我儘な思い

 アンズを眠らせ、夜風にあたり頭を冷やす。

言い過ぎたと思ったが、アンズが何も知らないまま生きてくれるなら後悔なんてないのと同じだ。

 この十五年間、ずっとあの子の側で育ての親として、友達として見守ってきた。それでも、あの子の心に空いた孤独はきっとオレでは埋めることは出来ない。

 摂社の長押なげしに掛けられている物に目を向ける。

古くから使われている面だ。

生き神を神へと祀り上げる儀式では、まさにその役目を負う者がこの面を被る。まだ幼い生き神の子が山に招かれる時も、そしてあの時も、、、。

「、、、、、、」

妙な顔だ。怒り睨んでいるようにも、恨めし気にも、絶望しているようにも見える。

、、、案外これに、表情はないのかもしれない。

 アンズは何も知らない。産みの親だって顔も覚えていないだろう。それにオレだって、アンズに話していないことは沢山ある。

 誰も悪くない。それは分かっているし理解している。

好きだからこそ、悲しませたくないのだ。守りたいのだ。

 あの笑顔を守れるのなら、オレはどんな非道なことも出来るだろう。

 初めて赤子のアンズをこの手に抱き上げた時のことは昨日のように覚えている。少しでも力強く握れば簡単に捻り潰せてしまいそうな人の子。

 オレだって、本人が望むなら父親に会わせてやりたい。それでも、アンズを一度捨てた奴は許せないし、彼奴は正直言って嫌いだ。

 何時か、隠していたこと全てを話せる時が来るのだろうか。

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