んだり消滅させたりできるぜ』
(へー。そういえば、どうして親切に色々と教えてくれるの?)
『よりにもよってオイラの神核を取り込まれちまったからなぁ。オマエが死ぬとオイラもかなーり面倒なことになるんだよ』
もしかしてロキからドロップしたなんとか結晶はとんでもなくレアだったりしたのだろうか。
(なるべく死なないようには気を付けるよ)
『オイラはオマエに賭けることにした。可能な限り助けてやるから、死ぬ気で生きろよ?』
ロキのどこか覚悟を決めたような声色に念を押され、僕は静かに頷いた。
ひとまずロキのアドバイス通りに黒い球体に触れてみる。
──────────
迷宮を制覇しました。
スキル、『迷宮の覇者』を入手しました。
ダンジョンコアの新たな所有者となりました。
所有者権限により以下の管理権限を得ます。
・迷宮を停止/稼働する。
・迷宮を最小化/最大化する。
・迷宮を消滅させる。
──────────
(迷宮の覇者ってスキルは後で調べるとして……、迷宮を停止するとどうなる?)
『新たなモンスターが湧かなくなるぞ。アイテムの複製も行われなくなるけどな』
ロキの説明で知らないワードが出てきたので、すぐに聞いてみる。
(アイテムの複製?)
『マジか、こいつ……。気付かずに攻略しやがったのか?迷宮には侵入者の技術を学習し、侵入者の攻撃に対する耐性を獲得し、侵入者が使った武器や防具を複製する特性があるんだよ』
「あー、なるほど」
塩が沢山あったりスライムのスキル結晶が大量に落ちてたのは武器として使われたので複製されたのか。
(迷宮を最小化するっていうのは?)
『それを実行すると迷宮全体が折り畳まれてダンジョンコアの中に収納される。侵入していた者とダンジョンコア自体も迷宮の外へ放り出されるぞ』
ダンジョンが黒い球体の中に収まってしまうというのは想像しにくいが、本当に可能ならダンジョンを移動させられるかもしれない。
あとはダンジョンの消滅か。
文字通りダンジョンが消えるのだろうけど、一応聞いてみる。
(消滅っていうのは?)
『ダンジョンが崩壊して消え去り、侵入者は迷宮の外へ放り出される。中に居たモンスターのポイントは手に入らないが、替わりに夢幻帯星の欠片が手に入る』
概ね予想通りだったが、新たに分からない単語が出てきた。
(ムゲンタイセイの欠片って何?)
『それは……聞きたいのなら丁度良い奴が居るぜ』
(?)
ロキの意味深な発言に辺りを見回すと、何メートルか頭上に3人の光る女性がいつのまにか浮いている。
怖い!
「どなた!?」
──────────
我々は現行人類よりも先に知的生命体を名乗っていた種族の成れの果てです。
──────────
僕の疑問に呼応するように、ステータス画面と同様のウインドウが空中に浮かび、文字列を成す。
3人の内の金髪のお姉さんが微笑みを浮かべた。
(この人達は誰なの?)
『迷宮を踏破した奴に色々教えてくれる三女神だな。気になることは聴いてみると良いぜ』
疑問に答えてくれるらしいので顎に手を当てて考える。
「人類より先にってことは、何万年か前の古代人ってことですか?」
ロキに女神と言われたのでちょっとビビりながら質問を行う。
──────────
我々は現行人類時間の約50億年前、この太陽系が出来る前の恒星系に住んでいた存在です。我々の種族は滅ぼされる寸前、肉体を捨てて精神生命体となりました。
──────────
3人の内の青い髪の少女が口を動かさないものの、説明を行うようなジェスチャーをした。
古代人とかそういうのかと思ってたらスケールが違った……。
滅ぼされるなんて物騒なことが書いてあったけど、50億年前に住んでたという場所はどうしたんだろう。
「女神様達が住んでいた星はどうなってしまったんですか?」
──────────
我々の恒星系は
──────────
どうやらこの人達が住んでた星とかが夢幻帯星とやらに滅ぼされ、今の地球とかが作られる元になったらしい。
その割には3人の女性は人間とかなり似通った見た目をしている。
まあ人間にしてはあり得ないレベルで顔立ちが整いすぎていてる点を除けばだが。
収斂進化なのだろうか?
「えっと、その夢幻帯星って何なのでしょうか?」
3人の内、金色の髪のお姉さんが前に出る。
──────────
夢幻帯星は星を滅ぼす存在です。受けた攻撃に対する耐性を会得し、その攻撃に使われた物を複製し、その攻撃に関するあらゆる物を学び取ります。更に、それらの特性を得た魔物を無限に産み出します。
──────────
攻撃に対する耐性をゲットして攻撃方法を盗むモンスターを産み出す存在。
それって……。
「なんかこのダンジョンみたいだね」
僕の呟きに対して、青髪の少女がこくりと頷く動作を行う。
──────────
我々の種族は滅ぼされる寸前、持てる力の全てを用いて夢幻帯星の体躯を3億の欠片へと分割し、ダンジョンコアへと封じたのです。この星に出現した迷宮はそのダンジョンコアより生まれたものです。
──────────
恐らく地球に人類が誕生し、ダンジョンが現れたのは偶然ではないのだろう。
知的生命体の存在した星が滅んだ後、1から作り直された星に再び知的生命体が生まれるなんて確率が低すぎるし。
「女神様達はもしかして、地球に色々と干渉してきました?」
──────────
肯定します。この第3惑星に知的生命が誕生するように手を加え、現行人類が夢幻帯星を打倒し得る力を持った種になるように調整してきました。
──────────
人類が夢幻帯星を打ち倒す……?
星を滅ぼすような存在に人が勝てる訳ないと思うけど。
「話を聞く限り、神様達は今の人類を超える超文明だったのに夢幻帯星って奴には勝てなかったのでは?」
──────────
科学を用いて発展した現行人類とは異なり、我々の種族は『神秘』を用いて繁栄しました。夢幻帯星は我々よりも強い神秘を有しており、我々の天敵と言える存在でした。しかし、人類には神秘を殺す観測者としての才能があります。
──────────
(神秘って何だろ?神秘を殺すってどういう意味?)
『神秘ってのは魔法とかスキルだとかの不思議な力のことだな。神秘を殺すってのは、神秘には詳しく観察される程自由度を失って弱体化する性質があるのさ』
エセ超能力者が種明かしされると何も出来なくなるようなものだろうか?
(やば、そろそろ脳みそが限界になってきた。本題に入ってもらわないと)
「あの、もしかして僕に何かやってもらいたかったりします?」
──────────
多くの観測者により夢幻帯星を弱体化させ、殺してください。夢幻帯星は死亡時に天文学的低確率で別次元の何処かに隠してある自らの神核を露出させます。これを破壊しない限り夢幻帯星は復活します。
──────────
多くの人に戦いを観戦させるってことだろうか。
迷宮内での戦いを多数の人に見せるというのは非常に難しそうに思える。
加えて、夢幻帯星を倒したら天文学的低確率で弱点を晒すって言われてもそんなの無理に決まって──
ん?死んだら極低確率で神核を露出する……?
アイテムを、ドロップする……?
初回限定ドロップ……!
僕の固有スキルである初回限定ドロップには倒した相手の1番ドロップ確率が低いアイテムをドロップさせる効果がある。
僕なら倒し得るのか?
むしろ、僕にしか倒せない?
『そうか、オイラの神核を落とさせたのはソレか……それなら夢幻帯星にも有効なはずだ』
ロキが肯定してくる。
しかし、それにはまず不特定多数の人達に迷宮内の戦闘を見せて夢幻帯星を弱体化させねばならない。
そんなの無理だ。
「その夢幻帯星との戦いを多くの人に見せるのって難しくないですか?」
──────────
夢幻帯星が産み出した魔物との戦闘を観測していくだけでも夢幻帯星は弱体化していきます。また、多くの現行人類に観測していただく為、神を廃する機能、『ハイシン』を付属させました。
──────────
ああ、そういえばそんな機能があったな。
ハイシンって、「配信」じゃなくて「廃神」だったんだ。
いや、ダブルミーニングかも。
いい加減、頭がパンクしそうだ。
後はロキにでも聴けばいいか。
あ、でもひとつだけ気になるな。
「どうして何十億年前の存在が産み出したものなのに、人間の神話とか民話とかの空想上のモンスターがダンジョンに出てくるんですか?」
──────────
順序が逆です。夢幻帯星が産み出した魔物の情報を我々が現行人類の民話、伝説、神話の中へと刷り込みました。
──────────
おおう、モンスターは空想上の存在ではなく、実在したモンスターを架空の存在であると人類に植え付けたのか。
恐らくは観測者効果による弱体化を狙って。
「えーと、貴重なお話ありがとうございました。モンスターとの戦い、がんばります」
そう言って僕が話を区切ろうとしたところ、今まで黙していた3人の内の赤い髪の大人びた女性が前に出る。
──────────
最後に、魔物は迷宮の出口から外に出ることが可能です。特に迷宮内の魔物の密度が一定に達すると、大量の魔物が一斉に出口から外へと逃げ出すのでご注意ください。
──────────
えっ。
モンスターってダンジョンの外に普通に出てくるの?
慌てて確認しようとしたが、3女神は既に跡形もなく消えていた。
残された黒い球体の前で、これからの世界を襲うであろう災厄に覚悟を決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます