三十日後に会おう

「だあーっ! お前はオレの母ちゃんか!?」

「でも勇者さまのことが心配で……」


「まあ、その気持ちはわからんではないの。勇者イリスこやつと来たら見るからに情けなさそうじゃからの」

「お前に言われたくねー!」


 けらけら笑うルーヴェンディウスにイリスが突っ込んだが、メリアの心配顔は変わらない。だから――


「お前はお前のやるべきことをやれ。オレはオレのやるべきことをやる。それだけだ」

「はい……でも心配です……」


 イリスはどう見ても十歳児だ。イリスが知る限り、世界の治安は相当悪くなっている。かつて盗賊に襲われ、彼女に助けられた経験を持つ身としてはメリアの心配が痛いほどよくわかる。

 だから、リリムが一歩前に出た。


「イリスさん、これを」

 リリムの手のひらには彼女の髪の色と同じ、燃えさかるように赤い宝石を加工したネックレスがあった。


「これは……?」

「わたしが普段使いにしている装飾品です。今、力を込めました。念じて投げれば一度だけ大爆発を起こします」

 リリムはイリスにそれを掴ませた。


「…………アクセサリって柄じゃないが、ありがたくもらっとくよ。サンキュ」

 イリスはそれを首に付けようとしたが、ネックレスなど付けたこともないのでうまく行かず、代わりにリリムがつけてやった。飾り気のないが整った幼い顔にそれは意外なほどよく似合っていた。


「これもやる」

 続いてイリスの前にやってきたのはフェンだ。

 その手には白い毛の塊が握られていた。


「これは?」

「ぼくのこの部分」

 そう言いながらフェンは自分の首筋を撫でた。


「これがあれば多分、獣や魔物は寄ってこない」

 ん、とフェンはイリスに自分の体毛を差し出すが、それだけをもらっても身につけようがない。仕方ないのでリリムが手持ちの巾着袋に入れて渡してくれた。


「お守りみたいだな」

「似たようなものです。わたしの加護も加えておいたので、効果倍増ですよ」

「そりゃ、助かる」


 イリスはフェンのお守りを受け取り、懐に入れ、メリアに向き直った。

「これくらいあればちったあ安心できるか? なんつったって魔王サマのお墨付きだ」


「……そうですね。仮にも魔王です。わたしに変わり、きっと勇者さまを守ってくれるでしょう」

 それまで曇っていたメリアの表情が少しだけ和らいだような気がした。


 それを確認できたので、イリスは皆に向き直った。

「それじゃ、行ってくるわ」


「こちらは任せてください」

「いってこい」

「お気を付けて、勇者さま」

 イリスが手を振ると残る三人はそれぞれの別れの言葉を述べた。


 そんなイリスの後ろからルーヴェンディウスが抱きついたかと思うと、その腰からコウモリの羽根が出現し、ふわりと浮かび上がった。


「ではの、リリムたん、皆よ。三十日後に会おう」

 そう言い残してルーヴェンディウスとイリスは島から飛び去っていった

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