第49話【ノスターは】怪しげな影はいかにも怪しい【鈍感のようです】


「ほら、いなりとおんなじだぞ〜?」

「…?」


 白い狐のぬいぐるみを彼女に渡すと、彼女はそれを不思議そうに抱え、興味深そうに眺める。


 微妙な反応であったため失敗かと思ったが、偽装の指輪で隠れた9つの尻尾はわさわさとせわしなく動いており、嬉しそうではあるので大丈夫そうだ。


 ぬいぐるみというものを初めて見たため困惑している、といった感じだろう。

 

「よし、次行こう」


 彼女の手を取り、足を動かす。時間は有限である。この時間は彼女に最大限外の世界を見せてあげねば。


 俺抜きで天使を外に出すには行かないからな…

 

 そんな俺達は今、デパートのゲームセンターコーナーに来ていた。


 理由としてはいなりが興味を示したためである。


 今日は彼女のお願いを叶えるということなので、どこに行くかは彼女に任せている。


 動物が元になっている彼女がうるさいゲームセンターに興味を示したのは意外だったが、何か惹かれるものがあったのだろう。


 ウロウロとゲームセンターを歩く彼女は普段より少しだけ楽しそうであった。


「つぎは、こっち」


 そう言い彼女は、フードコートへと俺を引っ張っていく。


(まだ食うのか…)


 先程寿司を80皿以上食べたとは思えない足取りである。


 獣天使は食事が必要なのは知っているがあまりにも食べすぎだ。何か特別なエネルギー変換能力でもあるのだろうか。とても興味深い体である。


「あるじ、あれと、あれも」


 そうして、彼女は目についた食べ物をどんどんと要求してくる。


「……おい、見───あれ」

「─が…ええ?」

「ドー───の山──んか…」

「爆──の準─はできたか?」

「───だろ?ラーメン──目じゃん…」


 テーブルに座り、俺が持ってくるものをパクパクと食べていく彼女を周りはきれいに二度見し、驚愕の表情で何かを呟いたりしていく。


 そんな彼女が大食い界隈の期待の幼星としてSNSで噂となるのは今から30分後という近い未来の話である。



………………………………


……………


……



「雷帝様。こちらは?」

「ん?それはたい焼きよ。見たことないのかしら?」

「たい焼き…こちらも食べ物でしょうか?」

「えぇ、一つ食べてみる?」

「………いえ、必要ありません」

「そう。欲しくなったらいつでも言ってね?」


 千麻とルエルの二人は、デパートの中を目的もなく歩き回りながら進んでいた。


 起きる会話はルエルが気になったものを千麻に聞き、それを千麻が答えるというものの繰り返しであった。


「雷帝様。あれは何でしょうか?」

「あれは、最近テレビで放送されてるヒーローのショー…って言ってもわからないかしら?えーっと…演劇で大丈夫かしら?」

「演劇…?」

「演劇もわからないのね。簡単に言えば、小さな子ども達を楽しませるイベントって感じかしら?」

「……幼児を楽しませる…」


 彼女はその言葉を聞いたあと、少しの間沈黙する。


 一切の変化のないその表情の中、瞳の奥には、おかしなものを見る、くだらないと言わんばかりの冷めた目でその景色を見つめる彼女に雷帝は少しだけ違和感を覚えた。


(………気になるわね)


 人間とは違う感性を持っているようだと彼女は感じる。


 ノスターに聞いたところ、何万年前の記憶があるようだが…おかしな話だ。何万年前に機械などあるはずもないし、まずこんな機械、今の人間ですら作れないだろう。


 天使というのは、何か深い闇がありそうだと、彼女はそう考えていたのであった。


 そうやってルエルの向かう方向についていっていると、ルエルがぴたっと停止し、指を指す。


「ではあちらも演劇?と言うものですか?」

「あれは…………は?」


 ルエルが指を指した方へ、千麻は目を向ける。そこには…






























「動くな!このフロアは我々によって完全に占拠されている!!全員頭の後ろで手を組め!!もし抵抗する場合は…」


 探索者が一般的な存在となり、ステータスによって人間の能力が決まる現代において、ダンジョン内で使用できずモンスターにも通用しない、それによって無用の産物となり、製造と流通が極端に減った黒い筒…


「即射殺する!!!」


 つまり、銃という名の兵器を持った黒服の集団がそこに居たのであった。




………………………………


……………


……




「おーい、いなりー?まだかー?」

「ん…まだ、むずかしい」


 トイレの前で彼女を待つこと、1時間が経過した。


 どうやら獣天使というものも、その場で排泄などを済ますらしくトイレという文化はないようで、彼女は初めての洋式トイレにとても手間取っていた。


 三層は和式トイレしか設置していなかったのが間違えだったようだ。


(それに…なんか外が騒がしいし、さっさと出たいんだけど…)


 外で何かが起こったようで、先程悲鳴や人の走る音が絶え間なく聞こえていた。今は収まっているが、騒ぎが収まったというよりは人がいなくなったという方が正しいだろう。


 すると、ジャーっという音とともにいなりが外に出てくる。不機嫌そうな顔で尻尾を抱えており、とても手間取っていたのがよくわかる。


「できた!」

「おー良かったなぁ。んじゃ行くか」


 出てきたいなりに手を洗わせ、外に出る。するとそこには…


「逃げ遅れがここにもいるなんてな、動くなよ。お前たちは拘束させてもらう」


 いかにもテロリストですよと言わんばかりの服装の黒い服にガスマスクを身に着けた二人組の男が立っていたのであった。


「っと…ストップストップ。どぉどぉ…いなり。大丈夫だから落ち着いて」


 寸前、首筋をめがけて飛びかかろうとしたいなりを静止する。危ない…首を狩る気だったな。


 確か、前天猿種と戦ったとき、生首を嬉しそうに俺に持ってきたことがあった。


 流石にテロリストといえど、それを人間相手にやれば俺のダンジョンは超危険認定されることは間違いないだろう。


「何をしている!今すぐ手を上げろ!」

「あー、はいはい。これで大丈夫か?」

「よし。今から拘束するから、絶対に動くなよ」


 そう言うと、片方は銃を油断無くこちらに向け、そして周囲を警戒し、もう片方が縄を持ってこちらの方に近づいてくる。


「あ、彼女は俺が拘束してもいいか?この娘、他の人に触れられるのが大の苦手で…」

「ん?………構わん。だが、もし拘束が甘かったら、まずはお前からだぞ?」

「そんなことしないよ、それにこんな幼い子に何ができるって話だろう?」

「……ふんっ…ほら、さっさとしろ」


 そう言うと、男はこちらに縄を投げてくる。


 ふむ…ここはおとなしく捕まっておくか…


 ここで強襲する、もしくはいなりを嗾ければ普通に勝てそうな気もするが、そこまでする必要もないだろう。こんな東京のど真ん中のデパートでのテロなんてすぐに制圧されるだろうしな。


 俺はそう考え、いなりの手に縄を括る。


「ごめんな…?我慢してくれよ」

「わかった。いなり、まてる」


 手を拘束された彼女はまるで獲物を見るような目でじっと男達の方を見つめていた。


 これは我慢の意味が食い違ってそうである。


 そうして、俺も拘束され、俺達は彼らに連行されるのであった。

 

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