第22話 窓の外

 発掘図書が何の使い道もない魔導書だと判明したあと、私はレポートを作成していた。書庫の肥やし以外の用途がない魔法だとしても一応記録は残して置かなくてならない。司書として。まあ、いいけど。


「……マリア、書式に何か指定はある?」

「一応、行政文書の体裁でお願いします」

「ん、了解」


 私は王都で使っていた書式を思い出しながらペンを走らせた。このペンは卒業祝いにスピカがくれたもので六年前から愛用している。ペン先は何度か替えなければならなかったが軸の部分は非常に丈夫で殆ど痛んでない。私なんかにはもったいないぐらいの良品である。


「作成者、アンナ・ザハリアス、作成日、六月二十九日……、件名、十三号図書に関する報告、と」


ここまで書いて筆が止まった。さて、何と書こう。素直に魔力伝達術式として記録しても良いんだろうか。実際、先ほどマリアに説明した通りの効果しかない。そして、類似の効果を持つ魔法陣なら、もっと使い勝手のいいやつもある。もし、下手に上や関係各所の興味を煽るように書いてしまったら、面倒になるかもしれない。具体的には蔵書のやり取りとか、さらに精密な報告とか。じゃあ、どうする。たいして価値のない術式と書けばいいのか?しかし、術式の具体的な内容を書かねば追加報告を求められるかもしれない。……いや、私の所感を除いて事実だけを記述すればいいのか?だが、クラス評価はしなければなるまい。難易度的にはⅢCかⅡAぐらい。しかし、術式の構築が難しいだけで効果はクラスⅠAどころかⅠCぐらいだ。間をとってⅡBとするか。本当にどうしよう。いっそ、魔法協会に鑑定を依頼してしまおうか?だが、クソ高い鑑定料を取られるに決まっている。しかも、こんなしけた術式では報奨金も出ないだろう。クラス評価をできるのに、しなかったと、政治的な攻撃を誘発してしまうかもしれない。どうしよう。本当に何もかも使い道のないあのクソ魔導書のせいだ。魔法式の構築難易度は高いくせに、効果は練習用の初級魔法よりもない。だが、構築難易度のせいでクラス評価の値は跳ね上がってしまう。……一応、ガイドラインでは総合値で判定することになっているが、今回は効果値だけで評価を出してしまうのが良いかもしれない。どの、部分を主要な評価項目にするかは評価者の裁量だし魔法大全に登録するのでなければとやかく言われることもあるまい。


「魔法式種別、魔力伝達術式。クラス評価、ⅠC。魔法効果は極めて一般的な範囲にとどまり、見るべきものはない。しかし、術式の構築には相当の技量が要求される、と」


カリカリと、原稿用紙に報告を書き進めて行く。まったく、なんであんな価値のない術式のために私が時間を割かねばならないのか。私は天を仰いでため息を吐いた。窓の外には青空が広がっていた。

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