第1章  卒業試験と護衛員⑧

 次の日、休んでもいいと言われたが、僕は出勤することにした。回復魔法のおかげで8割方回復できている。


 部屋のシャワーを浴びて隊服に着替えたら、ノックの音がした。

 ドアを開けた。


「今日は勤務できるのか?」


 レイラだった。相変わらず目つきが怖い。でも、昨日よりほんの少しだけ目が優しくなったような気もする。


「ちょうど支度が終わったところです」

「なら、ついて来い。まだ王宮の部屋もおぼえていないだろう?」

「はい、助かります」


 僕は部屋を出た。

 連れて行かれたのはソフィアの書斎だった。


「おはようございます」

「おはよう、レン。昨日はお疲れ様でした」

「いえいえ、大事な訓練ですから」

「基本的に、我々がするのは姫の身辺警護だ」


 レイラが説明してくれる。


「姫の側で、姫をお守りすることが仕事だ」

「はい」

「後は、慣れて覚えろ」

「はい。よろしくお願いします」

「よろしく頼む」


 レイラが“よろしく”と言ってくれた、僕は驚いたが嬉しかった。

 部屋の隅で控えているシュウにも、


「よろしくお願いします」


と言った。シュウは頷いただけだった。

 ユーリにも挨拶をした。


「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

「昨日はありがとうございました」

「いえいえ」


 僕も部屋の片隅に控えた。


「レン」


 レイラに声をかけられた。


「はい」

「背筋を伸ばせ」

「はい。すみません」


 どうやらたるんでいたらしい。慌てて背筋を伸ばした。だが、僕は元々が猫背なのだ…。


「レン!」


 背筋が曲がる度にレイラに叱られた。

 お金をもらえるのだから仕方ない。とにかく頑張ろうと思った。 


 レイラに言われた。


「今日の仕事の後は私に付き合え」

「はい」


 嫌な予感がした。 



 勤務の交替の時間になった。要するに、勤務初日を無事に終えたということで、緊張も解けてホッとした。そこで、


「レン、行くぞ」


 レイラに声をかけられた。レイラとの約束を忘れていた。


「どこに行くんですか?」

「訓練場だ」

「はい?」


 何故、訓練場に行くのか分からなかったがとりあえずついていった。


「構えろ」


 訓練場の開始線でレイラが言った。


「何故ですか?」

「私は貴様のことが気に入らない」

「なんでですか?」

「ソフィア様の元に挨拶に来たときのことを覚えているか?」

「はい」

「ソフィア様が“もう自爆魔法を使うな”と言ったのに反論しただろう?」

「はい」

「ソフィア様に逆らったことが許せない。我々は、ソフィア様がおっしゃることに従っていれば良いのだ」

「それだけで決闘ですか?」

「他にも理由はある、新卒でいきなりソフィア様の護衛員になれたことも気に入らない。みんな、激戦を乗り越えてから護衛員になっているんだ」

「すみません」

「詫びなど要らん、剣を抜け。我々剣士は、剣で語り合えばいいのだ」


 僕は大剣を抜いた。


「昨日は引き分けだったな」

「はい」

「引き分けというのも気に入らないんだ」

「わかりました、お相手しましょう」


 僕は決闘の回避を諦めた。


「行くぞ」

「はい」


 レイラが間合いを詰めてくる。だが、レイラの間合いは僕の間合いでもある。お互いの剣が激突した。力比べならこちらに分がある。レイラが後方に跳んで間合いから抜けた。


 だが、僕は追いかけない。あくまでもかかってくる分だけ相手をする。すぐにレイラが一気に間合いを詰めてきた。


 カウンター狙い。僕は追い風を使って間合いを詰めた。風を使った分、一瞬だけ僕の方が早かった。更に、僕にとっての追い風はレイラにとっては逆風になる。レイラの動きが一瞬だけ鈍くなる。僕はレイラの喉元に剣を突きつけていた。


「私の負けだ」


 レイラは剣をおさめた。


「すみません」

「いや、これでスッキリした。これほど強いなら私もいろいろと納得できる」

「はあ…」

「では、食事に行こうか?」

「は?」

「嫌なのか?」

「いいえ……」

「何か言いたいことがあるのか?」

「これって、新手の逆ナンですか?」


 僕は顔面を殴られた。


「殴るぞ」

「もう、殴っているじゃないですか」

「お前の歓迎会だ」



 僕はレイラと食事に出かけた。まさか、レイラと食事をするとは。







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