第5話 優綺の救出
ふたりから離れる決意を固め、引っ越しの準備を進めていたある日のこと。
ドンッ
「きゃーっ!」
アパートの外から聞こえた鈍い音と、
オレは慌てて外に飛び出した。
アパートの敷地の出入り口、
「優綺ちゃん!」
道路には4トントラックが停まっており、運転手がトラックから降りてパニックになっている。
そして、その場にいた智子さんもパニックで固まっていた。
「119番! すぐに救急車を呼べ!」
オレは運転手に叫んだ。
おそらくトラックが優綺ちゃんを轢いたのだ。
もたつく運転手。
「アンタから話そうとするな! 向こうから聞かれたことに答えればいい! いいな!」
「わ、わかった……」
「石井さん、しっかりするんだ!」
「さ、坂上さん……」
「優綺ちゃんの手を握って、ずっと呼びかけるんだ! 諦めるな!」
地面に横たわる優綺ちゃんの手を握る智子さん。
「優綺! 優綺! しっかりして! 優綺!」
智子さんの叫びが住宅街に響く。
「すぐに救急車が来れないだって!?」
真っ青になっている運転手。
「どうした!」
「きゅ、救急車が足りなくて、到着に時間がかかるって……」
昨今、擦り傷で救急車を呼んだり、救急車をタクシー代わりに使おうとする馬鹿もおり、そんなことが積み重なり、救急車不足が発生することがある。おそらく今もそんな理由だろう。
「石井さん、直接病院へ運びましょう!」
「えっ!?」
「素人が重傷患者を手で運ぶなんて、本来であれば絶対に禁じ手です。でも、県立中央病院までなら小走りで十分以内に着きます。どうしますか?」
一瞬悩んだ様子だったが、智子さんは力強く頷いた。
「優綺ちゃん、痛いかもしれないけど我慢してね!」
優綺ちゃんをそっと抱きかかえたオレ。
薄く目を開けた優綺ちゃん。
「……おにいちゃん……ゆうき、がまんする…………ごげぇっ!」
優綺ちゃんは血を吐いた。内臓を損傷しているのか!?
揺らさないように、でも急いで病院へ向かうオレたち。
「石井さん! 県立中央病院に事情を説明して、病院の入口に医師を待機させるように連絡してください!」
「は、はい!」
優綺ちゃん、絶対助けてやる!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「応急処置後、すぐにCT室へ! 輸血の準備も急げ!」
優綺ちゃんは途中何度か血を吐きながらも、何とか病院へ搬送することができ、ストレッチャーに乗せられて医師たちに運ばれていった。
「オレ、O型です! オレからも血を取ってください!」
「よし、身体を拭いてからキミも採血室へ!」
よく見れば、オレも血まみれだ。
「石井さん、待機室で待っていてください」
不安気な表情で頷く智子さん。
「優綺ちゃん、絶対大丈夫ですから。ね」
智子さんは、オレの言葉にようやく優しい笑顔を浮かべてくれた。
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