ペットボトルのキャップを集める男

博雅

第1話 面接会場にて

とある就職面接会場にて。

最近の面接の手法にはそのあまりの奇抜さに思わず目を剥くものが多いが、今回知人が面接官として役目を仰せつかり、一風変わった趣向のものだったと聞いて一筆とる次第である。


六月を幾日か過ぎたころの少し暑い昼下がり、和風のやや狭めの茶室に、面接官が二人、就活生が三人。服装は、和の空間を乱さなければ良し、スーツ厳禁という不可思議なものだった。


面接官が告げる。

「これからみなさんに、心をこめてお茶を -- 今回は抹茶ですね -- お入れしたいと思います。その感想を、3分以内に、1分より短い時間で出来るだけ語ってください」


一人目、綺麗な着物の女性。

お茶を2,3度にわたり、一気にあおる。そして間髪を入れず、

「このお茶は素晴らしい。まず、冷たく清涼感に溢れ、泡立ちの粒という視覚的要素で訴えかけてくるのは勿論、そう、深みのある、それでいて爽快感のあるお茶です。のど越しも柔らかく、後味もすっきり。もう他に何も飲んでいるとは思えない位、この個性の強さに心打たれました。御社の取り扱っておられるお茶の集大成だと思います」

と熱を帯びつつ口早に語った。


二人目。スーツっぽい、びしッと決めた男性。

ゆっくりと味わい、数十秒後に三十一文字みそひともじ で、

「茶室にて 少しばかりと 口開く その喜びの 向かう先とは」

と、涼しげな顔で詠んだ。


三人目。所々がほつれている、少しくたびれた風貌の女性。

たった一口をつけ、少し飲み、ゆっくりと器を置いた。

そして何も言わない。面接官もただ、これから何が語られるのかを固唾をのんで聞き入っていた。

沈黙が数十秒訪れた。

と、就活生の頬を、やさしい涙が二つ零れ落ちた。涙は暫く流れ続ける。

そして思い出したかのようにハンカチを取り出し、涙を拭いた。


採用試験はこれが最終面接、受かるのは一人のみである。この試験に受かったのは誰だろうか。

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