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「ほんと、自分はおれの黒子だといいながら指揮させると抜群の采配を見せるんだから、この"
なにやら統合作戦本部にありそうな三次元スクリーンを見ていたネアトが呆れたように呟いた。
三次元スクリーンの左右には幾つもの領域画面には、スカブ・シードから見た光景や固定カメラからの映像が映し出されていた。
その中でも注目すべきはやはり三次元スクリーンであった。
見た通りに解釈するなら中心点で輝く黄点はどこかの戦略基地であり、それを囲むように輝く白点は戦艦。ならば青点はスカブ・シードであり、外周部の赤点は《セーサラン》と見て良いだろう。
つまり、これはどこかの要塞の攻撃隊の一隊が七百以上もの《セーサラン》を相手に勝利した光景であろう。
「新兵諸君への配慮といい、隊への指示といい、集団戦をさせたら統一連合軍一。うちの"裏"スペシャルエースを叩こうとさたらあと三千は連れてこないとね」
撤退して行く《セーサラン》に満足しら三次元スクリーンや領域画面をどこか異空間へと消して行った。
全てを消すと、なにやら呆れた感じでため息を漏らし、デッキチェアの横に浮いていた長方形の領域画面を三つ、正面へと移動させた。
一つは戦闘の全体図。一つはスカブ・シードのコクピット内の光景。一つは操縦者たるロロ訓練生のライフ・パラメーターであった。
中央の画面では、青点と十個の赤点が激しく動き回り、左の画面内ではロロ訓練生が激しく息を切らしながら大量の汗を流し、右の画面内ではライフ・パラメーターが危険値を示していた。
「それに引き換えこいつらときたら情けない。新兵ですら平均撃墜数が6匹だっていうのに、まだ4匹しか倒してないよ、まったく」
ロロが相手している《セーサラン》は、《043》。やや小型ながらもスピード自慢というタイプで、それ程恐れる相手ではない。10匹という数も哨戒部隊の標準数であった。
「あーあ。こりゃダメだ」
その言葉通り、青点が赤点に囲まれ、そして、消えてしまった。
画面に映るロロもなにか強い衝撃を受けたように体を跳ねらせた。
「どう思います、この成績?」
デッキチェアに寝そべっていたネアトが突然、うしろを振り向いた。
そこには迷彩服を着たゴアド・ノートン少尉が立っていた。
突然のことにも関わらずゴアドは岩のように動かず、ネアトの子供っぽい笑みを正面から受け止めた。
「……なるほど、最初から気がついついた訳ですか……」
「誰もいないところであんなにしゃべっていたら病院に連れてかれちゃいましよ」
「いや、声を掛けられなかったらロン曹長を呼ぼうかと思っていました」
「アハハ。意外とおちゃめさんですね、ゴアド少尉は」
本気のセリフだったが、上官の顔を潰すのも悪いと思い、肩を竦めて応えた。
「ロロ訓練生を苦しめるとは、なかなか手強いシミュレーションのようだ」
「それ程でもないですよ。確かこれ、おれが四回目か五回目くらいに出たときの
相手を基に作ったシミュレーションですからね」
だったら手強いではないかと、そういいたげな苦笑をするゴアドであった。
デッキチェアから起き上がったネアトは、タラップを昇り、愛機へと消えた。
しばらくして気絶するロロ訓練生を担いで出てくると、格納庫の日陰で先に気絶していた3人の横に寝かせた。
「まったく、手間の掛かるお姫さまたちだ」
言葉とは裏腹にネアトはとっても優しそうに笑っていた。
「ただの天才も真の天才の前では問題児にもならないですか」
格闘技のスペシャリストのセリフに、生き残りのスペシャリストは苦笑いを見せた。
「とんでもない。こいつらの能力といったら異常ですよ。ちょっとでも油断したら噛みつかれちゃいますよ」
「スペシャルエースの道の途中、いや、まだ前半で死んでいるのに?」
「まあ、このときは、高機動型に変革してましたからね、この機だったらロロのように……は、なってませんが、苦戦はしたでしょうね」
ゴアドもスカブ・シードの訓練所にいる身であり、王国軍時代には沢山のスカブ・シード乗りの友人がいたからその能力はパイロット並に知っていた。
だからネアトがいった「高機動型に変革していたから」がどれだけ重要でどれだけ異常なのか良くわかるだけに頭が痛くなった。
スカブ・シードが変革できることは一般常識である。初心者でも座席の形を変えることくらいなら容易にできた。だが、その機体の能力を特化させるには、それこそ奥義を極めるようなものである。昨日今日乗ったくらいで変革できるのなら人類はとっくに《セーサラン》に勝っているというものだ。
「その"差"があなたとこの子たちの間にある壁ですか……」
ゴアドの言葉にネアトは嬉しそうに笑った。
「さすが"オトラリアの闘神"だ。いうことが違う」
「……フフ。統一連合軍の英雄にそういわれるとは光栄です」
明らかに義理といった反応を見せるゴアドに、ネアトは少し真面目な顔を見せた。
「一つ、質問してもよろしいか?」
「わたしで答えられることなら」
「どうしてスカブ・シードに乗らないんですか?」
いっている意味がわからず首を傾げるゴアド。聞き違いかともう一度質問を要求したが、聞き間違いではなかった。
「……質問の意味が良くわからないのですが……?」
「ゴアド少尉──いや、ゴアド大尉の適合率は67%。おれより20も高いでしょうに」
「よく調べたものだ。ならば、王国軍規定が75%以上なのもご存じのはずだ」
表情はそのままに気配が険しくなった。
少し勘の良い者ならその気配に押されたことだろう。だが、ネアトにしたらそんな気配など日常茶飯事。押されることもなければ怖いとも思わない。ああ、この人怒っているな、くらいのものだ。
「ええ。知ってます。ですが、それだけでスカブ・シードに乗れないってことはないでしょうに」
「……なにがいいたいので……?」
その様子にネアトは不思議そうに首を傾げた。
「……もしかして、知らない、ってことですか……?」
そのセリフにゴアドは訝しげな表情になった。
「違う質問をしてもよろしいか?」
構わんよと頷いて見せた。
「スカブ・シード──いや、あなたならリグ・シードか。そのリグ・シードに乗れる。しかもスペシャルエースになれる、といったら、あなたはどうしますか?」
目を大きくするゴアドにネアトはやっぱりと頷いた。
「……どうしてわたしに、そのようなことを……?」
「おれはあなた程一途ではないし、自分を追い詰めるような性格でもない。が、大事な人を失った気持ちは良くわかります」
「…………」
「復讐をしたいのなら、その後悔に焼かれたくないのなら、リグ・シードに乗ることをお薦めしますよ
ネアトの悪戯っぽい笑みに、ゴアドは可笑しさが湧いてきた。
「どうしてわたしなんです?」
「未来の、いや、直ぐにでもスペシャルエースになれる者がそこにいる。しかも本物の英雄が。無理やり英雄をさせられている者からしたら誘いたくなるのが人情ってもの。加えて目の前の英雄はあいつらに復讐したいときてる。なら、あいつらに復讐したいけど復讐するやつらが沢山いて困っている者としたらぜひとも仲間にしたいと思うのは不思議なことですか?」
それはもえとっても良い笑顔を見せるネアトに、ゴアドはとうとう笑い出した。
……年長者がどうしてこんな若造に従うのか不思議だったが、なるほど、人を乗せるのが上手だった訳か……。
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