第3話 未来視
めがねをかけながら、アパートへ帰ってきた。
自分の部屋の鍵を開けようとした、その時。
「おにいちゃん、こんばんはー」
「坂上さん、こんばんは」
隣の部屋に住む
元気に笑顔で挨拶してきたのは
お母さんは
でも彼女は、顔に大きな傷跡が三つもある
「坂上さん、めがね……」
「あぁ、これ伊達めがねなんです。目つきを隠せるかなって」
適当な理由をつけてごまかすオレ。
「あの……」
「はい?」
「……めがね……とってもお似合いですよ」
頬を赤らめて微笑む智子さん。あの、勘違いしちゃうからやめてください……
「おにいちゃん、かっこいいー」
「優綺ちゃん、ありがとう!」
頭を撫でてあげたら、優綺ちゃんも大喜び。
智子さんもにこにこしている。
「それじゃあ、石井さん、優綺ちゃん、おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
「おにいちゃん、おやすみー」
三人で手を振って別れた。
あのふたりとおしゃべりすると、本当に心が暖かくなる。
オレは部屋に入り、何だかホッとした気持ちになった。
ベッドに座り、かけていためがねを外す。材質はプラスチックかな? 正直、ちょっと安っぽい感じ。
でも、めがねをよく見ると、フレームに小さくジャック・オー・ランタンの絵が彫られていた。ハロウィーンの時のあのカボチャだ。ワンポイントで可愛いな。そして、その絵の横に文字も彫られていた。
『FUTURE WORLD』
フューチャーワールド……未来の世界? 製品名? メーカーの名前かな?
オレはもう一度めがねをかけてみた。すると――
ドクンッ
えっ?
ドクンッ
激しい鼓動がオレの胸を内側から叩いた。
ドクンッ ドクンッ
目の前が歪んでいく。
ドクンッ ドクンッ
そして、視界は真っ白になっていった。
ドクンッ ドクンッ
そこに映し出されたのは、ふたつの映像。
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
血まみれの優綺ちゃんと、血に染まったオレの手。
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
オレが覆いかぶさり、顔を歪めて泣いている裸の智子さん。
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
まさか!
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
まさか、これがオレの未来なのか!?
ドクンッ ドクンッ ドクンッ
ハッ!
強烈な鼓動が急に収まる。
気がつくと、オレはめがねをかけたままベッドに横たわっていた。
あのふたつの映像は、いわゆる『
めがねは本物だったのだ。
だとすれば、あれはオレを待つ未来!
いや、オレが起こす未来だ!
オレは優綺ちゃんを殺し、智子さんをレイプするのか!?
そんな馬鹿な! あのふたりを傷付けることなんてするわけがない!
しかし、オレの心が世の中への憎しみでまた膨れ上がっていく。
……あれがオレの未来だとしたら……やっぱり、オレは生まれながらの犯罪者なんだ。
あまりの悔しさに歯を食いしばった。
薄い壁の向こうから優綺ちゃんと智子さんの笑い声が聞こえる。
オレの頬を涙が伝った。
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