曇らす眼鏡

灯トモル

第1話 曇らす眼鏡

何の変哲もない、青い空と青い海。

朝露をまとった雑草。

風に揺れる木々。


あの子はそんな景色を眺めながら、こうつぶやいたことがあった。


この世界はきれいすぎて受け止めきれない、と。


その意味も世界のきれいさもわからない自分は何も言えなかったけれど、

あの子はただ笑っていた。


いつも黒いフレームの眼鏡をかけていたあの子。

あの子には、なんでもないこの景色がどう見えていたのだろう。


別れ際、あの子が残していった黒いフレームの眼鏡。

自分と同じことを言う子がいたら渡してほしいと。


こっそりかけてみて、度が入ってないことに気がついた。

眼鏡の機能を持たない、世界を曇らせるだけの眼鏡。



雨が止み、雲が切れてきた。

今日も空は青く、木々は風に揺れている。

何の変哲もない景色。


自分にはあの子に見えていた世界は見えないけれど、

この眼鏡はちゃんとつないでいくよ。

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