夫しか知らなかった

@calypso

第1話

美空が家族とこの街に引っ越してきて5年が過ぎた。

東京の端にある引越し先の街は景観が美しく整備され一歩家を出て散歩するだけで美空を幸福にさせた。

起伏に富んだ道並みは遠くの景色まで見渡せ美しい木々や花々の植栽に嬉しくなる。


美空は48歳。

夫の良介はひとつ下。

セックスレス夫婦だ。

しかし少し前まで美空は自分はとても幸せだと信じて疑わなかった。

実家の父に比べて温厚で優しい夫と結婚出き、毎日を穏やかに過ごせること、新しいマイホーム、二人のかわいい娘にも恵まれた。

これ以上何を望むのだろう。

なんとかやりくりすれば働かなくていいと良介は美空に言う。

美空は洋服やコスメが昔は大好きだったが子育ての忙しいさ、節約、変わってしまった体型などもあり今までの手持ちのまだ着れる服や化粧品でなんとかやり過ごしていた。

42で産んだ次女は甘えん坊でまだまだ手もかかる。

幼稚園から2時に帰宅する次女と公園、習い事、歯医者やアレルギー持ちの次女の耳鼻科、いずれかが毎日あると1週間なんてあっという間に過ぎていく。

もう48歳だしあとは枯れていくだけ。

それでいいじゃないか。

私はもう母として生きていく。

誰も私のことなんて気にしていないなら着心地の悪い服やお洒落だけど痛い靴はあってもしょうがないと思って潔く断捨離した。


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