嘘つきの君は明日から嘘をつかない

学生作家志望

本当

「俺はギターが弾ける」


「………またしょーもない嘘。」


「じゃあこれはどうだ?俺はバイオリンが弾ける!」


「バイオリンなんてお前の家にないだろ。それに、あんなボロアパートで弾いたらクソめーわく。」


「それはギターも同じでしょ」


「だからどっちも嘘……」


「そんじゃあさ、来月の2日に雨降るって言ったら信じる?」


「それは今日が雨だから言ってんのか?今はわかんないよ。だから信じれない」


「でもこれなら、嘘じゃないって言いきれないでしょ?」


「それは………そうだけど。」


「あ!もうこぉんな時間かよぉ、また明日かいしゃでなあー」


「急に帰るんだな、」


「あっばよー」


土砂降りの雨の中、傘もささずに手に持ちながらここからじゃ遠い駅に歩いて進んで行った。


「あいつ電車間に合わないなあれ。俺は優雅に帰ろっと」


はっきり言って、あいつは馬鹿だ。俺も人のこと言えないくらいの馬鹿なんだけど、あいつはそれ以上のばか。あいつを雇った会社がすげえと思う。人事の見る目を疑ってしまうね。


でも、あいつが居たからこそパワハラを受けても平気とは言わないけど、平気を気取るくらいの余裕は生まれるわけだ。


あいつと関わっていてだるいことはシラフの時と飲んでる時との差が酷いこと。これだけはまーじでだるい。今日も今日とて意味わからない冗談とか嘘ばっかりだ。最後なんて意味わかんない会話だったからな。


はー。明日もだりぃー。


 ◆

「すいません……体調が悪くて。」


「ざけんなよ!何でお前が休むんだよ。お前の仕事まだまだ残ってんだけど。どうすんの。言ってよ、どうすんの?」


「えーっと………」


「えーっとじゃなくて、ちゃんと質問に答えろっていつも言ってんだろうが。もうお前すぐこい。はやく。」


「いや、あの。あの!」


ブチッ


必死に叫ぶ俺は、その電話が切れるたった一度の音で声が出なくなってしまった。


「無責任すぎだろ…」


あいつの連絡先はあいつが居なくなった今でも消せていない。


12月1日、あいつとの飲みが珍しく行われなかった夜に、あいつから突然電話が来た。普段電話なんか絶対にかけないようなあいつからの電話。何かあったかと思うのが普通かもしれないが、俺がその時覚悟したのはまたしょーもない嘘を聞くことだった。


「もしもし。どしたー」


「俺もう無理だわ…ごめん。死ぬから。」


「はぁー?何言ってんだよー。今夜中の23時だぞー?そういう嘘はせめて飲んでる時にしろよ。」


「俺は今、飲んでない。本気だ、信じろとは言わないが、嘘じゃない。」


「…いや、は?w」


「俺は、ずっと準備してきたんだわ。この日のために。ロープとか、踏み台とか。」


「お前今日飲んでないのか?」


飲んでない。俺はこの言葉に引っかかった。


「飲んでないけど、これから飲むよ。お前と俺が大好きな安い缶ビール。」


「なあ…お前、酔って、ない、のか?」


「だから、言ったじゃん嘘じゃないって。」


ゴクッ


ブチッ


二つの音が重なった。何かを飲み込む音と、電話の切れる音。


12月2日

あいつは自殺したんだ。首にロープをくくって。


それを知ったのはクソ上司からの連絡だった。あいつが自殺した。たったそれだけのメッセージだった。


俺が何度もメッセージを送ったり、電話をしたりしてみるが、あいつは一度も反応を示さなかった。


ギィ


いつもよりなんだかどんよりしているな…


ジャー


あれ?今日の天気予報、晴れだったよな。


なんで土砂降りなんだ…?


俺は傘もささずにここからは遠い駅に歩いて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘つきの君は明日から嘘をつかない 学生作家志望 @kokoa555

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ