第31話【ダンジョン制作】ダンジョンの確認をしてみようと思う【31日目】


「サキ、しっかり教育はできた?」

「ええ、完璧よ」


 彼女の名前はサキ。元の名はサキエル。


 セミロングの海のように深い青色の髪と瞳、大人びた表情ながらも少し幼さの残る顔。


 青みがかった白い翼と水晶のような半透明の光輪。


 見た目年齢は14歳前後に見える。体は…可もなく不可もなくといったスタイルをしている。


 階級はなんと上位三隊の二番目、熾天使の次に位置する智天使である。


  今回の買い物の中でエリクサーと並ぶDPで召喚した期待の新天使だ。


 彼女の仕事はカジノの運営、そして第一層全体の管理である。


 治安維持や天使の動き、見回りのルートなどは全て彼女に任せている。理由としては俺より頭がいいから。というか天使はみんな大体俺より頭がいいので、俺が考えるよりも天使が考えたほうが効率も良く穴もないのだ。


 能力はこんな感じだ。


⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

 名前︰サキ(サキエル)

 詳細︰水を司りし智天使

 能力︰大洪水

 消費︰500,000DP

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯


 正直ダンジョンで使い道があるかは微妙で使い勝手は悪そうだと勝手に思っている。水というものは使い道も多いので当たりではあるのだろうが、流石に大洪水がダンジョン内で起こったら敵味方関係なく呑み込まれそうだ。


「とりあえず、全員の教育は間に合わせたけど…どうなるかは客が来てからね」

「まぁ、ディーラーの本領は対人戦だもんねぇ」


 召喚してから数週間、彼女にはトランプなどのギャンブルのルールと、客からの搾り取り方を軽く教えた。


 ネットで拾えるような本当に基礎中の基礎を教えただけなのだが…今までゲームというものすら知らなかった彼女に俺は三回目から勝てなくなってしまった。


 うん、強すぎ。


 しかも、教えてないはずのイカサマすら当然のように行うのだから、天使というものはハイスペックにもほどがある。しかも能力や天使としての身体能力を活かしての圧倒的なイカサマは人間では見破ることは不可能であった。解説されるまで気が付かなかったしね。


 ルーレットすら狙ったところに入れれるんだからもはや未来が見えているとしか思えない。


 もうチートや!チーターやろそんなん!なんて叫びたいくらいである。


 とはいえ、俺は挑む側ではなくいどまれる側でもない運営側、つまり勝ち組だ。こんなレベルの強者がいるのであれば勝ちや負けの操作も自由自在。勝たせて、負けさせ、じわじわと搾り取る…


「くくくっ…勝てばよかろうなのだァァ!」

「……?」

「ん?あーいや、何でもないよ」


 そんな俺の様子を見て不思議そうな表情をするサキ。


 妄想が少し発展しすぎたな。気をつけなければ…


「あ、そういえば、もうアズリーのところには行ったのかしら?」

「ん?いや、まだ行ってないけど…」

「それならこれを持っていってはくれないかしら?前、ここの天使達との練習に付き合ってくれたお礼なのだけれど…」


 そう言い、一本のワインを渡される。


「これは…シュエルの酒か?」

「えぇ。彼女、このお酒をとても気に入っていたようだから…」

「おっけー。今から渡しに行くよ」


 シュエルという大天使が生み出した神酒と呼ばれるお酒。カジノの中にあるBARで働いてもらっているんだけど…今はいないようだ。確かオープン記念をすると聞いたし、カジノ内も数名が掃除をしているだけなのでオープン記念に向けて裏で準備でもしているのだろう。


「それじゃ、準備の邪魔をするのも悪いしそろそろ失礼するよ」

「あら、もう少しいてくれてもいいのだけれど?」

「そんなこと言って、俺から持ち物全部搾り取る気だろ…」

「ふふっ…そんなことないわよ」


 練習に付き合っていたとき、途中から何か賭けたほうがリアリティがあるということで負けたら持っているものを一つ相手に奪われるという形で勝負をした。結果はさっきも言った通り当然のように負けた。


 15戦3勝12敗…これが俺の戦績である。最初の5回は特に賭けもしていなかったので、ただただ10回持ち物を奪われただけである。パンツ一枚で部屋に帰ることになるとは思わなかったねっ!


 俺の配下、しかも天使と言うはずなのに、こんなにも遠慮がないなんて。


 あの日、もうギャンブルはしないと、帰り道に涙を浮かべながらそう心に誓ったのである。


「そんじゃまた明日、よろしくね〜」

「はい。それではまた明日」


 綺麗なお辞儀で俺を見送る彼女に手を振りカジノから出る。


 さて、最後に向かうのはアズリーが調整している二層だ。


 三層以降?一切手を付けていないに決まっているだろう。今の所二層以降に行かせるつもりはないからな。


 理由は一層と二層に本気で取り組んだからである。他の層を作っている暇などないのだ。


「……すみませーん…アズリーさーん?いらっしゃいますかー?」


 階段を下り二層に入って名前を呼ぶ。すると…


「はいはーい、すたーさん。どうかしましたかー?」

「おっ、今日は普通に出てきてくれたか…」


 アズリーは通路の方からこちらに歩いてくる。


 彼女はなんというか他人を脅かすのを楽しんでいるフシがあるのだ。彼女の能力である霊魂操作には何度も驚かされた。本当にやめっっ!!!?!!?


 普通に向こうから歩いてきたアズリーに油断した瞬間、目の前にとんでもなく怖い顔の女の霊が現れる。


「アズリー!こういうのはやめてくれって…あれ?」


 そう彼女に向かって言うが、さっきまでいたはずの場所に彼女はいない。一体どこにぃっ!?


「ふぅっー」


 背筋が冷える。


「ふんっ!」

「あたっ!!」


 とはいえ、俺もやられてばかりではない。振り向きざまに彼女の頭にチョップを入れる。


「アズリー!普通に出てきてくれって言ってるだろ!」

「心外ですねー?私はいつも普通に登場してるじゃないですかー」

「幽霊を目の前にバンッ!ってして驚かせて、安心した俺の首元に後ろから息を吹きかけるのを普通というのか?」

「えへへー。そんなことより、今日はどうかしましたかー?」

「はぁっ…一応明日がダンジョンのオープンだからな。挨拶がてら全体を見回ってるんだよ」

「なるほどー…で、そのお酒は何でしょうか?」


 お酒?あぁ、これか…彼女に渡すように言われていたものだが…普通に渡すのはちょっと癪だな。


「これか?明日の英気を養うために、サキとシュエルにもらってきたんだよ」

「そうなんですかー。では私もご一緒して…」

「駄目だ。いい加減今までの行いを反省しなさい」

「そんなぁー薄情者ー!」


 俺がそう彼女を切り捨てると、彼女は床にぺたりと座り込み、悲しそうな顔でめそめそと泣くふりをする。


 まあ、こんなもので許してやろう。


「……てのは冗談で、この酒はサキからお礼としてアズリーにだってさ」

「え!?本当ですか!?いやぁ!やっぱり持つべきものはサキちゃんですね!」


 すると、彼女は今までののんびりとした口調が嘘のように早口で喋りながら俺が持っていた酒をひったくる。


 敬意が足りないな、敬意が。一応俺君たちの主なんだけど?


 少し不満はあるが…まあ天使同士の仲がいいことは悪いことではない。


「それで、二層はどんな感じだ?」

「お宝も言われた通り設置しましたし、天使の徘徊ルートも大体決まりましたよー。ちゃんと殺さず無力化して転移罠に叩き入れるよう教え込みましたしー」

「叩き入れるって…」


 言い方は物騒だが、二層の天使たちの教育にはフラムにも手伝ってもらっている。多分大丈夫だと思いたい。


 二層のリーダーはアズリーで、二層の防衛をする天使は大天使3名、鎧天使20体である。


 上位の天使を召喚しなかったのか?と思う人もいるかもしれないが、俺は彼女が適任だと感じた。


 彼女の霊魂操作で呼び出した幽霊は、彼女の意思を完全に理解して動く配下であり、ダンジョン内の全体の状況を把握でき、宝箱の中身を補充し、トラップを意図的に作動させ、幽霊にカメラを持たせてダンジョン内を撮影したりなど、色々なことが可能であった。


 それだけできるのであればリーダーとしての資格は十分だ。今必要な能力は、最強の力でも激強能力でもなく、ダンジョンを効率よく動かすことができる管理能力である。


 ということで彼女に任せたのだが…少し間違えたかもしれない。


 彼女は脅かすのがとても好きらしいのだが、その影響か二層はまるでお化け屋敷のような層になってしまった。


 彼女の部下になった大天使3名も脅かすのを楽しんでいるようだし…別に悪いことではないが、よく俺のことも脅かしに来るのでそこが少し困りどころである。


 探索者に興味が移ってくれることを期待しよう。


「それじゃ、俺は用事があるから、さっさと帰るよ」

「え?一緒に飲んでいかないんですかー?」

「ああ、ちょっと予定があるからな」

「……そうですかー。ではまたー」


 俺がそう断ると彼女は特に気にした様子もなくふっとその場から消える。


 次は俺も一緒しよう。あれ美味しいし…


 そんなことを考えながら部屋に帰ると、そこにはフラムとルエルがマナを囲んでいた。


「……何してるんだ?」


 喋らず、ただじっとマナを見つめている二人にそう聞く。


「いえ、特に何もありません」

「はい。問題はありません」


 うーん…やはり別の神話の存在同士、何か感じるものがあるのだろうか?


 とはいえ喧嘩もしてなさそうだし、放置で問題ないだろう。さて、今のDPは1,000,000。FWは880,000超え。そしてダンジョンを運営する準備は整った。


 そして明日は、人間をこのダンジョンに迎え入れる。


 そのときに、彼らの心をつかむ必要があるのだ。


 数人、数十人程度ではない。数万人、いや、世界中の探索者が心惹かれる何かを用意しなければならないのだ。


 当然、天使である皆を見せれば大勢の人々が一目見ようと押しかけてくるだろう。エリクサーや生き物を生み出せる意思疎通が可能な人間が運営するダンジョンというのも国が動くレベルになるはずだ。


 だが、それで満足するわけにはいかない。


 探索者だけでなく、世界中のニュースを独占し、老若男女、幾億の人々の興味を得る方法…



 




























1:ノスター@ダンジョンマスター:

新たな熾天使を召喚するので安価で選ぶ

>>100

この三人の中から選んでくれ


 それは、人前での天使召喚である。


──────────────────────

以外特に本編に関係のないあとがき


ということで次の話で熾天使を募集したいと思います。投票よろです!


今回名前のみの登場となりましたシュエルさんはサキ視点のストーリーで登場させると思います。外見はまだ未定ですがご本人さんの願いがあればそのようにしたい思います。

とはいえキャラかぶりは避けたいと思いますので最終的にどうなるかは不明です。

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 名前︰シュエル

 詳細︰酒を司りし大天使

 能力︰神酒醸造

 消費︰100,000DP


お酒大好きなお酒を作る大天使

見たことのある酒であればその場で作り出すこともでき、相手のお酒の好みの種類や味を当て、それを作ることができるというバーテンダー向きの特技を持っているが、見抜く力は能力に関係はないただの特技である。

カジノのBARで働いている


オリジナル天使 @ury さんより

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