とある離婚式の風景

Bamse_TKE

第1話

「本日はお日柄の良く天候にも恵まれまして……」

 司会者の声がホテルの小ホールに響く。恐らくは結婚式にも慣れているであろう司会者の口上を聞きつつ、俺は元親戚、先日まで妻だった恵理子と正装の上にリボンで彩られたハンマーを持たされ、一見仲良さそうに並んで立たされていた。

 俺には離婚の理由が良くわからない。恵理子が俺に飽きたのだろう。その位にしか考えていなかった。別に俺は浮気もしていないし、夫婦間の諍いとも無縁だった三年間の結婚生活、恵理子から別れたいと言われたときは正に青天の霹靂であった。しかし別れを望む人間とこれから結婚生活を送ることは苦痛であろうと理解し、必要書類へのサインに応じた。

 不思議であったのは恵理子が離婚式なる儀式を提案してきたこと。もちろん客など一人もいない。先程の司会者と我々元夫婦だけが集められ、必要とは思えない儀式を行っている。

「ではお二人、お気持ちに変わりは御座いませんでしょうか?」

 最早戸籍上他人であるおれと恵理子に、司会者はわざわざ最後の意思確認を始めた。恵理子は伏目がちに小さく頷き、仕方なく俺もそれに倣った。

「ではお二人には最後となる共同作業、ハンマーによる指輪の破壊をお願いいたします。」

 司会者の言葉に俺と恵理子はゆっくり派手に彩られたハンマーを二人で一緒に振り下ろした。とは言っても振り下ろした先には指輪はなく、指輪を潰す機械のスイッチがあるだけだ。そのスイッチを押すと機械のスイッチが入り、少しだけ重なる様にして置かれた2つの結婚指輪が万力のような金属の塊に押し潰される仕掛けだ。

 俺と恵理子のためらうことなき行動に、機械は従順であった。重苦しい作動音とともに、重ねられた結婚指輪が押し潰されていく。機械の作動かわ終了したとき、司会者は高らかに宣言した。

「これにてお二人は円満に離婚されました。それぞれの人生に幸多からんことを。」

 最後まで仰々しい司会者が宣言し、離婚式は終了した。俺は司会者に礼を述べる恵理子を尻目に先程とは逆の方向に動き始めた、指輪を潰す装置を見つめていた。そこには機械に潰され、重なった部分がくっつき、めがねの如き8の字になったもと指輪だった薄い金属片が横たわっていた。皮肉にも永遠を表す8の字を見せられた俺は、もしかすると恵理子は俺との何事も無く続く永遠に失望したのかも知れないと夢想した。

 

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