生き神としての使命

 熱が下がり、比較的軽い運動が出来るようになった頃、私は境内の掃除をしていた。カタクリは摂社と拝殿の掃除をしているので、境内には私だけということになる。

 楼門を抜け、参道の方を掃除していた時、沢山の人が私を取り囲んだ。知らない人は全員、白衣に緋袴や露草つゆくさ色の袴を履いている。多分、神職の人達だろう。

「宗一の言っていたことは本当だったのか、、、」

「しかし何故、十五年間も見付からなかったのでしょう」

「この子が稀代の生き神様か、、、」

無意識に、一歩後ずさる。

神職達は口々に話し出すが、私は恐怖しか感じられなかった。

「さぁ生き神様。行きますよ」

 誰かがそう言ったのを合図に、神職達は私の口と鼻に湿った布を押し当てた。

そしたら何だか眠たくなって、、、、、、私は意識を手放した。


 目を覚ました部屋は暗かった。

四畳半の部屋は狭く、窓は外側から鍵がかけられて内側から開けることは出来ない。いきなりこんな所に連れて来られて、酷く動揺した。

部屋の中には収納箱が置かれている。中を見ても当たり前だが鍵は入っていなかった。

(此処は、、、何処だっけ)

何処か見覚えのある部屋なのだが、全く思い出せない。恐らく、小さい頃によく遊んでいた場所、、、。

誰もいない、寒い。

そんな恐怖に怯えていると、部屋に誰か入ってきた。

「お目覚めですか?生き神様」淡々とした口調の女性。私を取り囲んでいた神職の一人だった。

「あの、、、此処から出して!」

精一杯の訴えだった。きっと出してくれると思った、、、それなのに女性は首を横に振る。

「申し訳ありません生き神様。わたくしめでは出来ません」感情のない声。それだけでも怖いと感じた。

「生き神様、よくお聞きくださいませ。神とえにしを結び、生き神に選ばれし者は身を捧げ、この村を守るのが定め。生き神様が身を捧げなければ月峰神様はお怒りになられ、この村を蝕まれてしまうのです」

 きっとカタクリはそんなことしない。そう言いたいけど、言えなかった。

「儀式は明日に行われます。それまで此処にいて下さいませ」その言葉を残して、女性は部屋から出ていった。行灯の光が部屋をぼんやりと照らす。

寒さで体が凍りそうだった。真冬に氷水を浴びるより寒い。

(カタクリがいない所は私には寒くて耐えられないよ、、、)

寒い。

此処は寒い。

暗くて、寒い場所。

息が苦しい。

うずくまる。

寒さなんか感じないように、自分で自分を強く抱きしめて。

「助けて、、、カタクリ、、、」

呟いた言葉は、静寂の夜に溶けていった。

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