なんでも透けて見える眼鏡

@kuramori002

なんでも透けて見える眼鏡

「助手くん、遂に完成したぞ!」


「何がだよ、博士ちゃん」


「博士ちゃんはやめろと言ってるだろぉ、あたしのが年上なんだぞ」


 博士ちゃん―――もとい、僕のひとつ年上の幼馴染であるところの戸野辺緋色とのべ ひいろはご立腹のようである。


「はいはい、すみませんね、博士。で、何が完成したんです?」


 博士と呼んだが、本人が呼ばれたがっているだけで、緋色は博士号を持っているわけではない。と言うか、基本的には単なる女子高校生である。


 ただし少々、経歴と頭脳が特殊ではあった。


「ふふ、聞いて驚くといい―――」

 言いながら、今の今まで弄っていた何かを高々と掲げる。


「これは、【なんでも透けて見える眼鏡】だ!」


 うわぁ、やっぱりまたトンデモアイテム作りやがったこいつ。





 経歴―――14歳から16歳まで行方不明。

 本人いわく、ちょっと異世界を救ってきた。

 医者いわく、ストレスからくる虚言癖の可能性。



 頭脳―――科学的に不可能な事象を引き起こすアイテムを作り出せる。ただし、効力は短時間で切れる。

 本人いわく、発明スキルとあたしの天才性とのコラボレーション。

 科学者いわく、理解不能・再現性無し。



「なんでも透けるって、どういうことだよ? てゆーか、変なもの作るなって言ってるだろ?」


 駅舎半壊事件は記憶に新しい。

 すぐに緋色自身が(謎のアイテムで)直してしまったから、大きな問題にはならなかったが……。


 ここは緋色自身の家の彼女の部屋なので、ある程度は(例えば、ちょっとした爆発とか……)なら誤魔化せるけれども、トラブルはないほうが良いに決まっている。


「変じゃない変じゃない! この眼鏡をかけると、出力次第であらゆるものが透けて見えるというスペシャルな代物だよ。レントゲンいらずだし、箱の中身を開けずに確認することだってできるんだ!」


 うう……ん? どうも悪用しまくれそうな予感がする。てか、思春期男子的にはエロい用途しか浮かばないのでやめてほしい。


「なんでそんなもの作ったんだ?」


「これを見てよ」


 机の上の棚を指差す。

 そこには、アニメキャラクターのフィギュアが数体並んでいる。


「……これ、食玩だよな。まさか、その眼鏡作ったのって―――」


「そう、ちょっと狙ってるものがあってね」


 く、くだらない……


「む、くだらないって思ってるだろう?」


「まぁ、うん」


「ひどい! そこは嘘でも違うって言ってよぉ!」


「や、嘘はよくないからね。で、その眼鏡つけて買いに行くのか?」


「それは、明日にしようかな。今日はもう疲れちゃった。寝る~」


 そう言って、机からベッドに移動し、ごろんと横になると、すやすやと寝息をたて始めた。


 あまりにも身勝手である。


「さて、片付けるか」


 僕はひとりでつぶやくと、部屋の片づけと掃除を始める。


 いつの間にか、こんな関係性である。


 行方不明になった幼馴染が突然帰ってきたときにはうれしかった。けれども、言動と行動が以前に輪をかけて怪しく、その作り出す品々を見るに、どうも言っていることは本当らしいという事実は受け入れがたくある。


 彼女が僕にだけ話してくれた冒険譚を聞くに、どうも彼女はあちらの世界のほうが性に合っていたのではないか―――生きやすかったのではないかと思わずにはいられない。


 緋色の破天荒さを、多分こちらの世界は受け入れられない。


 それでも―――それでも、彼女にこちらの世界に居て欲しい。


 そう思って、それでいて特別なことができるわけではなく、とにかく近くにいて、世話を焼いているというのが現状だった。


 床に散らばった雑多なものを片し(昨日も片付けたはずなのだけれど)、次に机の上を整理していく。


 さっき完成したと言っていた【なんでも透けて見える眼鏡】が置かれている。


 ちら、と緋色の方を見る。


 ―――よく寝ている、よな?


 悪戯心というか、スケベ心というか、「ちょっとこの眼鏡をかけて緋色を見てみたい」という気持ちが、ない、わけでは、ない、と言うか……いや、ダメだろ僕。冷静になれ、それはダメだって……


 などと眼鏡を持ったまま逡巡しているうちに―――


「ヘタレ」


「うっああああああ、いや、これは、その、ちがくて!」


 いつの間にか、緋色が起き上がって来て僕の後ろに立っていた。


「キミが思ったよりヘタレなせいで作戦が台無しだよ、もぅ。思春期男子の性欲はそんなもんかよぅ!」


「何を言ってるんだ、何を!」


「もー、良いからこの眼鏡かけろ!」


「わ、ちょ、え?」


 緋色が僕の顔に【なんでも透けて見える眼鏡】を押し付ける。


 そして、僕はその眼鏡のレンズ越しに緋色を見た。



「いつも優しくしてくれてありがとう」「キミが居るから帰ってきた」「キミの隣にいたい」「好き」「大好き」「ずっと一緒にいたい」


 

「感情透視モードだよ。どう? あたしの気持ち、ぜんぶ透けて見えたでしょ?」


 顔を真っ赤に染めて、緋色はそう言った。






 

 


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