ちんちくりんのまま
「イリス、逃げて……!」
元に戻ったリリムの第一声はそれだった。リリムは大きく振りかぶった手に持った剣を勢いよく振り下ろした後、数歩歩いた後、状況の変化に気がついて周囲を見渡した。
「ここは……? “神”は? 世界は?」
その問いに答えがもたらされるよりも前に、リリムは背後からの気配に振り返る。
「リリムた――――――――ん!」
小さく軽い、そして邪気のない突進にリリムは対応できず、思わず抱きとめた。リリムに抱きとめられたルーヴェンディウスはそのままリリムの胸に顔を埋めてぐりぐり動かしている。
リリムはこれ以上ないほど嫌な顔をしてイリスの方を見た。
「まあ、気持ちはわかる。オレもこの状態だからな」
同じく嫌な顔をしているイリスが言った。その十歳児相当の身体には赤白のドレス姿の少女が纏わり付いていた。
「勇者さま勇者さま勇者さま勇者さま勇者さま勇者さま勇者さまぁ――」
イリスを後ろから抱きしめ、その黒髪に顔を擦りつけている女騎士――一足先に蘇生された勇者の仲間・メリアのその姿は、とてもかつて西大陸を支配した王国の姫には見えない。
それを見てリリムの肩が少しだけ軽くなった。
「なるほど……。だいたい状況はわかりました」
場所を小屋の中に移し、イリスとルーヴェンディウスがこれまでの出来事をかいつまんで話して聞かせた。
ちゃぶ台の上には人数分のお茶とお茶請けが置いてある。この五年間でイリスもすっかりお茶の淹れ方がうまくなった。……他人に淹れるのは今日が初めてだったが。
“神”によって世界が支配されていること。その“神”によって新たな争いの火種が作られているということ、ルーヴェンディウスが五年の歳月をかけてこの場所を探し当てたこと――
「五年も……そうですか……」
肩を落とすリリムの手を銀髪の少女がそっと掴んだ。
リリム達と同じく小屋の近くで塩の像から蘇生された巨大な狼の化身・フェンだ。
フェンはリリムが困るといつもそうしてくれた。今回もフェンのおかげで少しだけ気分が晴れる気がした。
「しかし――」
リリムは辺りを見渡した。その光景は五年前に“神”と対峙し、破れた時とほとんど変化がない。リリム、フェン、メリアの三人は塩にされていたので理解できるのだが――
「五年経ったのにあなたはほとんど変わりませんね、勇者イリス」
「ちんちくりんのまま」
リリムとフェンの言葉にイリスは「うっ」と胸を押さえた。イリスはかなりの精神的ダメージを受けたようだ。
「勇者さまはこのままでいいんです! ずっとかわいいままなんです!」
「お前、復活してからキャラ変わってないか?」
イリスがメリアをジト目で見るが、悔しいことにリリムの言う通りなのだ。
「見ての通り、オレは五年間ずっとこの島にいたがこの通り、全く成長しやがらねえ。“神”のヤローに押しつけられた身体だからそうなのか、別の原因があるのかしらねーけどな」
イリスは日本では二度の世界チャンピオンに輝いた事もあるプロゲーマーだったが、この世界に来たときに“神”によってこの十歳児にしか見えない幼女の肉体を与えられ、以降そのままなのだ。
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