第二十四話 伊能忠敬の限りを尽くす
どこにも
武蔵にとってこの状態は昼下がりの
負けず嫌いな宮本武蔵にとって、伊能忠敬は心の底から
『なあ侍、慶長九年よりも後の時代に伊能忠敬って奴がいてよ。お前と同じくらい、下手すりゃお前よりヤベえ奴だ』
武蔵は悔しかった。信じられなかった。
しかし、セツナの話す内容が全て事実なら認めざるを得ない。
伊能忠敬は
やるにしても二十代とか
宮本武蔵もまた、
なればこそ、伊能忠敬を上回る熱量を持って〝国〟の
*
「おぬしらも頼りにしておるぞ、拙者の代わりにヒメとセツナをしっかりと守れ」
武蔵は隊長の肩を力強く叩き、対する隊長は憧れの宮本武蔵に
「ヒメ不安なんだけどぉ、隊長大丈夫〜?」
『実力は確かなのだ、隊長さん、よろしくお願いしますなのだ』
隊長と
セツナは武蔵と初めて会った日や、北一直線開始前夜の飲食店のように、
信頼を担保するという意味をあらわす〝折り紙付き〟なる言葉もまた、当然かつての宮本武蔵が生み出した言葉だった。
北一直線百八次を
中には「何か知らんけどヒメちゃんに
高い
初期の段階で豆餅に腕を見込まれ、試しに
配信界隈にかつてない、大規模作戦である。
仮隊長は五万人近くの企画参加者をふるいにかけ、八千人弱まで厳選する。
残り四万二千人近くの冒険配信者は、参加賞として色紙に書かれたヒメや豆餅のサインを授けられ、満足げな顔で故郷に帰っていった。
「ねえ隊長、ヒメや豆餅には普通に話しかけてくれて良いからね?」
『作戦の時の情報伝達は、大事なのだ』
正式な隊長に就任した冒険者は、光栄です最小限に
「でも、隊長の
『何から何まで、隊長さんには助かるのだ』
隊長は八千人弱の大部隊に対し、自身の
推し活の楽しみ方や生き方を他者に強制するなど本来ならば
推しが困る、寄らぬべし。
推しが襲われる、守るべし。
推しが戸惑う、語りかけぬべし。
推しが悲しむ、我ら一人も死なぬべし。
昭和から令和にかけて、近代国家の軍隊における部隊規模は六十から二百五十人を中隊とされた。
三百から千人になると大隊、五百から五千人の兵が合わされば連隊になる。
それを
四つの固い掟が制定された南方測量旅団が、発足。
*
伊能忠敬アール・ティー・エー、その出発前夜に三人は
「拙者は北回り、おぬしらは南回り、
「ヒメ伝言頼まれたんだけどさぁ、終わったら武蔵と手合わせして欲しいんだってー、隊長ー」
「隊長の奴、
五万人を超える企画参加希望者。
その動線は何も、配信からだけではない。
北一直線百八次の際に十の町を越えた頃、考えてみると寝起きに
そこで、腕に覚えのある者を集め
ついでに武蔵が見込んだ者達を〝はじまりの街〟へ誘導したのである。
「少しでも全力に近い力で、戦えればいいのだが」
「でも武蔵、
「隊長、俺んとこにもしつこかったんだよ。今度、会ってやってくれ武蔵」
思い付きで開始した〝手合わせ配信〟の初回は、放送事故スレスレの内容だった。
反省し学習した武蔵は以降、通常の百分の一や……相手によっては千や万分の一の
一方の隊長は武蔵と戦える各地の
「さて、十七日だな。おぬしらも死力を尽くせ」
「大丈夫かなぁ。でも、いつまで! って決まってる方が燃えるよねー」
「ったく、生き急ぎ過ぎなんだよテメエらは」
十七年かけて日本測量を終えたと伝わる伊能忠敬を意識した宮本武蔵は、十七日で異界の〝国〟測量完了を目標として打ち立てた。
「遠き地に
「ヒメ終わったら温泉ってやつ行ってみたーい!」
「エルフ、部隊全員が
南方測量旅団にヒメとセツナが加わり、はじまりの町から南への遠征。
単身で再び北へ挑む宮本武蔵。
相当数の超長距離でも身分パネルを使った連絡や
*
伊能忠敬の限りを尽くす
南方班、さながら江戸時代の〝
運び
選りすぐりの数千人を超える部隊の中で、
武蔵に
町に突然押しかけてくる数千人規模の冒険者に驚いたり嫌がる住民はほとんど居らず、むしろ憧れの配信集団滞在を喜び多くの食料や浴場が解放された。
「おぬしら、そうも長時間……拙者だけを見て
北方班、武蔵たった一人。
セツナに教わった測量や書き込み作業を行う関係で、北一直線百八次の時よりも自ずと立ち止まる時間が増える宮本武蔵。
テレビもなく、ラジオもなく、車もそれほど走らぬ異界。
楽器があまり普及せず飲食店も〝はじまりの街〟より乏しい、北方のとある町のはずれ。
年老いた老婆と
*
「またしても例の、人によく似た
『ヒメそれ教えてもらったよ、
『ボク達のいる南方測量旅団の冒険者さんの中にも、
そして、そうした
『ふむ、ヒメは普段このような気持ちなのだな。拙者も新鮮である』
「次のお題はぁ、ヒメが
『街のみんなも旅団の冒険者さんも、どんどん参加して欲しいのだ』
変わり種、ヒメヒメチャンネルを
普段とは逆に大きく映し出されるヒメと豆餅、右上の小さな
ヒメの思い付きで開始した、
「最後は、拙者と〝速さ〟で勝負だな」
『ヒメ達の南旅団、測量しながら
『武蔵お兄ちゃんも、ボク達の南方測量旅団のみんなも、どっちも頑張れなのだ』
目標として定めた十七日ぴったりに、行ける範囲全ての〝
宮本武蔵も南方測量旅団も、全力で伊能忠敬の限りを
後は、はじまりの街で合流するのみ。
帰路で立ち寄る街は必要最低限という流れから、ヒメが新たな企画を生み出した。
北と南、どちらの者が先に開始地点に到着するかという走力勝負は、当然ながら北が圧勝。
何故なら、その男は宮本武蔵だからである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます