第8話 道具屋で冒険の資金作り。
日暮れ前にクラウドさんの道具屋に戻った。
「すごいな」
カウンターに積まれたアイテムを前にして、クラウドさんがぼそっと言う。
あの後もルカはモンスターを倒し、要らない物を拾おうとするルカを止め、金目の物を俺が拾い、けっこうな量の物品を取得してきた。
「これでマント代になる?」
すぐ隣にいるルカがクラウドさんに聞いている。
戦利品を前に、目がキラキラしていた。
「なるだろう。計算するから待っててくれ」
クラウドさんが商人の顔になっていた。料金表を手元に置いて手書きで紙に記入している。でも料金表は珍しい物があるとたまに見る程度だった。
薬草くらいしか持ってきてなかったから、こんなクラウドさんを間近で見るのははじめてだった。
「すごい? すごい? ボク、すごい?」
「すごいぞ」
商品名を記入するのに集中しているクラウドさんがルカも見ずに言う。
「邪魔しないように」
ルカを連れてカウンターから離れた。
「ふっふふ~ん。すごいでしょお、ボク」
確かにルカはすごかった。とにかく素早い。モンスターが現れるとほぼ同時に切っていた。水を得た魚という言葉はルカのためにあるのかもしれない。そんな感じだった。
けれど、それを見ていた俺は生きた心地がしなかった。
「ボク、初めてなんだよ。それでこれだけ狩れるってすごくなあい?」
「すごいけど、俺はもう行きたくない……」
「え? なんで?」
きょとんとした顔で言う。本当に分かっていないようだった。あれだけ集中していたら気づかないだろう。
間一髪で避けるのが多すぎる。
モンスターからの攻撃が『当たる!』と思うとルカはサッと避けて反撃していた。今度こそダメだと何度思ったことか。その攻防の入れ替わりが早すぎてこっちの心臓がもたない。
「マント買えればいいだろ。もう行かないからな」
NPCで良い。ルカと安全な生活が送れるならば何も望まない。
「終わったぞ」
クラウドさんがこっちに向かって言ったからカウンターに戻る。持ってきたアイテムは奥にしまわれたのか、カウンターの上は片付いていた。
「これが代金だ」
キチっとした文字で書かれた明細の上に紙幣が置かれた。けっこうな金額だった。明細を確認するとやばかった。マント代も引かれているのにこの金額。
「こんなに?」
信じられない。冒険者ってもうかるのか? 薬草でちまちま稼いでいたのがバカバカしくなる金額だった。今までは絶対にムリだと思っていたから、モンスターを倒して稼ぐなんて考えに入れていなかった。
「ふつうなら見逃す貴重なアイテムも入っていたからな」
「そうなんだ……」
キラキラしてたり高そうなのを適当に拾っただけだったんだけど。
眼鏡のおかげかも? やけに視界に入ってくるアイテムもあった。クラウドさんが言っている貴重なアイテムはそれの気がした。
眼鏡がなければ気づけなかったかもしれない。
貴重アイテムを探すのにも役立つみたいだし眼鏡があれば冒険者も悪くないのかも……。
一瞬、そんなことも思ってしまった。
でも、俺はやらない。
一般人なんだから、安全なNPCがいい。
「これ、ありがとう」
借りてた武器をカウンターに置く。
もう使わないからいい。
クラウドさんが武器を確認していた。ほぼ借りたときと同じ状態だろう。戦っていたのはルカだし、俺はそれほど使っていなかった。
防具もカウンターに置く。
「これ、使ったのか?」
俺をじっと見て言う。目利きのような鋭い眼光……。
「俺はもらった冊子を読んでただけで、モンスターはだいたいルカが倒してたから」
「ハリーは倒さなかったのか?」
うなずく。
「全部、ルカが倒してた」
「強いんだな。意外に」
クラウドさんがルカを見る。ルカは自分のことを言われたとは思っていないかのようにぽやっとしていた。ルカはマントが自分の物になったので喜んでいた。
モンスターをザクザク切ってたルカと同一人物とは思えない。
「ハリーは魔法を使ったのか?」
うなずいた。
「治癒魔法はやってみた」
魔法の方がやりやすかった。借りたからなのか、剣は何か違う。
光魔法が使いやすかったことを言うと、
「それならやっぱりマリーに教わるのが一番だな」と言われた。
マリーは母さんの名前だった。
「なんで?」
母さんの名前がどうして出てくる?
「マリーは聖女様だぞ。光の魔法が得意なけっこう上位の」
ホントに驚くと、言葉が出なくなる。
「知らなかったのか?」
うなずくことしかできなかった。
「言わない方がよかったのかなあ」
クラウドさんが適当な感じに言う。本当にそう思っていないのかも。
「母さんはただの主婦だよ」
聖女って、もっと清らかなんじゃないのか? 立ち居振る舞いはたまに良いような気がするけれど、特別な感じはない。
ふつうの一般的な主婦のはず。
「この辺りに凶悪なモンスターが少ないのは、マリーの光魔法のおかげだ。そんな魔法を使いながら主婦もしているすごい聖女様なんだ」
すごいのか? それ。
「それがどうしてウチの父さんと結婚しているんだ?」
父さんだって聖女様と結婚しているとは思えないふつうの農夫だ。
「リーフはこの村出身の勇者だからだ」
初耳だった。リーフは父さんの名前だ。
勇者って、そんな身近にいてよいものだったっけ? 勇者は伝説とかそれなりのでっかいモンスターを倒したとか、それなりの逸話がなければならないはずだ。
どこにでもいる、ちょっとだけ裕福なふつうな農家の夫婦だと思っていたのに……。
クラウドさんにからかわれているのだろう。
そんなことがあるはずない。
「教会に行って、魔法の属性を調べてもらったらどうだ?」
「帰りに寄ってみる……」
そう言って、道具屋を出た。
ルカも当然、一緒に出る。
マントが気に入ったようで嬉しそうだった。
似合ってるから、ホントに本当に似合っているよ。
眼鏡のおかげで世界ははっきり見えるけど、ルカが居るからキラキラしている。
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